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事件 平成 13年 (ワ) 12757号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 リックス株式会社
訴訟代理人弁護士 古海輝雄
補佐人弁理士 今村定昭
被告 有限会社デュブリン・ジャパン・リミテッド
訴訟代理人弁護士 鈴木正貢
同 達野大輔
同 渡邊由美
訴訟復代理人弁護士 酒井剛毅
補佐人弁理士 清水千春
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/09/11
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件説明書及びロ号物件説明書記載の各物件を輸入し、販売し又は使用してはならない。
2 被告は、原告に対し、金2億円及びこれに対する平成13年10月16日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、被告によるイ号物件説明書及びロ号物件説明書記載の各物件の輸入販売等の行為が、原告の有する実用新案権を侵害するとして、原告が、被告に対し、同実用新案権に基づく前記輸入販売等の差止めを請求するとともに、民法709条、実用新案法29条1項に基づく損害賠償を内金請求した事案である。
(基本的事実) 1 原告は、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」と、本件実用新案権に係る明細書を「本件明細書」という。)を有している。
登録番号 第2127199号 考案の名称 ロータリジョイント 出願年月日 平成2年9月4日(実願平2-93207) 登録年月日 平成8年7月15日 実用新案登録請求の範囲 本判決末尾添付の別紙実用新案公報(甲2。以下「本件公報」という。)該当欄請求項1記載のとおり。
2 本件考案の構成要件を分説すれば、次のとおりとなる。
A 内部に回転側流路が形成された回転管軸と、内部に固定側流路が形成されたフローティングシートとを備えたシールジョイント部がジョイントボディの内部に形成され、
B 前記回転管軸は、内部に回転側クーラント液流路が形成されたスピンドルの後端部に固定されると共に、内部の回転側流路が前記回転側クーラント液流路に連通され、かつ回転管軸の後端面が回転側シール面に形成され、
C 前記フローティングシートは、内部に固定側クーラント液流路が形成されたジョイントボディに軸方向に摺動可能に支持されると共に、内部の固定側流路が前記固定側クーラント液流路に連通され、かつフローティングシートの前端面が固定側シール面に形成され、
D 前記フローティングシートが前方向に摺動して固定側シール面が回転側シール面に当接することにより、固定側流路と回転側流路とが接続されるロータリジョイントにおいて、
E 前記回転管軸がジョイントボディに対して軸支部を持たない片持状態で、
前端部がスピンドルの後端部に固定されている F ことを特徴とするロータリジョイント。
3 被告は、平成8年1月ころから、別紙イ号物件説明書及びロ号物件説明書記載の各物件(上記各物件説明書記載の物件は、それぞれ「構成1」の態様のものと「構成2」の態様のものがあるので、以下、それぞれ「イ号物件」、「ロ号物件」の各「構成1」、「構成2」といい、一括して「被告製品」ともいう。)を輸入し、販売し又は使用している。 (争点) 1 本件考案の構成要件E「スピンドルの後端部に固定され」の充足性等 (原告の主張) (1) 「スピンドルの後端部に固定され」とは、ロータリジョイントの回転管軸がスピンドル等の後端部に固定されていることを意味し、ロータリジョイントの回転管軸が、スピンドルの後端部に直接固定されている場合に限らず、(スピンドルに取り付けられてこれと同体に回転する)ドローバー、モーターシャフトの後端部に固定されている場合を包含する。すなわち、
ア 本件の技術分野における「固定」とは、ある物体を他の物体に対して相対運動しないようにすることであり、両者があたかも1個の物体であるかのように共に運動し又は運動しないことをいう。本件では、ロータリジョイントの回転管軸と工作機械のスピンドルとの間に、ドローバーやモーターシャフトが介在しても、それぞれを結合することにより、これら3個の物体はあたかも1個の物体であるかのように共に運動し又は運動しないのであるから、「固定」されているといえる。
イ ロータリジョイントは、工作機械のスピンドル、ドローバー、モーターシャフトに取り付けることを前提として設計、製造されるものであるが、実際の流通過程においては、前記スピンドル等に結合した状態ではなく、それ自体が1個の商品として流通するものであるから、本件考案技術的範囲も、このような流通の実態に即して解釈すべきである。被告の主張(1)イで指摘された本件明細書の記載をもってしても、ロータリジョイントの回転管軸がスピンドルの後端部に直接固定されることに限定解釈する根拠となるものではない。
ウ 被告の主張(1)ウについて反論すれば、被告の指摘する別件特許出願(特開平4-191587号公開特許公報、乙7)の記載内容は認めるが、これを本件明細書においても同義に用いなければならない必然性はない。
(2) イ号物件及びロ号物件のうち、スピンドルに固着された各構成1はもとより、スピンドル以外の部品に固着された各構成2も、前記構成要件を充足する。仮に各構成2につき文言侵害が成立しないとしても、各構成2において本件考案の構成要件と異なる部分は「(スピンドルではなく)モーターシャフト等の後端に固定され」という部分であるところ、最高裁判例の示す均等論の要件に照らせば、均等論により、やはり本件考案技術的範囲に属する。
(被告の主張) (1) 構成要件Eにいう「スピンドルの後端部に固定され」とは、ロータリジョイントの回転管軸がスピンドルの後端部に直接固定されていることのみを意味する。すなわち、
ア スピンドル(旋盤・ボール盤などの工作機械の機械部品の一つで、軸端が工作物又は切削工具の取付けに用いられる回転軸、乙3)は、モーターシャフト(スピンドルを回転させるモーターの主軸)やドローバー(切削工具の取替えを容易にするためのクランプ機構を実現するために取り付けられている部品、乙5)とは、その構成、目的、作用において全く異なる部品であって、これらの部品の存在により、ロータリジョイントの回転管軸の取付け位置が異なることは明らかである。
イ 本件明細書考案の詳細な説明欄の「考案が解決しようとする課題」の項には「回転管軸に軸支部を設けない構造とすることで、スピンドルの後端部から突出する回転管軸の後端側の長さを短くすることができ」とし、「課題を解決するための手段」の項でも「前記回転管軸は、内部に回転管側クーラント液流路が形成されたスピンドルの後端部に固定されると共に」と記載され、これに沿う実施例の記載や図面もあるなど、本件考案は、ロータリジョイントの回転管軸がスピンドルの後端部に直接固定されることを構成要件としている。原告の主張(1)イについて反論すれば、実用新案権の登録請求の範囲の解釈に当たり流通の実態を考慮しなければならない根拠はない。
ウ 原告も、自らの「ドローバー用ロータリジョイント」に係る別件特許出願(特開平4-191587号公開特許公報、乙7)の特許請求の範囲で「前記回転管軸は、スピンドル内に軸方向に摺動可能に嵌挿されたドローバーの後端部に固定され」として、ロータリジョイントの回転管軸がドローバーに固定されている場合を同発明の構成要件としているのであるから、原告は、ロータリジョイントの回転管軸がスピンドルに取り付けられる場合とその他の部品に取り付けられる場合との記載を明確に区別して記載している。
(2) イ号物件及びロ号物件の各構成2は、ロータリジョイントの回転管軸が直接固定されるのは、スピンドルの後端部ではなく、モーターシャフト又はドローバーの後端部であるから、前記構成要件を充足しない。均等論に関する原告の主張は争う。
2 ロ号物件における本件考案構成要件充足性 (原告の主張) 被告の主張のうち、金属の高速加工により高温になっている超硬の刃先をクーラント液で冷却すると、熱衝撃による破損が生じることがあることは認めるが、
冷却方法としては、加工当初からエアー又はクーラント液で冷却するのが通常である。ロ号物件も、クーラント液を使用しての通常の冷却方法を実施できるのであるから、エアーで緩やかに冷却してからクーラントで冷却する構造であるからといって、本件考案構成要件充足性を否定することにはならない。
被告主張の別件特許(特許第3037900号、乙2)は、せいぜい本件考案の目的、構成、効果を包含した利用発明にすぎないから、本件考案構成要件充足性を否定する根拠となるものではない。
(被告の主張) ロ号物件は、その内部にクーラント液に加え、エアーも供給することが可能であるという新たな目的、構成、効果を有するものであり、本件考案とは全く異にするから、本件考案の構成要件を充足しない。すなわち、工作機械では、金属の高速加工により高温になっている超硬の刃先をクーラント液で冷却すると、熱衝撃による破損が生じることがあるため、ロ号物件では、これをエアーで緩やかに冷却してからクーラントで冷却する構造としている。また、この場合、クーラントによりシール面が潤滑されない空運転の状態でエアスルーがなされると、シール面の早期磨耗を招くことになるから、ロ号物件では、エアスルー時にはシール面をわずかに離すことにより、長期間の使用を可能にしている。この機能に関する発明は別件特許(特許第3037900号、乙2)として登録されてもいる。
3 明らかな無効理由その1-新規性欠如 (被告の主張) 本件考案は、1990年6月ころに日本に輸入され、使用されていた工作機械トランスファマシン(製品番号GM-3209)に部品として組み込まれたベアリングレス型ロータリジョイント(独デュブリン社製、品番KMZ36)と同一の構成を有する。したがって、本件考案は、本件実用新案登録出願前に日本国内において公然知られた考案又は公然実施をされた考案であって、本件実用新案権には無効理由(実用新案法3条1項1号、2号違反)が存することが明らかであるから、
その権利行使は権利の濫用であって許されない。すなわち、
(1) 株式会社ボッシュオートモーティブシステム(旧社名 ヂーゼル機器株式会社、株式会社ゼクセル。)は、1989年2月25日付け発注書をもって、GM-3209を同社東松山工場に導入することとし、1990年6月11日にその搬入を終え、同年7月20日までにすべての組立てを終え、同年9月11日にはその検収を完了した。なお、同検収完了日は本件実用新案登録出願日後であるが、本件においては、検収前に、立会検査がされ、搬入、機械の組立て、油圧配管、電気配線及び機械の本格稼働が終了していたのであるから、本件実用新案登録出願前に公然実施していたといえる。原告の主張(1)について反論すれば、独デュブリン社は、
当時既にKMZ36を一般に販売しており、同社との関係で、その内容を秘密にすべき事情はない。
(2) GM-3209の保守点検等は、株式会社ボッシュオートモーティブシステム自らが行うことになっており、同社は、各部品の図面を含む関係書類を入手していたから、その部品であるKMZ36の構造も熟知していた。また、保守点検や部品交換等のため、同社従業員であれば、KMZ36の図面を見ることは可能であったから、不特定の者に認知され得る状態にあり、現実に知られたものともいえるから、公然知られていたといえる。原告の主張(2)について反論すれば、前記工作機械は、工場内に搬入したパーツを1週間程度の時間をかけて組み立てられたものであるから、その過程で内部を知ることは十分可能であった。
(原告の主張) 被告主張のKMZ36の構成が本件考案の構成と同一であることは認める。
しかし、仮に被告主張事実が認められるとしても、本件考案が本件実用新案登録出願前に日本国内において公然知られた考案又は公然実施をされた考案であるとはいえない。すなわち、
(1) 検収完了日まではテスト期間中であり、売主にとっては、同期間内にトラブルが発生し、それが他社に漏れれば、当該製品の販売ができなくなるから、テストが成功し、検収が完了するまではテストをオープンにするはずがない。株式会社ボッシュオートモーティブシステムは、不特定多数の第三者が身分証明書なしで自由に工場内に入れるような所でもない。
被告の主張(1)について反論すれば、独デュブリン社が当時日本国外においてKMZ36を販売していたとしても、日本国内において公然知られたことにはならないし、従業員は就業規則又は雇用契約上の義務として会社の業務内容につき守秘義務を負うのが一般であるから、日本国内において公然と知られた状態とはいえない。
(2) 被告主張の工作機械において、KMZ36はそのごく一部分に存するものであり、外部からその構造を窺い知ることはできない。
4 明らかな無効理由その2-進歩性欠如 (被告の主張) 本件明細書の「従来の技術」の項の記載に照らすと、本件考案の構成要件のうちAないしD及びFの部分は、その出願時に既に公知となっていた技術であるから、本件考案進歩性が認められる余地があるのは構成要件E「前記回転管軸がジョイントボディに対して軸支部を持たない片持状態で、前端部がスピンドルの後端部に固定されている」という部分にすぎない。そして、本件考案は、本件実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物に記載されたドイツ特許公開公報第3838303号(1990年5月23日公開、乙8)それ自体、又はこれに米国特許第2805086号明細書(1957年9月3日特許、乙9)若しくは日本国内において頒布された刊行物である特開昭61-278687号公開特許公報(乙38添付の甲3の1)記載の各発明を組み合わせることによりきわめて容易考案をすることができたものであって、本件実用新案権には無効理由(実用新案法3条2項違反)が存することが明らかであるから、その権利行使は権利の濫用であって許されない。すなわち、
(1) 前記ドイツ特許発明(乙8)は、次の点で本件考案とわずかに相違する。
@ 「中空軸2は、中心貫流通路4を有し、その延長部に図示しない工作機械のスピンドル内に配置された締付手段の連結杆が係合される。」とあり、中空軸2はスピンドルそれ自体ではない。
A ハウジング1は中空軸2の軸受3を包含するように描かれていて、ハウジング1の軸方向の長さが長い。
B 冷却潤滑液を第2流入通路17からロータリジョイント箇所に流したり、別の異なる流体を第3流入通路23から送って流出通路24から出すようになっている。
(2) @の相違点については、前記ドイツ特許発明(乙8)の回転継手が本件考案と同一の技術分野に属するものであり、同様に、工作機械内の中空軸(回転側)に片持状態で固定されているものである。したがって、本件明細書の「考案が解決しようとする課題」の項記載のスピンドルの後端部における問題点を解決するために、前記ドイツ特許発明(乙8)それ自体から、又はこれに前記各発明(乙9、乙38添付の甲3の1)を組み合わせることにより、前記回転継手をスピンドルの後端部に直接固定して本件考案の構成要件Eの構成を得ることは、当業者であれば、きわめて容易に想到し得る。
Aの相違点も、前記米国特許発明(乙9)の第1図に小型化されたハウジングが示されていることから、きわめて容易に想到し得る。前記米国特許発明(乙9)の回転管継手は紙処理の分野のものであるが、回転管継手は、高速工作機械のスピンドル等にも広く採用されており(特開平3-61786号公開特許公報、乙10)、異なる分野相互間でも、技術の転用が通常行われているから、前記米国特許発明(乙9)のハウジング小型化の技術を、前記ドイツ特許発明(乙8)に利用することも、きわめて容易に想到し得る。
Bの相違点も、前記ドイツ特許発明(乙8)において、中心の流通だけにすれば、本件考案と同一になるから、実質的な相違点とはいえない。
なお、前記各発明(乙8、9)には、本件明細書の「考案が解決しようとする課題」の項記載の「回転管軸に軸支部を設けない構造とすることで、スピンドルの後端部から突出する回転管軸の後端側の長さを短くすることができ、コンパクトかつ構造簡単で、しかも、振れによるトラブルを防止できるロータリジョイントを提供する」という課題は明記されていない。しかし、これは、回転管継手の技術分野における当業者の技術常識を勘案すれば、自明な課題といえるから、この点も本件考案進歩性を肯定する根拠とはならない。
(原告の主張) 被告の主張のうち、本件考案の構成要件AないしD及びFの部分が、その出願時に既に公知となっていた技術であり、進歩性が認められる余地があるのは構成要件Eの部分であることは争わない。しかし、本件考案が、被告主張の各発明(乙8、乙9、乙38添付の甲3の1)に基づいてきわめて容易考案をすることができたことは否認する。
(1) 被告の主張(1)について、相違点@〜Bの存在は認める。
(2) 被告の主張(2)について、前記ドイツ特許発明(乙8)の回転継手が本件考案と同一の技術分野に属することは認めるが、工作機械内の中空軸(回転側)に片持ち状態で固定されていることは否認する。被告主張の「中空軸2」は、前記ドイツ特許発明(乙8)上、回転継手の一部として記載され、これが軸受によって支持されていることは明らかであるから、本件考案の構成要件Eにいう「片持状態」にはない。
前記各発明(乙9、乙38添付の甲3の1)に回転管軸を片持状態とする構成が記載されていることは認める。しかし、その回転管継手は、製紙用のものであり、本件考案とは対象物が異なる点で技術分野が相違する。すなわち、本件考案の解決課題の一つである回転管軸の後端の振れが管軸に作用する遠心力に起因し、遠心力の大きさは回転速度に比例するのに対し、課題、構成、効果の全く異なる製紙用カレンダロールのような数百回転程度の低速回転用装置の技術を、回転速度が十倍以上もの差がある1万回転以上の装置に転用することは決して容易ではない。ただし、相違点Bが実質的な相違点でないことは争わない。
5 被告の先使用による通常実施権 (被告の主張) 被告は、本件実用新案登録出願の際、現に日本国内において本件考案の実施である事業の準備をしていた。すなわち、
(1) 被告は、昭和62年11月、株式会社森精機製作所(以下「森精機」という。)から、独デュブリン社製超高速ロータリジョイント(EBV-328型)の問い合わせを受けたことから、独デュブリン社からは、EBV-328型の図面を入手し、また、同社に対し、森精機の希望する製品サイズ等を連絡していた。したがって、被告は、遅くとも昭和62年11月17日時点で、森精機の発注があれば、EBV-328型の即時販売が可能な程度まで準備していた(ただし、森精機への販売は、他の部分の仕様に関する同社の希望と合致しなかったため、実現するに至らなかった。)。
(2) EBV-328型の構成は本件考案の構成と同一である。
(原告の主張) (1) 被告の主張(1)について、森精機に関する販売交渉は知らない。仮に被告主張事実が認められるとしても、当該商談は不成立に終わり、その後、本件実用新案登録出願時までの間、他に商談がされたり、商談が成立して販売されたという事実はないのであるから、被告が本件考案の実施である事業(販売行為)を準備していたとはいえない。そもそも被告は、メーカーではなく、販売行為をしている商社にすぎないから、本件考案と同一の考案を知得していたともいえない。
(2) 被告の主張(2)は認める。
6 原告の損害 (原告の主張) 原告の損害合計額は3億1815万円(17500円×18180個)である。原告は、その内金2億円を請求する。
(1) 原告は、本件考案の実施品を1個当たり3万7500円で販売しており、
その利益額は1個当たり1万7500円である。
(2) 本件に係るロータリジョイントは日本市場において原告と被告の2社が独占的に販売しており、そのシェアは被告の方が若干高いから、被告による被告製品(DEUBLIN1129、DEUBLIN1139)の販売数量は原告の販売数量(原告が販売した本件考案の実施品の数量は、次のとおり、合計1万8180個である。)を下るものではない。
平成8年 1634個 平成9年 2925個 平成10年 3739個 平成11年 4260個 平成12年 5622個 (被告の主張) (1) 原告の主張(1)及び(2)はいずれも知らない。
(2) 被告製品のうち「スピンドルの後端に固着され」るものの割合は全体の5%以下である。平成12年度を例に取れば、その割合は約1.43%(53/3714=0.01427)にすぎない。
当裁判所の判断-争点4(明らかな無効理由その2-進歩性欠如)について
1 本件明細書の記載によれば、次の事実が認められる(甲2、括弧内は本件公報の該当部分を指す。)。本件考案は、工作機械のスピンドル内にクーラント液を供給するときに用いられるロータリジョイントに関するものである(産業上の利用分野)。従来、例えば、スピンドルの後端部に固定された回転管軸と、ジョイントボディに軸方向に摺動可能に支持されたフローティングシートとを備え、回転管軸の回転側流路がスピンドルの内部に形成された回転側クーラント液流路に連通されるとともに、フローティングシートの固定側流路がジョイントボディの内部に形成された固定側クーラント液流路に連通され、前記フローティングシートが前方向に摺動してフローティングシートのシール面が回転管軸のシール面に当接することにより、固定側流路と回転側流路とが接続するように構成されたものが知られており、この場合、前記回転管軸は、前端部がスピンドルの後端部に固定されるとともに、後端部がジョイントボディに対してボールベアリングによる軸支部で支持されていた(従来の技術)。しかし、従来の技術のように、回転管軸の後端部がジョイントボディに対してボールベアリングによる軸支部で支持されていると、その軸支部を設定する分だけスピンドルの後端部から突出する回転管軸の後端側の長さが長くなり、その結果、これに対応してジョイントボディを長く形成する必要が生じ、
ロータリジョイントが大きくなってしまうという問題があった。また、スピンドルが10000回転以上で高回転するものでは、回転管軸の後端側に振れが生じ、軸支部に振動や負担が生じて、破損等のトラブルが発生しやすいという問題があった。そこで、本件考案は、このような従来の問題点に着目し、回転管軸に軸支部を設けない構造とすることで、スピンドルの後端部から突出する回転管軸の後端側の長さを短くすることができ、コンパクトかつ構造簡単で、しかも、振れによるトラブルを防止できるロータリジョイントを提供することを課題として(考案が解決しようとする課題)、本件考案の実用新案登録請求の範囲所定の構成を備えることとしたものである(課題を解決するための手段)。これにより、本件考案のロータリジョイントは、回転管軸がジョイントボディに対して軸支部を持たない片持状態で、前端部がスピンドルの後端部に固定されているため、軸支部を持たない分だけ、スピンドルの後端部から突出する回転管軸の長さを短くすることができ、その分、ジョイントボディを短くでき、全体をコンパクトに形成することができ、軸支部がない分だけ構造を簡単にできる。また、回転管軸の後端側の振れが小さくなるため、振動等のトラブル発生を防止できるという作用効果を奏するものである(作用、考案の効果)。
2 本件実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物であるドイツ特許公開公報第3838303号(1990年5月23日公開、乙8)は、「異る流体用回転接手」に関するものである。同公報の添付図面や「中空軸2は、気体静力学的平面軸受3および気体静力学的スラスト軸受3aによって静止ハウジング1内に回転可能に取りつけられている。この気体静力学的取りつけ方法は、30,000ないし60,000rpmのような高速度用としてとくに適している。中空軸2は、中心貫流通路4を有し、その延長部に図示しない工作機械のスピンドル内に配置された締付手段の連結杆が係合される。」(乙8訳文4頁)、「図示の実施例では、気体静力学的スラスト軸受の一部によって形成された、中空軸2の内端2aに、貫流通路4、5に共通のスライドリング8が配置されている。このスライドリングは内端2aに、その詳細について後述する要領で剛接されている。」(乙8訳文4頁)、「中心流入通路9と連通する、ハウジング1に設けられた第1円筒室7内に、スライドリング内側支持部材10が軸方向へ滑動可能ではあるが回転はしないように保持されている。」(乙8訳文4頁)、「スライドリング内側支持部材10と環状ピストン20とに作用するばね25、26によって、2つのスライドリング11、14は基本荷重で共通スライドリング8の滑り面8cに向けて偏倚されている。」(乙8訳文5頁)、「もし、工作機械のスピンドルとともにこの回転接手が用いられれば、中空軸2は工作機械のスピンドルとともに回転し、ハウジング1は静止状態に取りつけられている。工作機械のスピンドルの回転中に、延設部分4a内に係合している連結杆の第1流体は、中心流入通路9、スライドリング内側支持部材10およびスライドリング8、11の内孔8a、11aを経て中心貫流通路4に供給される。この流体は、機械加工用冷却潤滑剤、深穿孔用オイル、切削オイル、水あるいは圧縮空気さえも使用できる。もしこの流体が冷却潤滑剤、切削オイル、深穿孔用オイルあるいは水であって、かなり多量に流通されれば、スライドリング8、11は適切に冷却され、かつ潤滑される。」(乙8訳文5〜6頁)という記載によれば、ドイツ特許公開公報第3838303号(乙8)記載の発明は、本件考案の構成要件AないしD及びFの各構成をいずれも備えるのに対し、構成要件Eを備えない点で本件考案と相違するものである(被告主張の相違点@、Aも、結局、この点に集約されるものである。被告主張の相違点Bが実質的な相違点でないことは当事者間に争いがない。)。
3(1) これに対し、本件実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物である米国特許第2805086号明細書(1957年9月3日特許、乙9)記載の発明は、「液密・気密の回転管継手」に関するものであり、(製紙用)カレンダロールについてのものではある。しかし、同公報の添付図面(ロータ165がハウジング142に対して軸支部を持たない片持状態で、端部がトラニオン11の端部に固定されていることが読み取れる。)や「固定具134は更に、回転する継手用として、軸方向に延びた円筒ハウジング部142を有しており、このハウジング142は、環状肩部144にて終端する内部円筒孔143を備えている。このハウジングは、より小径の円筒孔145を有している。」(乙9訳文3頁)、「従動部材150(訳文に「160」とあるのは誤記と認める。)は必要に応じて孔143内を前後に摺動し、テフロン製楔リング154によって係合され、これが従動部材150と孔143との間の空域に押圧し、上記従動部材とハウジング142との間の気密継手を維持している。従動部材150は回転はしないが軸方向に前後動し、そして、バネ146は常に楔リング154と従動部材150を右方向に付勢している。
カーボングラファイトのシールリング161は回転可能であるが、表面163及び164よりも表面160、159での摩擦が大きいために回転しにくくなっている。従って、蒸気はパイプ130において流入し、孔13のサイフォン管138周辺を通りカレンダロール10の内部に入り、そこで加熱して水に凝縮する。この水は吸入によりくみ上げられ、サイフォン管がカレンダロール10の底部の凝縮物に浸されると、その排出がドラム内の蒸気圧によって加勢される。」(乙9訳文6〜7頁)、「ロータ165は好適なタイプの鋼より成り、透孔166と、パイプネジ13aをカレンダロール10のトラニオン11に装着するパイプネジ端部167を有している。ロータ165は符号168及び169のように外面を円筒状とすることができるが、突出する非円形の部分170を形成することが望ましく、例えば、
レンチとの係合のために六角形とすることができる。その左端部には、ロータ165が軸方向外側に張り出したスラストフランジ171を有し、これは、その端部に前記スラスト面164を備えている。」(乙9訳文4〜5頁)という記載によれば、同明細書(乙9)の発明は本件考案の構成と次の対応関係があることが認められる。
乙9 本件考案 「(円筒)ハウジング142」 → 「ジョイントボディ」 「従動部材150」 → 「フローティングシート」 「ロータ165」 → 「回転管軸」 「トラニオン11」 → 「スピンドル」 そうすると、前記米国特許発明(乙9)では、本件考案の回転管軸に相当する「ロータ165」が本件考案のジョイントボディに相当する「(円筒)ハウジング142」に対して軸支部を持たない片持状態で、その端部が本件考案のスピンドルに相当する「トラニオン11」の端部に固定されていることは明らかである(乙38添付の甲2の3参照)。
(2) 日本国内において頒布された刊行物である特開昭61-278687号公開特許公報(昭和61年12月9日公開、乙38添付の甲3の1)記載の発明は、
「ジャーナルに取付けた回転継手」に関するものであり、製紙工業の分野におけるものではある。しかし、同公報の添付図面や「第1図において、熱交換器の乾燥ドラム(図示せず)の回転軸の外端、つまりジャーナルを10で示し、」(同公報4頁左下欄2行〜4行)、「環状フランジ18は、・・・ジャーナル10の端面に対しボルト締めされている。」(同公報4頁右下欄1行〜4行)、「環状アダプター28が、・・・フランジ18にボルト締めされている。・・・またこのアダプターの内腔にはステンレス鋼、または炭化珪素の環状シール38が嵌入するための同心の座繰り穴36が穿設されている。・・・上記シール38はアダプターの内腔32よりも大きなフランジであって、シールの中心軸およびドラムの回転軸に垂直に配設された外向きの平坦な半径方向密封面42を有するフランジを含み、」(同公報4頁右下欄9行〜5頁左上欄4行)、「本体50は・・・円筒室62を含み、該室が上記本体と交差する本体端面の腔口64に管継手66をボルト68などによって取付けることができる。」(同公報5頁右上欄8行〜12行)、「座繰り穴70が本体50に穿設されていて、該座繰り穴は環状密封板72に隣接する半径方向底面を具備し、該密封板は・・・本体50にボルト締めされている。・・・環状シール84が密封板72の内腔76と上記座繰り穴82との間に配設されている。・・・該シールは密封板の上記内腔76内に配設されている半径方向の受圧面92と、シール38の密封面42と密封係合する半径方向端面で終端する軸方向に延びる環状リップ94とを包含する。」(同公報5頁右上欄末行〜右下欄3行)、「シールの上記円筒部88と上記密封板の内腔76との間の嵌合は該シール84と該密封板72の間で相対的な軸方向の変位が可能になるようなものとする。・・・圧縮ばね102が個々の盲穴100に挿入されていて、各ばねは各自の穴から延びてシール84のフランジ90と係合し、該シール84をシール38に向けて偏倚させる。」(同公報5頁右下欄11行〜6頁左上欄1行)という記載によれば、前記公開特許公報(乙38添付の甲3の1)の発明は本件考案の構成と次の対応関係があることが認められる。
乙38添付の甲3の1 本件考案 「本体50及び環状密封板72」 → 「ジョイントボディ」 「環状シール84」 → 「フローティングシート」 「環状アダプター28及び環状フランジ18」→ 「回転管軸」 「ジャーナル10」 → 「スピンドル」 そうすると、特開昭61-278687号公開特許公報(乙38添付の甲3の1)記載の発明でも、「環状アダプター28及び環状フランジ18」が「本体50及び環状密封板72」に対して軸支部を持たない片持状態で、その端部が「ジャーナル10」の端部に固定されていることは明らかである。
4 そこで、前記2(乙8)記載の発明に前記3(1)(乙9)又は3(2)(乙38添付の甲3の1)記載の各発明を組み合わせることに阻害事由があるかを次に検討する。
(1) 前記3(1)及び3(2)の各発明は、いずれも製紙工業に関するものであり、
厳密には本件考案の産業上の利用分野である「工作機械」に関するものではないが、いずれも回転部と非回転部との間に介装されて内部に流体を通じさせるものであるという点において、ロータリジョイント(回転管継手)としては本件考案と同一の技術分野に属するものというべきである(原告は、対象物が相違する点を技術分野が異なる根拠とするかのようでもあるが、その主眼は回転速度の相違にあるから、後記(2)において一括して検討する。)。
(2) 原告は、特に前記米国特許発明(乙9)について、(製紙用)カレンダロール用のような数百回転の低速回転用の装置の技術を1万回転以上の装置に転用することは容易ではない旨を主張する。確かに、本件明細書考案の詳細な説明欄の「考案が解決しようとする課題」の項には、「スピンドルが10000回転以上で高回転するものでは、回転管軸の後端側に振れが生じ、軸支部に振動や負担が生じて、破損等のトラブルが発生し易いという問題があった。本考案は、上述のような従来の問題点に着目し、回転管軸に軸支部を設けない構造とすることで、スピンドルの後端部から突出する回転管軸の後端側の長さを短くすることができ、コンパクトかつ構造簡単で、しかも、振れによるトラブルを防止できるロータリジョイントを提供することを課題としている。」という記載があることが認められる。
しかし、特開平3-61786号公開特許公報(乙10)は、本件実用新案登録出願日後に公開されたものではあるが、本件実用新案登録出願日前に出願されたもの(出願日平成2年4月12日、優先権主張平成元年4月12日)である点で、当時の技術水準を表すものと考えられるところ、その明細書の「従来技術とその問題点」の項には、「液体源の出口と回転装置とを結合するのに回転ユニオン継手が採用されている。たとえば、紙処理の分野において、高速孔開け操作、高速工作機械のスピンドル、クラッチ、ブレーキ操作などにおいて広く採用されている。」ことが記載されており(同公報3頁左下欄3行〜7行)、高速回転用か低速回転用かによる区別は特にされていない。むしろ「この種の回転シール装置を存する回転ユニオン継手はその回転数が15,000rpmに限定される。」(同公報3頁右下欄17行〜19行)という記載からすれば、原告主張の高速回転用というのも、回転速度の上限を示すものにすぎず、その下限ともいうべき低速回転の場合を一切排斥するものとは考えられない。実際上も、1986年発行の米国デュブリン社VIP WORKBOOK(乙43添付の参考資料5の1及び2)では、工作機械に限られない多種多様な産業においてロータリバルブが使用されており、汎用性の高い同一シリーズの製品に着目すれば、その回転速度は2〜12000rpmと実に6000倍もの差があることが認められる。また、「ツールエンジニア1987年7月号」及び「松浦機械NEWS平成2年5月号」(乙43添付の参考資料6、7)によれば、その主軸回転速度が75〜4,200rpm、40〜3,500rpm、12〜2,800rpm、15〜4,500rpmという工作機械が紹介されており、当時の日本国内においても、かなりの回転速度の差があったことが認められる。本件考案の構成上、例えば高速回転用であるが故に低速回転用とは異なる特別の構成を備えているなどの事実は認められず、実用新案登録請求の範囲にも、これを高速回転用に限定する旨の記載はない。回転管軸の振れによるトラブルの防止という技術課題も、高速回転用であるか低速回転用であるかを問わず、
(程度の差はあれ)ロータリジョイント一般に妥当するものと考えられる。
したがって、原告主張の回転速度の相違が特段阻害要因となるものではないというべきであるから、この点に関する原告の主張は採用することができない。
5 そうすると、本件実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物であるドイツ特許公開公報第3838303号(乙8)記載の発明と本件考案との相違点は大きなものではなく、この相違点の存在を前提としても、当業者であれば、
上記発明(乙8)と本件実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物である米国特許第2805086号明細書(乙9)又は日本国内において頒布された刊行物である昭61-278687号公開特許公報(乙38添付の甲3の1)記載の各発明を組み合わせることによりきわめて容易に本件考案をすることができたものというべきである。したがって、本件考案は、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、同法37条1項2号に該当し、無効であることが明らかなものというべきである。なお、本件実用新案権については、
原告により平成15年1月14日付け訂正請求(甲9)がされているが、その訂正の当否自体を措くとしても、同訂正請求は、実用新案登録の請求の範囲欄の記載を何ら変更するものではなく、原告の訂正請求に係る内容や原告の主張するところに照らしても、せいぜい考案の詳細な説明欄のうち明瞭でない記載削除するにすぎないのであるから、仮に原告の訂正請求が認められたとしても、前記判示を何ら左右するものではない。
その他、本件において特段の事情があるとは認められないから、実用新案登録の無効理由が存在することの明らかな本件実用新案権に基づき原告が被告に対し権利行使をすることは、権利の濫用として許されない(最高裁判所平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。
結論
以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
追加
イ号物件説明書(図面の符号)本件実用新案権に係る実公平7-46861号公報図面と対応するものについては、これと同じ符号を用いた。
(構成1)イ号物件は工作機械のスピンドル5にクーラント液(冷却液)を供給するときに用いるロータリジョイント(回転管継手)であり、回転管軸1、フローティングシート2及びジョイントボディ4(以下、「ボディ」という。)から成る。
回転管軸1はその前端部外周に雄ネジが、内部に軸方向に流路10が、後端面にシール面11がそれぞれ形成されている。この回転管軸1はその雄ネジをスピンドル5の内部に軸方向に形成されているクーラント液流路の後端部内周に形成されている雌ネジに螺合することによってスピンドル5に固着され、前記流路10とスピンドル5内部のクーラント液流路とが連通される。
フローティングシート2は筒状に形成され、ボディ4内部のクーラント液流路41に軸方向に摺動可能に遊嵌されている。フローティングシート2の内部には軸方向に前記クーラント液流路41と連通する流路20が、前端面にはシール面22がそれぞれ形成されている。
ボディ4にはその内部に軸方向にクーラント液流路41が形成され、その前半部にフローティングシート2が遊嵌される。ボディ4は工作機械の固定部分に固着することによって固定されている。
回転管軸1とボディ4との問に軸支部は設けられていない。
ボディ4前端内壁とフローティングシート2前端周縁部との間にはスプリングが介装されフローティングシート2を後方に付勢している。このことによりクーラント液を供給していない非通液時にはシール面11とシール面22とは互いに離間している。
クーラント液の供給が開始されるとフローティングシート2の後端面に加わる液圧によりフローティングシート2はスプリングの押圧に抗して前方に摺動し、シール面11とシール面22とが当接する。このことによりクーラント液はクーラント液流路41、流路20、流路10を経てスピンドル5内のクーラント液流路に供給される。
(構成2)イ号物件は工作機械のスピンドル5に取り付けられ、スピンドルと一体に回転するドローバー又はモーターシャフト(以下、単に「モーターシャフト等」という。)にクーラント液(冷却液)を供給するときに用いるロータリジョイント(回転管継手)であり、回転管軸1、フローティングシート2、及びジョイントボディ4(以下、「ボディ」という。)から成る。
回転管軸1はその前端部外周に雄ネジが、内部に軸方向に流路10が、後端面にシール面11がそれぞれ形成されている。この回転管軸1はその雄ネジをモーターシャフト等の内部に軸方向に形成されているクーラント液流路の後端部内周に形成されている雌ネジに螺合することによってモーターシャフト等に固着され、前記流路10とモーターシャフト等内部のクーラント液流路とが連通される。
フローティングシート2は筒状に形成され、ボディ4内部のクーラント液流路41に軸方向に摺動可能に遊嵌されている。フローティングシート2の内部には軸方向に前記クーラント液流路41と連通する流路20が、前端面にはシール面22がそれぞれ形成されている。
ボディ4にはその内部に軸方向にクーラント液流路41が形成され、その前半部にフローティングシート2が遊嵌される。ボディ4は工作機械の固定部分に固着することによって固定されている。
回転管軸1とボディ4との問に軸支部は設けられていない。
ボディ4前端内壁とフローティングシート2前端周縁部との間にはスプリングが介装されフローティングシート2を後方に付勢している。このことによりクーラント液を供給していない非通液時にはシール面11とシール面22とは互いに離間している。
クーラント液の供給が開始されるとフローティングシート2の後端面に加わる液圧によりフローティングシート2はスプリングの押圧に抗して前方に摺動し、シール面11とシール面22とが当接する。このことによりクーラント液はクーラント液流路41、流路20、流路10を経てモーターシャフト等内のクーラント液流路に供給される。
(注)構成2における下線部は、構成1と異なる部分である。
ロ号物件説明書(図面の符号)本件実用新案権に係る実公平7-46861号公報図面と対応するものについては、これと同じ符号を用いた。
(構成1)ロ号物件は工作機械のスピンドル5にクーラント液(冷却液)/エアーを供給するときに用いるロータリジョイント(回転管継手)であり、回転管軸1、フローティングシート2、及びジョイントボディ4(以下、「ボディ」という。)から成る。
回転管軸1はその前端部外周に雄ネジが、内部に軸方向に流路10が、後端面にシール面11がそれぞれ形成されている。この回転管軸1はその雄ネジをスピンドル5の内部に軸方向に形成されているクーラント液/エアー流路の後端部内周に形成されている雌ネジに螺合することによってスピンドル5に固着され、前記流路10とスピンドル5内部のクーラント液/エアー流路とが連通される。
フローティングシート2は筒状に形成され、ボディ4内部のクーラント液/エアー流路41に軸方向に摺動可能に遊嵌されている。フローティングシート2の内部には軸方向に前記クーラント液/エアー流路41と連通する流路20が、前端面にはシール面22がそれぞれ形成されている。
ボディ4にはその内部に軸方向にクーラント液/エアー流路41及びクーラント液/エアー用ポートが形成されその前半部にフローティングシート2が遊嵌される。ボディ4は工作機械の固定部分に固着することによって固定される。
回転管軸1とボディ4との間に軸支部は設けられていない。
ボディ4の内壁とフローティングシート2の外壁にはそれぞれ段差が設けられ環状の与圧室6が形成されている。また、ボディ4には前記与圧室6につながるシール作動用ポートが形成されている。
ボディ4前端内壁とフローティングシート2前端周縁部との間にはスプリングが介装され、フローティングシート2を後方に付勢している。このことによりクーラント液を供給していない非通液時にはシール面11とシール面22とは互いに離間している。
クーラント液の供給が開始されると前記シール作動用ポートからフローティングシート2の外壁段差面61及び前記クーラント/エアー用ポートからフローティングシート2の後端面に加わる液圧によりフローティングシート2はスプリングの押圧に抗して前方に摺動し、シール面11とシール面22とが当接する。このことによりクーラント液はクーラント液/エアー流路41、流路20、流路10を経てスピンドル5内のクーラント液/エアー流路に供給される。
エアースルー時には前記クーラント液/エアー用ポートからフローティングシート2の後端面に加わるエアー圧力によりフローティングシート2はスプリングの押圧に抗して前方に摺動するが、シール面11とシール面22との間にはわずかに隙間が形成される。エアーはクーラント液/エアー流路41、流路20、流路10を経てスピンドル5内のクーラント液/エアー流路に供給される。
(構成2)ロ号物件は工作機械のスピンドル5に取り付けられ、スピンドルと一体に回転するドローバー又はモーターシャフト(以下、単に「モーターシャフト等」という。)にクーラント液(冷却液)/エアーを供給するときに用いるロータリジョイント(回転管継手)であり、回転管軸1、フローティングシート2、及びジョイントボディ4(以下、「ボディ」という。)から成る。
回転管軸1はその前端部外周に雄ネジが、内部に軸方向に流路10が、後端面にシール面11がそれぞれ形成されている。この回転管軸1はその雄ネジをモーターシャフト等の内部に軸方向に形成されているクーラント液/エアー流路の後端部内周に形成されている雌ネジに螺合することによってモーターシャフト等に固着され、前記流路10とモーターシャフト等内部のクーラント液/エアー流路とが連通される。
フローティングシート2は筒状に形成され、ボディ4内部のクーラント液/エアー流路41に軸方向に摺動可能に遊嵌されている。フローティングシート2の内部には軸方向に前記クーラント液/エアー流路41と連通する流路20が、前端面にはシール面22がそれぞれ形成されている。
ボディ4にはその内部に軸方向にクーラント液/エアー流路41及びクーラント液/エアー用ポートが形成されその前半部にフローティングシート2が遊嵌される。ボディ4は工作機械の固定部分に固着することによって固定される。
回転管軸1とボディ4との間に軸支部は設けられていない。
ボディ4の内壁とフローティングシート2の外壁にはそれぞれ段差が設けられ環状の与圧室6が形成されている。また、ボディ4には前記与圧室6につながるシール作動用ポートが形成されている。
ボディ4前端内壁とフローティングシート2前端周縁部との間にはスプリングが介装され、フローティングシート2を後方に付勢している。このことによりクーラント液を供給していない非通液時にはシール面11とシール面22とは互いに離間している。
クーラント液の供給が開始されると前記シール作動用ポートからフローティングシート2の外壁段差面61及び前記クーラント/エアー用ポートからフローティングシート2の後端面に加わる液圧によりフローティングシート2はスプリングの押圧に抗して前方に摺動し、シール面11とシール面22とが当接する。このことによりクーラント液はクーラント液/エアー流路41、流路20、流路10を経てモーターシャフト等内のクーラント液/エアー流路に供給される。
エアースルー時には前記クーラント液/エアー用ポートからフローティングシート2の後端面に加わるエアー圧力によりフローティングシート2はスプリングの押圧に抗して前方に摺動するが、シール面11とシール面22との間にはわずかに隙間が形成される。エアーはクーラント液/エアー流路41、流路20、流路10を経てモーターシャフト等内のクーラント液/エアー流路に供給される。
(注)構成2における下線部は、構成1と異なる部分である。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 田中秀幸
裁判官 守山修生