関連審決 |
無効2000-35666 訂正2002-39095 |
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関連ワード | 考案 / 構造 / 進歩性(3条2項) / 請求項 / 実施例 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
89号
審決取消請求事件
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原告 植平コンクリート工業株式会社 同訴訟代理人弁理士 小谷悦司 同 小谷昌崇 被告A 同訴訟代理人弁理士 藤本昇 同 鈴木活人 同 薬丸誠一 同 中谷寛昭 同 大中実 同 岩田徳哉 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/01/28 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2000-35666号事件について平成15年2月4日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 争いのない事実 (1) 被告は、平成1年11月22日に出願(実願平1-135861号)され、平成8年1月26日に登録された、名称を「地表埋設用蓋付枠」とする考案に係る登録第2099411号実用新案(以下「本件実用新案」という。)の実用新案権者である。 原告は、平成12年12月11日、本件実用新案について無効審判を請求した。特許庁は、同請求を無効2000-35666号事件(以下「本件審判請求事件」という。)として審理し(平成13年4月20日に被告より訂正請求がなされた。)、平成13年9月26日、「訂正を認める。実用新案登録第2099411号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする」旨の審決を行った。被告は、同審決に対する取消訴訟を東京高等裁判所に提起する(平成13年(行ケ)第497号)一方、平成14年4月17日付けで、訂正審判の請求を行い(訂正2002-39095号)、平成14年6月13日、「実用新案登録第2099411号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)がなされた。そして、東京高等裁判所は、平成14年8月9日、本件審判請求事件について、平成13年9月26日にした審決を取り消す旨の判決を行った。 特許庁は、本件審判請求事件について更に審理した上、平成15年2月4日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月15日、原告に送達された。 (2) 本件訂正審決によって訂正された本件実用新案の請求項1記載の考案(以下「本件訂正考案」という。)の要旨は、本件審決に記載された以下のとおりである。 蓋本体2が蓋受枠6上にその上面が略面一に嵌合され、蓋本体2の下端外周縁に逃げ空所5を形成すべく切り欠き部4が刻設された地表埋設用蓋付枠において、蓋本体2の上方外周側面には蓋受枠6の上方内周縁に形成されたテーパー面8に合致するテーパー面7が形成されてなり、且つ前記切り欠き部4の少なくとも一箇所以上には突起体10が外周方向に突設されてなり蓋受枠6の少なくとも一箇所以上には、前記突起体10を係入するための凹部11が形成され、しかも前記蓋受枠6には蓋本体2の環状脚部3を載置するための受部9が形成され、且つ前記蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられてなることを特徴とする地表埋設用蓋付枠。 (3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本件訂正考案が、請求人(本訴原告)の提出した別紙引用例目録1ないし14(以下、併せて「本件各引用例」という。)に記載されたものが有しない構成(相違点3に係る構成)を有し、そのことによって格別の作用効果を奏することから、本件各引用例に記載されたものに基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものとすることはできず、実用新案法3条2項に該当しないものであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正考案の実用新案登録を無効とすることはできないとした。 2 原告主張の本件審決の取消事由の要点 本件審決は、本件訂正考案と引用考案1との相違点3に関する判断を誤り(取消事由)、本件訂正考案が本件各引用例から極めて容易に考案をすることができたことを看過したものであるから、違法として取り消されるべきである(なお、 本件訂正考案と引用考案1との相違点1ないし3の認定、相違点1及び2に関する判断は争わない。)。 (1) 相違点3の認定誤り(取消事由)について 本件審決が、本件訂正考案と引用考案1との相違点3として、「本件訂正考案が、前記蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられているのに対し、引用例1考案の蓋本体の環状脚部と蓋受枠との間には隙間が設けられていない点」(8〜9頁)と認定したことは認めるが、その判断において、「本件訂正考案においては、蓋受枠6と蓋本体2との隙間から地表水と共に侵入した砂塵等は、蓋受枠6の溝12から蓋受枠の凹部11の底部11aにのみ設けられた「隙間」を経て地表水と共に蓋受枠6内へ排除され、地表水や砂塵等の滞留を防止する(注、以下、この効果を「本件作用効果1」という。)とともに、蓋本体を開放する際には、突起体の先端をもって凹部の底部に溜まった土砂等が蓋受枠内に掻き落とされるため、凹部内に堆積物を生じることがなく、蓋本体の開閉が常にスムーズに行えるという作用効果(注、以下、この効果を「本件作用効果2」という。)を奏するものである。」(11頁)と認定判断したことは誤りである。 すなわち、本件作用効果1及び2は、いずれも本件訂正考案固有の作用効果ではないから、本件審決が、本件訂正考案で追加された「隙間」によって奏される本件作用効果1及び2の存在により、本件訂正考案に進歩性が認められる旨の認定判断をしたことは誤りである。以下、詳述する。 (2) 本件作用効果1について ア 本件訂正考案に係る訂正明細書(甲2、以下「訂正明細書」という。)の「考案の効果」の項には、本件審決認定のとおり、「蓋受枠の受部に溝が周設され、且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する。」(5頁)という効果の記載はあるが、この効果は、本件実用新案の登録請求の範囲に記載されていない「蓋受枠6の受部に周設された溝12」及び「凹部の底部に付された蓋受枠6の内周方向へ下る傾斜を設けたことによって形成された蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間の隙間」という2つの構成要件によってもたらされる効果であって、本件訂正審決(甲3)によって実用新案登録請求の範囲に新たに追加された、「蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ設けられた隙間」という構成要件のみによってもたらされる効果ではない。 すなわち、蓋受枠6と蓋本体2との隙間から地表水とともに侵入する砂塵等は、蓋受枠6のテーパー面8の下端部と受部9とが交わる部分に周設された溝12(本件実用新案の実用新案公報の第1図(ハ)及び第2図(ロ)参照、甲2、 以下「本件公報」という。)を経て、蓋受枠の受部9の凹部11の底部11aに付された蓋受枠6の内周方向へ下る傾斜により形成された隙間から、本件公報第2図(ロ)の矢印に示すように蓋受枠6内に排除されることにより、砂塵等の滞留が防止されるものであり、単に蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられただけでは達成し得ない効果である。このことは、 被告自身が、本件訂正明細書の「考案の効果」の項に明確に記載している。 したがって、本件審決が、本件作用効果1を上記「隙間」のみから奏される効果の一つと認定したことは、明らかに誤りである。なお、被告は、逃げ空所内に侵入した砂塵等が、地表水とともに逃げ空所を周回溝として凹部内に侵入すると主張するが、このことは明細書に記載がなく、本件審決においても判断されていない。 イ そして、蓋受枠と蓋本体の隙間から地表水とともに侵入してくる砂塵等を蓋受枠内に排除するという構成及び本件作用効果1は、引用例13及び14に開示されており、引用例12にも、蓋の底部と蓋受枠の蓋載置面との間に隙間を4箇所形成して、蓋と蓋受枠の隙間から地表水とともに侵入してくる砂塵(土砂)を周回溝6を経て該隙間から蓋受枠内に積極的に排除する構成が示されているのである。蓋と蓋受枠の蓋載置面との間に設けられる「隙間」の設け方及び設ける位置や数は、単なる設計事項であり、引用例12ないし14には、本件作用効果1が開示されているといえる。 (3) 本件作用効果2について ア 本件訂正審決(甲3)においては、本件訂正考案と引用考案1との相違点3について、「(なお、突起体10の先端が蓋受枠6の凹部11の底部11aに添って移動することにより、底部11aに溜まった土砂等を削り取りつつ蓋受枠6内へ掻き落とすという作用は、上記相違点3に係る「隙間」の有無に関わりなく奏することができると考えられる。)」(8頁)と判断されており、本件作用効果2に該当する作用効果が、本件訂正考案固有の作用効果ではない旨の認定をした上で、本件作用効果1を重視して、本件訂正考案が進歩性を有する旨の判断を示しているのである。 これに対し、本件審決では、前述したとおり、本件作用効果1及び2をいずれも本件訂正考案固有の作用効果と評価した上で、進歩性を有する旨の判断をしており、本件作用効果2の評価に関し、本件訂正審決と本件審決とで矛盾した判断となっている。 イ また、客観的にみても、本件作用効果2は、本件訂正考案の「突起体10」によって奏されるものであり、この「突起体10」は、引用例1の第3図、第4図及び明細書に示されている「凸部10」に相当するものである。 引用例1自体には、本件作用効果2の明示はないが、「凸部10(本件訂正考案の「突起体10」)」が明示されている以上、引用例1の蓋を開放する際には、凸部10の先端が蓋受枠1の蓋の載置面2bに添って移動することとなり、蓋の載置面2bに溜った土砂等が蓋受枠内に掻き落とされることとなるから、上記作用効果は、引用例1に示される公知な構成及び作用効果なのであって、本件訂正考案固有の作用効果ではない。 3 被告の反論の要点 本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由には理由がない。 (1) 本件作用効果1について ア 本件審決は、本件作用効果1を本件訂正考案の作用効果として認定したものであって、原告主張のように、「蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ設けられた隙間」という構成要件によってのみ奏される作用効果であるとは認定していない。 このことは、本件審決が、本件訂正考案について、「蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11(注、蓋受枠6の少なくとも一箇所以上に形成され、突起体10を係入するための凹部)の底部11aとの間にのみ隙間が設けられ」(10頁)と(注)書を挿入していることや、「以上の記載から本件訂正考案においては…作用効果を奏するものである」(11頁)と認定していることからも明らかである。 しかも、本件訂正明細書に、本件作用効果1が明確に記載されている以上、本件審決がこれらを本件訂正考案が有する作用効果と認定することは当然である。 イ 原告は、本件作用効果1を奏するには、「溝」及び「傾斜」という構成要件がなければならないと主張するが、これは明らかに失当な主張である。すなわち、本件訂正考案においては、蓋受枠6と蓋本体2の下端外周縁との対面する面に逃げ空所5のみが存在し、該空所内に地表水とともに侵入した砂塵等は、環状脚部の底面と蓋受枠の受部9との間が当接状態で隙間がないため、逃げ場がなく、該空所が案内路となって必然的に凹部11内に溜まり、該凹部の底部11aにのみ設けられた「隙間」から排出されることになる。したがって、原告が主張する「溝」が存在しなくとも、本件訂正考案の構成要件から、本件作用効果1を奏することは明らかである。 また、原告は、「溝」が「考案の効果」の項に記載され、実施例として記載されていないと主張するが、考案の効果の項に記載されているからといって、 全て考案に必須不可欠要件であると結論づけることは短絡的な見解である。本件訂正考案を総合的に評価すれば、環状脚部の底面と凹部の底部との間にのみ隙間を設けて、該隙間から凹部内の砂塵等を地表水とともに排出することに技術的意義や本質があり、「溝」が本件訂正考案にとって必須不可欠な要件でないことは明らかである。 さらに、原告は、逃げ空所内に侵入した砂塵等が地表水とともに逃げ空所を周回溝として凹部内に侵入することは明細書に記載がない旨を反論するが、逃げ空所直下の受部9と環状脚部の底面とは閉じ状態になっていることなどに鑑みれば、逃げ空所から凹部内に砂塵等が地表水とともに侵入することは必然的かつ自明なことである。 (2) 本件作用効果2について ア 原告は、本件作用効果2について、本件訂正審決と本件審決との間に矛盾があると主張するが、両審決ともに本件訂正考案において本件作用効果1及び2を奏することが明細書に記載されていることを認めており、矛盾した認定をしていない。 すなわち、本件訂正審決は、引用例2ないし8との対比において、本件訂正考案のように「環状脚部3の底面と凹部11の底部11aとの間にのみ隙間を設ける」構成が、これらの引用例に開示ないし示唆する記載がないとして、進歩性を認定したものであるのに対し、本件審決は、本件訂正審決では提出されていない引用例12ないし14との対比において、これらの引用例には「フタ2の側面には突起は形成されていないため本件作用効果2を奏しない」と判断して進歩性を認定したものである。むしろ、両審決は共通して、本件訂正考案特有の構成である「蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11(突起体を係入するための凹部)の底部11aとの間にのみ隙間が設けられている」と正しく評価して進歩性を認め、さらに、本件訂正考案が、相違点3に係る構成としたことによって、明細書に記載された本件作用効果1及び2を奏すると認定したのである。 なお、本件訂正審決が、「掻き落とすという作用は、「隙間」の有無に関わりなく奏することができると考えられる。」と判断したことは、必ずしも正確ではなく、むしろ「「隙間」が存在すればより一層削り取りや掻き落としが容易となる」と記載すべきであったのである。 イ また、引用例1に、形式上、「凸部10」と「凹溝9」が存在することは認めるが、該凸部や凹溝の位置は、引用例1の第3図から明らかなように、蓋本体及び蓋枠体1の立上り面2aの中間位置にあって、本件訂正考案のように、突起体が蓋本体の下端外周縁に形成されているものではなく、該突起体を係入するための凹部も下端外周縁に形成されているものではなく、さらに、蓋本体の環状脚部の底面と凹部の底部との間にのみ「隙間」が設けられている構成でもないのである。 しかも、引用例1の凹溝は、蓋の旋回と上動規制のために凸部を嵌合させるものであるため、その形状も内向きに傾斜しており、該凹溝内に土砂等が堆積する形状ではないため、凹溝に添って凸部の先端が移動して凹溝に溜まった土砂等を削り取りつつ蓋枠内へ掻き落とすことは構造上あり得ないし、また、引用例1の明細書には、本件作用効果2を奏するような記載や示唆が全く存在しない以上、該引用例1から本件作用効果2が奏されることはあり得ないのである。 |
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当裁判所の判断
1 本件作用効果2について (1) まず、本件作用効果2について判断するところ、本件公報及び訂正明細書(甲2)によれば、本件訂正考案において、蓋2の環状脚部から突出した突起体10は、蓋受枠6に設けられた凹部11に係入されており、蓋2を開放する際に蓋受枠6から最後に離脱する箇所であると認められる。そして、本件公報の第1図(ニ)の位置関係から見て、突起体10の先端は、離脱の際に凹部11の底部11aと接触しながら移動するものと理解できるから、「蓋本体を開放する際には、突起体の先端をもって凹部の底部に溜まった土砂等が蓋受枠内に掻き落とされるため、凹部内に堆積物を生じることがなく、蓋本体の開閉が常にスムーズに行える」という本件作用効果2を奏することは明らかである。 (2) 原告は、本件訂正審決(甲3)が、「(なお、突起体10の先端が蓋受枠6の凹部11の底部11aに添って移動することにより、底部11aに溜まった土砂等を削り取りつつ蓋受枠6内へ掻き落とすという作用は、上記相違点3に係る「隙間」の有無に関わりなく奏することができると考えられる。)」と判断したことは、本件作用効果2を本件訂正考案固有の作用効果ではない旨の認定をしたものであり、本件審決と矛盾した判断となっていると主張する。 しかしながら、上記第1図(ニ)から容易に理解できるように、突起体10は、凹部11の中に係入されており、蓋を離脱させる際にその先端が底部11aの一定範囲と接触することは当然であり、このことは「隙間」の有無にかかわらず生ずることが明らかである。他方、本件訂正考案において、蓋本体の環状脚部3の底面と蓋受枠の受部9とは、「隙間」以外の箇所では当接しているから、逃げ空所5に進入した土砂は、「環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ設けられた隙間」から排出されることとなり、当該隙間部に堆積しやすくなるのであって、土砂を掻き落とすという本件作用効果2も、当該「隙間」部分の土砂を掻き落とす点に重要性があるのである。すなわち、土砂を掻き落とすために「隙間」が存在する必要はないが、土砂を掻き落とすのは「隙間」部分で行わなければ技術的意義がないといえる。本件訂正審決の「土砂を掻き落とすためには隙間が存在する必要はない」との記載は、上記の前段の点を指摘したものと解され、本件作用効果2が本件訂正考案の作用効果ではない旨を認定したものでないことが明らかである。 したがって、本件作用効果2に関して、本件訂正審決と本件審決との判断に矛盾があるとは認められず、原告の上記主張は採用することができない。 (3) 原告は、本件訂正考案の「突起体10」が引用例1の「凸部10」に相当するものであり、引用例1自体には、本件作用効果2の明示はないが、引用例1の蓋を開放する際には凸部10の先端が蓋受枠1の蓋の載置面2bに添って移動することとなり、蓋の載置面2bに溜った土砂等が蓋受枠内に掻き落とされることとなるから、本件作用効果2は、引用考案1に示される公知な構成及び作用効果なのであって、本件訂正考案固有の作用効果ではないと主張する。 しかしながら、引用例1(甲5)には、「9は蓋受枠体1の立上り面2a-側に穿設された凹溝であって、この凹溝9は前記錠体4が設けられた位置と対向する側に設けられており、蓋3の周側に突成された凸部10と嵌合され、該蓋3の旋回および上動を規制できるようになつている。」(5頁)と記載されるが、本件作用効果2に関するような記載は皆無である。これらの記載及び引用例1の第3図によれば、引用考案1の凸部10は、凹溝9と嵌合することにより、錠体4とともに該蓋3の旋回及び上動を規制するものであり、本件作用効果2のように凸部の先端により堆積物を掻き落とすことは全く想定されておらず、また、第3図のような形状であるとすると、通常の態様による蓋の脱着に際して、凸部10の先端は、凹溝9の底面を摺動するのみであって、蓋の載置面2bに溜った土砂等を蓋受枠内に掻き落とすことは、その構造上困難であると認められる。 しかも、本件訂正考案においては、前示のとおり、蓋本体の環状脚部3の底面と蓋受枠の受部9とは、「隙間」以外の箇所では当接しているのであるから、 逃げ空所5に進入した一定以上の大きさを有する土砂は、「隙間」を介してのみ排出され、そのため隙間部に集中的に堆積するのであり、このことを前提として、蓋2を開く際に突起体10が凹部11の底部11aの隙間に堆積した土砂を掻き落とす点に技術的意義があるのである。これに対して、引用考案1において、蓋の載置面2bには「隙間」が設けられておらず、蓋の載置面と蓋本体の環状脚部の底面とは当接しているから、この当接した部分に土砂が堆積するものでないことは明らかであり、凸部10が当該載置面を掻き落とすべき技術的必然性は認められないものである(なお、引用例1の第2図からみて、蓋本体の環状脚部の外面と蓋受枠体の内周縁の立上り面2aとの間に位置する若干の間隙2cの底面2bには、環状に一定の土砂が堆積されるものと解されるが、この内周縁の立上り面に近接した底面2bを、第3図に開示されるような凸部10が接触して掻き落とすことは、構造上極めて困難である上、上記のように環状に堆積する土砂について、凸部10の下部一箇所のみを掻き落とすことには技術的意義が認められない。)。 以上のとおり、本件訂正考案は、相違点3の構成である「隙間」とその上方に位置する凹部に係入される突起体(相違点1の構成)によって、本件作用効果2を奏することになるのであり、この作用効果は、本件各引用例のいずれにも開示されていない格別なものであるから、その余の点(本件作用効果1の進歩性等)について検討するまでもなく、本件訂正考案は、本件各引用例から極めて容易に考案することができたとはいえないものである。 2 結論 そうすると、原告主張の取消事由には理由がなく、本件訂正考案は、実用新案法3条2項の規定に該当しないものであるから、これと同旨の本件審決に誤りはなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)引用例目録1実願昭53-58692号(実開昭54-159749号)マイクロフィルム(甲5、以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用考案1」という。)2実願昭55-189780号(実開昭57-114853号)マイクロフィルム(甲6、以下「引用例2」という。)3実願昭54-66200号(実開昭55-168555号)マイクロフィルム(甲7、以下「引用例3」という。)4実公昭58-51246号公報(甲8、以下「引用例4」という。)5実公昭58-51248号公報(甲9、以下「引用例5」という。)6実公昭62-4595号公報(甲10、以下「引用例6」という。)7実公昭62-4596号公報(甲11、以下「引用例7」という。)8実公昭62-23885号公報(甲12、以下「引用例8」という。)9JISA5506-1987下水道用マンホールふた昭和62年1月31日発行表紙、P.1〜P14、裏付け(甲13、以下「引用例9」という。)10「機械工学辞典」1990年3月20日株式会社朝倉書店発行、P.190(甲14、以下「引用例10」という。)11第3版「鉄鋼便覧V鋳造・鍛造・粉末冶金」昭和57年10月1日丸善株式会社発行、P.7〜P.14(甲15、以下「引用例11」という。)12実願昭58-155106号(実開昭60-66748号)マイクロフィルム(甲16、以下「引用例12」という。)13特開昭58-150632号公報(甲17、以下「引用例13」という。)14実願昭55-186458号(実開昭57-110154号)マイクロフィルム(甲18、以下「引用例14」という。) |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青柳馨 |
裁判官 | 清水節 |