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事件 平成 15年 (ネ) 5103号 損害賠償請求控訴事件
控訴人(原審原告) 株式会社ドムス設計事務所
同訴訟代理人弁護士 上野勝
同補佐人弁理士 松永善蔵
被控訴人(原審被告) 松下電工株式会社
同訴訟代理人弁護士 小松 陽一郎
同 福田 あやこ
同 宇田浩康
同 井崎康孝
同 辻村和彦
同 井口 喜久治
同 平野和宏
同補佐人弁理士 中川文貴
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/28
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、1億1120万0120円及びこれに対する平成12年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文同旨
事案の概要
1 本件は、木質防振床材に関する実用新案権を有する控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が製造販売した製品が当該実用新案権の考案技術的範囲に属し、その製造販売が実用新案権を侵害するとして、不当利得返還請求権に基づき、実施料相当額合計1億1120万0120円及びこれに対する平成12年1月24日(本件訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求めた事案である。
原判決は、控訴人が有する実用新案権の考案が、実用新案法3条1項2号
3号に違反して登録されたものであり、同法37条1項2号の無効事由を有することが明らかであるから、同実用新案権に基づく損害賠償(不当利得返還)の請求は、権利の濫用に当たるとして、控訴人の請求を棄却した。
これに対し、控訴人は、原判決の取消しを求めて、本件控訴を提起した。
2 前提事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における控訴人の控訴の理由の要点及び被控訴人の反論の要点を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要の1、2」及び「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決9頁18行目の「仕上板」の次に「3」を、「スリット」の次に「4」を、同11頁9行目の「3〜5行」の次に「目」をそれぞれ加え、同12頁5行目の「8.5mm」を削除する。同13頁16行目の「そ根拠として」を「その根拠として」と、同16頁2行目及び6行目の各「変更出願時」を「本件変更出願時」とそれぞれ改める。
同24頁23行目、26行目、同25頁6行目及び同26頁10行目の各「235円」を「235円/u」と、同25頁13行目の「265.55円」を「265.55円/u」と、それぞれ改める。同25頁13行目から14行目にかけての「9912万3707円」の次に「の内金9912万円」を加え、同頁15行目の「平成4年12月9日(出願公告の日)」を「平成12年1月24日(本件訴状送達日)」と改める。原判決別紙1の2頁5行目の「上気」を「上記」と、同4頁11行目の「ゴム上弾性層」を「ゴム状弾性層」と、それぞれ改める。)。
3 控訴人の控訴の理由の要点 (1) 原判決の「本件補正」に関する事実認定の誤り 原判決が、「本件補正によって付加された「可撓性薄板が仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目」の構成によって、「リバウンドの防止による床衝撃音防止性能の向上」という本件変更出願の明細書および図面に記載されていない効果が付加されたから、要旨の変更に当たる」(30頁16ないし23行目)と認定判断したことは誤りであり、本件補正は、何ら新しい作用効果を付加していない。
すなわち、原判決の記載(28頁20行ないし29頁19行目)によれば、原判決のいう「本件補正」とは、平成3年2月9日付手続補正書(乙48)における補正のことであり、「本件変更出願」とは、平成元年3月24日付実用新案登録願(乙49)による変更出願であって、本件変更出願が本件補正に基づき本件考案補正されたものである。そして、控訴人が「リバウンドを防止することによる効果」を説明したのは、本件補正が行われる以前の平成2年9月8日付意見書(甲21、以下「本件意見書」という。)においてであって、この意見書は、原出願である特許出願を変更した本件変更出願の考案が具備している作用効果を、拒絶査定で示された引用例と対比しつつ、具体的に説明したものである。
このように、原判決が要旨を変更する理由として認定した、本件補正の構成によって付加されたとする作用効果が、本件補正が未だ行われていなかった平成2年9月8日付意見書で、既に説明されていたという事実は、原判決の上記認定判断が誤っていることを如実に示すものである。
(2) 原判決の認定における矛盾 原判決は、本件考案には「本件変更出願に係る明細書及び図面に記載されていない発明の効果 が付加 されている から、上記変更は明細書の要旨の変更にあたる」(30頁20ないし22行目)と認定しているが、上記下線部の原判決の判断によれば、原出願の特許発明の構成には、リバウンドの防止による作用効果が既に具備されていたことになる。
これは、本件補正によって、本件考案にリバウンドの防止による作用効果が付加されたという原判決の前記認定判断と、明らかに矛盾するものである。このことは、リバウンドを防止することによって床衝撃音防止性能を向上させるという作用効果が、原出願の特許発明にもともと具備されていたことを示すもので、本件考案は原出願との同一性を有し、何ら要旨の変更に当らないことを意味する。
(3) 原判決における明細書及び図面の審理不尽 特許請求の範囲あるいは実用新案登録請求の範囲に示されるクレームの技術的範囲は、明細書の詳細な説明ないし図面の記載を参酌して解釈することができる。そして、原出願の特許発明及び本件変更出願に係る考案と本件考案とは、同一構成であって、第1図、第2図にその実施例が図示され、構成材の厚さの関係(厚さの割合、プロポーション)として、厚さ1mmの可撓性薄板の下面には、これよりもかなり分厚い厚さ9mmのスリットを設けた仕上板があり、上面には、可撓性薄板よりも分厚い木質床化粧板が示されている(木質床化粧板の厚さについて具体的な寸法の記載はないが、上記図面において、木質床化粧板が仕上板よりは薄く、可撓性薄板より厚くした構成が図示されている。)。したがって、本件考案の「仕上板および木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板」という構成は、上記の明細書及び図面の記載を表現したものにすぎず、これによって何ら新規な効果が生じることはあり得ない。
また、原出願の特許発明の床衝撃音防止性能を示す実施例の試験データは、明細書の第4図、第5図に、本件変更出願及び本件考案の床衝撃音防止性能を示す実施例の試験データは、各明細書の第5図、第6図にそれぞれ示されており、
その性能数値(dB)とグラフ波形は、三者とも全く同一であって、原判決の「本件変更出願に係る明細書及び図面に記載されていない発明の効果が付加されている」という形跡は、上記のとおり、各明細書における試験データを調べてみても皆無である。
原判決の前記認定は、このように明細書の詳細な説明ないし図面に記載されている実施例の構成や性能に留意せずになされたものでる。
なお、控訴人は、平成4年7月10日付回答書(乙4、以下「本件回答書」という。)において、厚さ1mmの可撓性薄板の効果である床衝撃音防止性能の優位性を実験データを用いて実証したが、この効果は、原出願の特許発明がもともと具備していたものであり、本件変更出願及び本件考案の効果と同一のものである。
(4) 原判決による本件考案の出願日と無効事由の誤認 上記のとおり、本件補正による構成の付加が、原出願の要旨を変更するものではないことは明らかであるから、原判決の「本件補正の日である平成3年2月9日が本件考案の出願日とみなされる」(31頁9ないし10行目)との判断は誤りであり、本件考案の出願日は、原出願の出願日である昭和60年12月27日とみなすべきである。
そうすると、原判決が、本件考案が、証拠(乙50ないし53、59)による実用新案法3条1項3号の無効事由を有し、かつ、証拠(乙2の2、56)による同法3条1項2号の無効事由を有していると判断したことは、いずれも本件考案の出願後に刊行物として頒布され、あるいは、公然実施されたものに基づくものであるから、誤った判断である。
4 被控訴人の反論の要点 (1) 本件補正について 控訴人は、本件意見書において「リバウンドを防止することによる効果」を説明していたことをもって、原判決の本件補正に関する事実認定が誤っている旨主張しているが、控訴人の主張は失当である。
すなわち、控訴人の主張は、本件意見書の当該説明について、明細書又は図面に記載があるのと同様に取り扱われることを前提としているが、意見書の記載に補正と同様の効力を認めるのは相当でない。この点は、原判決の判示(31頁2ないし7行目)のとおりである。
(2) 原判決の認定における矛盾について 「発明の効果が付加されている」との原判決の判断は、本件補正により、
可撓性薄板が仕上板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目であるという構成が付加されるとともに、本件変更出願に係る考案及び原出願に係る発明の効果に、
上部からの衝撃加振に際して仕上板にリバウンドによる振動増幅が生じて衝撃音防止性能が低下したり、衝撃音の発音量が増大することを防止するという効果が付加されたものであることを述べているにすぎない。すなわち、原判決は、「原出願に係る発明の効果が付加されている」と述べたのではなく、「考案の効果が付加されている」又は「効果が付加されている」とすべきものであった。
そうすると、原判決の事実認定には、何ら矛盾が存しないのであり、控訴人の主張が失当であることは明らかである。
(3) 原判決における明細書図面の審理不尽について 控訴人は、原出願に係る発明と本件考案は同一構成であると主張しているが、数次にわたる補正の結果、原出願に係る発明と本件考案の構成が異なるものとなっていることは、原出願に係る発明の特許請求の範囲の記載と、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載とを対比すれば明らかである。
そして、本件変更出願の明細書(乙49)の考案の詳細な説明中には、
実施例として、木質防振床材の各層の厚さについて仕上板9mm、可撓性樹脂シート(可撓性薄板)1mm(第5図、第6図共通の説明)、緩衝板10mm(第5図の説明)、25mm(第6図の説明)との具体的な数値が記載されているものの、
木質床化粧板の厚さについての数値の記載はなく、各層の厚さについての一般的な説明も、各層の厚さの関係についての説明もないことは、原出願と同様である。実施例において、それぞれの厚さが具体的に示されている可撓性薄板と仕上板についてさえ、実用新案登録請求の範囲にその関係を新たに追加することは、本件変更出願に係る考案と本件考案との同一性を失わせるものである上、実施例において、その厚さが記載されていない木質床化粧板と可撓性薄板との厚さの関係を新たに追加することは、当然に、本件変更出願に係る考案と本件考案との同一性を失わせることになる。
したがって、たとえ実施例に関する記載、図面、試験データが同じであったとしても、原出願に係る発明及び本件変更出願に係る考案と本件考案に同一性はないのであり、控訴人の主張は失当である。
また、原出願に係る発明は乾式防振床に関するものであるのに対し、本件考案は木質防振床材であること、原出願に係る発明及び本件変更出願に係る考案においては木質床化粧板の厚さの数値が明らかでないことなどからして、原出願に係る発明及び本件変更出願に係る考案と本件考案とでは、実施例に関する記載、図面、試験データが同じであるとはいえず、控訴人の主張はその前提において誤りがある。 (4) 本件考案の出願日と無効事由について 前記のとおり、本件補正は、考案の要旨の変更を伴う補正であり、出願日は遡及せず、本件補正の日である平成3年2月9日が本件考案の出願日とみなされる。そうすると、本件考案の出願日が昭和60年12月27日であり、かつ、
証拠(乙2の2、乙50ないし53、56、59)記載の発明が本件考案の出願後の刊行物ないし公然実施されたものであることを前提とした控訴人の主張は失当である。
当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決26頁23行目の「21」の次に「32,33,」を加え、同行目の「乙5,」を「乙3ないし5,9,」と改め、同24行目の「57」の次に「,61,62」を加え、同26行目の「乾式防振床材」を「乾式防振床」と改める。
2 同27頁9行目の「実願」の前に「乙49,」を加え、同16行目の「溶接」を「密接」と、同28頁17行目の「6頁7行」を「6頁14行」と、それぞれ改める。
3 同29頁11行目の「第図4は」を「同第7頁第19〜第8頁第2行目において、『第4図は」と、同13行目の「合板上にの厚さ記載」を「合板上に』の厚さの記載」と、同17行目の「5頁6行」を「5頁7行」と、同21行目の「乙38」を「乙36」と、それぞれ改める。
4 同29頁23行目の「行い」の次に「(乙37の1,2)」を、同24行目の「提起した」の次に「(乙38の1)」を、それぞれ加える。
5 同30頁4行目の「以下」の前に「乙47,」を、同5行目の「確定した。」の次に行を改めて、「特許庁は、平成15年8月12日、本件実用新案権に係る実用新案登録を無効とする旨の審決を行った(乙62)。」を、それぞれ加え、同12行目の「実用新案登録請求の範囲」を「特許請求の範囲」と改める。
6 同30頁21行目及び同31頁5行目の各「発明」を、いずれも「考案」と、同32頁26行目の「昭63」を「昭62」と、同33頁24行目から25行目にかけて及び同34頁4行目から5行目にかけての各「クッション層」を「クッション材層」と、それぞれ改める。
7 同34頁1行目及び11行目の各「3.3mm」を、いずれも「3.2mm」と、同2行目の「化粧版」を「化粧板」と、同9行目の「弾性シート層」を「軟質シート層」と、同15行目の「従来例」を「該従来例」と、それぞれ改め、
同19行目「条溝5」の次に「の部分で遮断されて条溝5」を、同20行目から21行目にかけての「防音効果」の前に「…」を、それぞれ加える。
8 同35頁4行目の「介在」を「介」と、「防音基材」を「防音床材」と、同25行目及び同36頁8行目の各「3mm」を、いずれも「3.3mm」と、それぞれ改める。
9 同39頁3行目の「損害賠償の請求」を「不当利得返還請求」と改める。
10 原判決の「本件補正」に関する事実認定の誤りについて 控訴人は、原判決が要旨を変更する理由として認定した、本件補正の構成によって付加されたとする「リバウンドを防止することによる効果」が、本件補正が未だ行われていなかった平成2年9月8日付本件意見書で既に説明されていたという事実は、原判決の上記認定判断が誤っていることを示すものであると主張する。
しかしながら、本件補正前の願書添付の明細書考案の詳細な説明において、可撓性薄板を仕切板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄めとする構成及びそれに基づくリバウンドの防止効果に関する開示ないし示唆がないことは、原判決摘示(30頁15行目ないし31頁7行目)のとおりであり、その後に提出された本件意見書において、原告が、可撓性薄板を仕切板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄めとすることに基づく作用効果を説明したとしても、当該明細書自体に開示ないし示唆がないという事実が左右されるものでないことは明らかであって、更にその後に行われた本件補正において、上記の構成及び効果が付加されれば、明細書の要旨の変更に当たるものといわなければならない。
したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
11 原判決の認定における矛盾について 控訴人は、原判決が、本件考案に「本件変更出願に係る明細書及び図面に記載されていない発明の効果が付加されている」と認定したことは、原出願の特許発明の構成にリバウンドの防止による作用効果が既に具備されていたことを認定するものであり、本件補正により本件考案にリバウンドの防止による作用効果が付加されたとする原判決の前記認定判断と、明らかに矛盾すると主張する。
しかしながら、原判決は、「本件補正においては、可撓性薄板について、
仕上板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目であるという構成が付加されている。そして、上記のような構成を付加することによって、上部からの衝撃加振に際して仕上板にリバウンドによって振動増幅が生じて衝撃音防止性能が低下したり、衝撃音の発音量が増大することを防止するという、本件変更出願に係る明細書及び図面に記載されていない発明の効果が付加されている」(原判決30頁16ないし22行目)と判示するものであり、この判示は、本件補正により、本件考案に、可撓性薄板が仕上板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目であるという構成が付加されるとともに、本件変更出願に係る明細書及び図面に記載されていないリバウンドの防止効果が付加されたことを述べるものである。その際、本件考案について、「発明」の効果が付加されたと説示したことは誤りであり、正確には「考案」の効果が付加されたと説示すべきであったが、このような表記上の誤りは、原判決の上記説示全体から容易に認識できるところである。原判決が、「発明」という語句を使用したからといって、控訴人主張のように、原出願の特許発明に上記の効果が開示されていたと認定するものでないことは明らかといわなければならない。
したがって、原判決の認定に矛盾はなく、控訴人の上記主張も、採用することができない。
12 原判決における明細書及び図面の審理不尽について 控訴人は、原出願の特許発明及び本件変更出願に係る考案と本件考案とが同一構成であることは、第1図、第2図の実施例に図示され、また、各明細書には、厚さ1mmの可撓性薄板の下面に厚さ9mmの仕上板を設けることが示されているにもかかわらず、原判決は、このような明細書及び図面の記載に留意していないと主張する。
なるほど、控訴人主張のとおり、原出願の特許発明及び本件変更出願に係る考案の各明細書(乙5,49)において、実施例として、厚さ1mmの可撓性薄板の下面に厚さ9mmの仕上板を設けることが記載されている。しかしながら、これらの記載は、可撓性薄板及び仕上板の相互の厚さの関係を保持することにより、何らかの作用効果を生じる技術的事項として開示されているものとは認められないばかりでなく、上記各明細書には、可撓性薄板が仕上板(及び木質床化粧板)よりも多分に薄目であるという構成を有することによって、上部からの衝撃加振に際して仕上板にリバウンドによる振動増幅が生じて衝撃音防止性能が低下したり、衝撃音の発音量が増大することを防止するという作用効果が生じることは、全く開示されていない。また、可撓性薄板と木質床化粧板との相互の厚さの関係は、図面上のその一例が示されているのみであって、上記各明細書には、実施例としても具体的な厚さが示されていないから、上記の特定の構成が開示されているとは、到底、認めることができない。
したがって、原判決が明細書及び図面の記載に留意していないとする控訴人の主張は、採用することができない。
また、控訴人は、原出願の特許発明の床衝撃音防止性能を示す実施例の試験データが、明細書の第4図、第5図に、本件変更出願及び本件考案の床衝撃音防止性能を示す実施例の試験データが、各明細書の第5図、第6図にそれぞれ示されており、その性能数値(dB)とグラフ波形は、三者とも全く同一であることを、原判決が留意していないと主張する。
しかしながら、これらの図面に関して、本件変更出願に係る明細書(乙49)には、「両図の実測結果共、仕上板3にスリット4を設刻することにより250サイクルにおける床衝撃音防止性能の改善結果が顕著に表れており、本願考案の顕著な効果を示している。」(11頁9ないし12行目)と記載される(乙5の8頁5ないし8行目にも同趣旨の記載がある。)ように、床衝撃音防止性能の顕著な効果は、仕上板にスリットを設刻したことに基づくものであることが明記されており、可撓性薄板が仕上板及び木質床化粧板よりも多分に薄目であるという構成を有することによって、上記の効果を生じることは、全く開示されていない。したがって、上記の各図面が同一であることを理由として、原出願の特許発明及び本件変更出願に係る考案に、本件補正により付加されたリバウンドの防止という前記作用効果が開示されていたとは、到底、いうことができない。
そうすると、この点に関する控訴人の主張も採用することができない。
なお、原告は、本件回答書(乙4)において、厚さ1mmの可撓性薄板の効果である床衝撃音防止性能の優位性を実験データを用いて実証し、この効果は、原出願の特許発明がもともと具備していたものであり、本件変更出願及び本件考案の効果と同一のものである旨主張するが、原出願の特許発明及び本件変更出願に係る考案に上記の構成に基づく作用効果に関する記載がないことは、前記説示のとおりである。
13 以上のとおり、本件補正による構成及び作用効果の付加は、明細書の要旨を変更するものであるから、原判決が、「本件補正の日である平成3年2月9日が本件考案の出願日とみなされる」(31頁9ないし10行目)と判断したことに誤りはなく、本件考案の出願日が原出願の出願日である昭和60年12月27日とみなすべきであるとする控訴人の主張を採用する余地はない。
そうすると、原判決が、本件考案は、証拠(乙50ないし53、59)による実用新案法3条1項3号の無効事由を有し、かつ、証拠(乙2の2、56)による同法3条1項2号の無効事由を有していると判断したことは、いずれも正当なことといわなければならない。
結論
以上のとおり、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人
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