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関連審決 訂正2003-39025
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  引用考案の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  先願考案 /  きわめて容易 /  先願 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  置換 /  設計変更 /  先願 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 381号 審決取消請求事件
原告 光陽産業株式会社
訴訟代理人弁護士 寒河江孝允
同 武藤元
訴訟代理人弁理士 渡辺昇
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 神崎潔
同 藤井俊明
同 島愼二
同 高木進
同 涌井幸一
被告補助参加人 株式会社藤井合金製作所
訴訟代理人弁理士 園田敏雄
同 宮崎栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が訂正2003-39025号事件について平成15年7月15日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,考案の名称を「ガスコツク」とする登録第2078022号実用新案(昭和62年7月10日出願(以下「本件出願」という。),平成7年9月4日設定登録(以下「本件実用新案登録」という。)。請求項の数は1である。)の実用新案権者である。
原告は,平成15年2月14日に,本件出願の願書に添付した明細書(以下,同願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。)を,実用新案登録請求の範囲に関して訂正すること(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を「本件訂正明細書」という。)につき審判を請求(以下「本件訂正審判請求」ともいう。)した。特許庁は,これを訂正2003-39025号事件として審理し,その結果,平成15年7月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年7月25日,その謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲(本件訂正後のもの。別紙図面A参照) 「互いの軸線を一致させた流入通路および流出通路とこれらの間に形成された栓挿入孔とを有するコック本体と,このコック本体の栓挿入孔に回動自在に挿入され,回動軸線が前記流入通路および流出通路の軸線と直交し,回動軸線と直交する方向に貫通するガス通路が形成された栓とを備え,前記ガス通路の両端部が流入通路と前記流出通路とにそれぞれ連通した開状態と,この開状態から正逆方向へそれぞれ所定位置まで回動させることにより,前記ガス通路の両端部が前記栓挿入孔の内周面によって遮蔽されるとともに,前記流入通路と前記流出通路とが前記栓によって遮断された閉状態とに切り換えられるガスコックにおいて, 前記コック本体の外面に,円筒面をなす外周部に柔軟性を有する検査用のガス用ゴム管が挿入される突出部を一体に形成し,この突出部が,前記流入通路および流出通路の軸線と直交するとともに前記栓の回動軸線と直交する方向に突出し,その突出方向における前記コック本体の外寸法より短く, 前記コック本体に,一端が前記突出部の先端面に開口するとともに,他端が前記栓挿入孔の内周面に開口し,栓挿入孔の内周面における開口部が閉状態時には前記ガス通路と連通する検査用の流出孔を形成し, この流出孔を遮蔽する閉栓を,流出孔にねじ込むことにより前記コック本体の突出部に着脱自在に設け, 前記栓に,一端が前記ガス通路の内面に開口し,他端が栓の外周面に開口し,外周面における開口部が,開状態時には前記流出孔と連通し,閉状態時には前記栓の回動位置に応じて前記流入通路と前記流出通路とのいずれか一方と対向して連通し,他方に対して遮断される連通孔を形成したことを特徴とするガスコック。」(以下「訂正考案」という) 3 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,訂正考案は,実願昭51-41252号(実開昭52-132335号)のマイクロフィルム (本訴甲第6号証。
以下,審決と同様に「第1引用例」という。)に記載された考案(以下「引用考案」という。別紙図面B参照)に基づき当業者がきわめて容易考案をすることができたものであって,実用新案法3条2項により,実用新案登録出願の際,独立して実用新案登録を受けることができないものであり(以下「訂正判断1」という。),また,訂正考案は,実願昭62-11142号(実開昭63-118463号)のマイクロフィルム(本訴甲第16号証。以下,審決と同様に「先願」という。)に記載された考案(以下,審決と同様に「先願考案」という。別紙図面C参照)と同一のものとみることができ,実用新案法3条の2により,実用新案登録出願の際,独立して実用新案登録を受けることができないものである(以下「訂正判断2」という。)から,本件訂正審判請求は,いずれの理由によっても退けられなければならないことになる,とするものである。
(1) 審決が,訂正判断1の結論を導くに当たり,訂正考案と引用考案との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「流入通路および流出通路とこれらの間に形成された栓挿入孔とを有するコック本体と,このコック本体の栓挿入孔に回動自在に挿入され,回動軸線が前記流入通路および流出通路の軸線と直交し,回動軸線と直交する方向に貫通するガス通路が形成された栓とを備え,前記ガス通路の両端部が流入通路と前記流出通路とにそれぞれ連通した開状態と,前記流入通路と前記流出通路とが前記栓によって遮断された閉状態とに切り換えられるガスコックにおいて,前記コック本体の外面に,柔軟性を有する検査用のガス用ゴム管を,直接または間接的に挿入して接続できるようにするための,突出部を形成し,この突出部が,前記流入通路の軸線と直交するとともに前記栓の回動軸線と直交する方向に突出し,前記コック本体に,一端が前記突出部の先端面に開口するとともに,他端が前記栓挿入孔の内周面に開口し,栓挿入孔の内周面における開口部が閉状態時には前記ガス通路と連通する検査用の流出孔を形成し,前記栓に,一端が前記ガス通路の内面に開口し,他端が栓の外周面に開口し,外周面における開口部が,開状態時には前記流出孔と連通し,閉状態時には前記流出通路と対向して連通し,他方(流入通路)に対して遮断される連通孔を形成したガスコック」 相違点1 「流入通路と流出通路との配置関係が,訂正考案では「互いの軸線を一致」すると共に,突出部(及び検査用の流出孔)が「流入通路および流出通路の軸線と直交する」関係となっているのに対し,第1引用例記載の考案では流入通路と流出通路とが「90°の間隔」(互いの軸線が直交する状態)となっており,突出部(及び<検査用の流出孔>に相当する第2排出口)は,<流入通路(吸入口)の軸線>とは直交して,<流出通路(第1排出口)の軸線>とは一致する関係となっている点。」(以下「相違点1」という。) 相違点2 「訂正考案における「開状態から正逆方向へそれぞれ所定位置まで回動させることにより,前記ガス通路の両端部が前記栓挿入孔の内周面によって遮蔽される」閉状態に切り換えられる構成と,連通孔の栓外周面における開口部が,「閉状態時には前記栓の回動位置に応じて前記流入通路と前記流出通路とのいずれか一方と対向」する構成について,第1引用例に言及がない点。」(以下「相違点2」という。) 相違点3 「検査用のゴム管と,コック本体に形成される突出部との接続関係が,訂正考案では,ゴム管を,前記コック本体に「突出方向における前記コック本体の外寸法より短く」形成された,「突出部」の「円筒面をなす外周部」に直接挿入して接続するのに対し,第1引用例記載の考案では,<突出部>に螺着される「ニップル状のホースエンド」を介して間接的にゴム管を挿入接続しており,また,当該ホースエンドの長さを短くすることや外周部の形状を円筒状にすることについては格別の言及はない点。」(以下「相違点3」という。) 相違点4 「訂正考案における,「流出孔を遮蔽する閉栓を,流出孔にねじ込むことにより前記コック本体の突出部に着脱自在に設け」る構成について,第1引用例に言及がない点。」(以下「相違点4」という。) (2) 審決が,訂正判断2の結論を導くに当たり,訂正考案先願考案との一致点及び一応の相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「互いの軸線を一致させた流入通路および流出通路とこれらの間に形成された栓挿入孔とを有するコック本体と,このコック本体の栓挿入孔に回動自在に挿入され,回動軸線が前記流入通路および流出通路の軸線と直交し,回動軸線と直交する方向に貫通するガス通路が形成された栓とを備え,前記ガス通路の両端部が流入通路と前記流出通路とにそれぞれ連通した開状態と,この開状態から正逆方向へそれぞれ所定位置まで回動させることにより,前記ガス通路の両端部が前記栓挿入孔の内周面によって遮蔽されるとともに,前記流入通路と前記流出通路とが前記栓によって遮断された閉状態とに切り換えられるガスコックにおいて,前記コック本体の外面に,柔軟性を有する検査用のガス用ゴム管が直接または間接的に接続できるようにした突出部を一体に形成し,この突出部が,前記流入通路および流出通路の軸線と直交するとともに前記栓の回動軸線と直交する方向に突出し,前記コック本体に,一端が前記突出部の先端面に開口するとともに,他端が前記栓挿入孔の内周面に開口し,栓挿入孔の内周面における開口部が閉状態時には前記ガス通路と連通する検査用の流出孔を形成し,この流出孔を遮蔽する閉栓を,流出孔にねじ込むことにより前記コック本体の突出部に着脱自在に設け,前記栓に,一端が前記ガス通路の内面に開口し,他端が栓の外周面に開口し,外周面における開口部が,閉状態時には前記栓の回動位置に応じて前記流入通路と前記流出通路とのいずれか一方と対向して連通し,他方に対して遮断される連通孔を形成したガスコック」 一応の相違点 「検査用のガス用ゴム管と突出部の接続関係について,訂正考案では,ゴム管を突出部の「円筒面をなす外周部」に直接挿入して接続すると共に,前記の突出部を,「その突出方向における前記コック本体の外寸法より短く」しているのに対して,先願考案では,プラグやコンセントを介して突出部に接続する構成をとり,突出部がどのように突出しているかについては特段の言及がない点」(以下「一応の相違点1」という) 「訂正考案における,「(連通孔が)開状態時には前記流出孔と連通」する構成が,先願明細書又は図面に明確には開示されていない点」(以下「一応の相違点2」という。)
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,訂正判断1において,訂正考案と引用考案との一致点の認定を誤り(訂正判断1についての取消事由1),相違点3及び相違点4についての各判断並びに相違点3及び4に係る本件考案の各構成の組合せについての判断を誤り(訂正判断1についての取消事由2ないし4),訂正考案の顕著な作用効果を看過した(訂正判断1についての取消事由5)ことにより,訂正考案が引用考案に基づき当業者がきわめて容易考案をすることができたと誤って判断するとともに,訂正判断2において,訂正考案先願考案と実質同一であると誤って判断したものであり(訂正判断2についての取消事由),これらの誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として,取り消されるべきである。
1 訂正判断1についての取消事由1(一致点認定の誤り) (1) 引用考案における突出部の認定の誤り 審決が,引用考案について,「第1図,第3〜5図の記載を参酌すると,「ゴムホースを随時直接挿し込むことができ」るホースエンド(5)の基端が「螺着」(上記b参照)される部分は,ホースエンドを介して上記ゴムホースを接続するために<コック本体の外面>に<一体に形成>された<突出部>とみることができるし,当該<突出部>とみることができる部分は,<前記流入通路の軸線と直交するとともに前記栓の回動軸線と直交する方向に突出し>て形成されているといえる。」(審決書4頁36行〜5頁4行)と認定した上で,訂正考案と引用考案との一致点を,「前記コック本体の外面に,柔軟性を有する検査用のガス用ゴム管を,直接または間接的に挿入して接続できるようにするための,突出部を形成し,この突出部が,前記流入通路の軸線と直交するとともに前記栓の回動軸線と直交する方向に突出し」(審決書5頁26行〜29行)と認定した。しかし,審決のこの認定は,誤りである。
審決は,別紙2の参考断面図記載の引用考案の部位T(以下「部位T」ともいう。)が突出しているのは,ゴムホースを接続するためではなく,ホースエンドを螺合させるためである,すなわちねじ代を稼ぐためである,という事実を無視している。審決は,引用考案において,部位Tが突出していることと,ゴム管を接続することとの間に,技術的関係が全くないにもかかわらず,部位Tを,ゴム管を接続するために突出している訂正考案の突出部に対応する突出部と認定しているのである。審決は,引用考案の突出部の有する技術的意味の認定を誤ったことにより,引用考案の部位Tを訂正考案の突出部と一致する,と誤って認定したものである。
(2) 審決は,相違点の一つ(相違点3)を,「訂正考案では,ゴム管を,・・・「突出部」の「円筒面をなす外周部」に直接挿入して接続するのに対し,第1引用例記載の考案(判決注・引用考案)では,<突出部>に螺着される「ニップル状のホースエンド」を介して間接的にゴム管を挿入接続しており」(審決書6頁11行〜15行)と認定している。
しかし,審決のこの相違点の認定は,上記のとおり,引用考案の部位Tを突出部と認定したことと矛盾しており,明らかに誤りである。
2 訂正判断1についての取消事由2(相違点3についての判断の誤り) (1)突出部の多義的認定における矛盾 審決は,相違点3について,「ゴム管接続用のホースニップルを,第1引用例記載のようにコック本体とは別部材のものとするか,・・・コック本体,またはその主要部と一体に形成される突出部とするかは,いずれも周知の手段であって,そのどちらを採用するかは通常の選択的設計事項である。」(審決書7頁6行〜12行)とした上で,「コック本体とゴム管との接続を確実にするという優位性や必要性を無視してもよいのであれば,ホースニップルの長さを短いものにしたり,通常採用される波形の外周形状に代えて,「円筒面をなす」形状とすること自体は,当業者が容易になしうる設計変更というべきである。」(審決書7頁13行〜16行)と判断した。審決は,この判断において,引用考案のホースニップルを,訂正考案の突出部に相当する構成として認定している。
しかし,審決のこの認定は,引用考案のホースニップルの基端が螺着される部位Tが訂正考案の突出部に相当すると認定したことと,明らかに矛盾している。審決は,このように引用考案と訂正考案とを対比するに当たり,引用考案における突出部を多義的に認定しているのである。このような多義的な認定をした上でなされた相違点3についての判断は,誤りという以外にない。
(2) 審決は,相違点3に係る訂正考案の構成の容易想到性についての判断を,二つの段階に分けて行っている。第1段階は,「ゴム管接続用のホースニップルを,第1引用例記載のようにコック本体とは別部材のものとするか,・・・コック本体,またはその主要部と一体に形成される突出部とするかは,いずれも周知の手段であって,どちらを採用するかは通常の選択的設計事項である。 」(審決書7頁6行〜12行)とした判断であり,これは,別体型ホースニップルから一体型ホースニップルへの置換容易性についての判断である。第2段階は,「コック本体とゴム管との接続を確実にするという優位性や必要性を無視してもよいのであれば,ホースニップルの長さを短いものにしたり,通常採用される波形の外周形状に代えて,「円筒面をなす」形状とすること自体は,当業者が容易になしうる設計変更というべきである。」(審決書7頁13行〜16行)との判断である。この判断は,一体型ホースニップルから円筒形状の短い突出部への置換容易性についての判断である。しかし,これらの判断は,いずれも誤りである。
(ア) 別体型ホースニップルから一体型ホースニップルへの置換容易性についての判断の誤り 引用考案の別体型ホースニップルを一体型ホースニップルへ置き換えることに想到することは,容易ではない。
(a) ガスコック設置作業時にのみ用いられる検査用のホースニップルを一体化すれば,ホースニップルを取り外すことができず,ガスコックの設置スペースの増大と梱包の大型化を招く。このため,別体型ホースニップルを一体型ホースニップルに置き換える,との発想は生まれない。
(b) 訂正考案のガスコックは,流入通路と流出通路と栓とが同一平面上に配置されるため,設置スペースが小さく梱包も小型化できるという利点を有する。
これに対し,その平面と直交する方向に大きく突出する一体型ホースニップルを設けると,これらの利点を失うことになる。したがって,引用考案のガスコック(ガス栓)を,訂正考案のように流入通路と流出通路とが同一軸線上をなすガスコックに変更することを前提にした場合,なおさら上記置換の発想は生まれないのである。
(イ) 一体型ホースニップルから円筒形状の短い突出部への置換容易性についての判断の誤り 審決は,相違点3の第2段階の置換容易性に関して,次のように説示する。
「コック本体にガス管接続用の突出部を<一体に形成する>構造は周知のものといえるし,ガス管の不確実な接続状態をも許容するというのであれば,「円筒面の外周部を有する短い」形状の突出部でも,ゴム管の一応の接続が可能になるのは明らかであって,そのような形状を選択することに困難性があるとはいえない。 」(審決書8頁20行〜24行),「検査用ゴム管の接続が「不完全であっても許容され」るか否かは,当業者が検査の状況や目的・態様に応じて適宜決定すればよいことであって,そのような判断を下すこと自体に格別の技術的意義や困難性をみいだすことはできない。そして,「逆転の発想」とは,当該発想の結果,常識的には全く予測しがたいような作用効果が実現される場合に用いられるべき表現であって,「ガス用ゴム管をチョイ付け」する結果として,検査用ゴム管の「不完全」な接続状態が実現されるというのでは当然予測されるところでしかなく,これをもって「逆転の発想」とする評価は明らかに適切を欠く。」(審決書9頁27行〜35行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,検査時のみに一時的に突出部にガス用ゴム管が接続されるという特殊事情を考慮してなされた訂正考案の発想の困難性を,全く無視したものである。
訂正考案における,円筒面をなす短い突出部とゴム管の接続は,通常のガスの使用状態を想定すれば,不確実,不完全なものである。最初は接続が完全であっても,予期し得ない力がゴム管に加わったり,長期の使用によりゴム管が少しずつずれて外れてしまったりするおそれがある。しかし,訂正考案においては,突出部へのゴム管接続は,検査時に一時的に行われるだけであり,しかも,検査は常に専門技術者の監視下において行われるため,上記のような事態を考慮する必要がない。上記の接続は,検査用の一時的な接続としては,決して,不確実,不完全なものではないのである。
引用考案のホースニップルの場合には,検査用のゴム管を抜くのが非常に大変である。これに対して,訂正考案の円筒状の短い突出部の場合には,検査用のゴム管を抜くのはきわめて容易である。さらに,訂正考案では,突出部が円筒状をなすため,ゴム管との密着面積が大きく,それゆえ,突出部を短くしても高い気密性を維持することができ,検査を支障なく行うことができる。
訂正考案の発想の困難性は,検査の際には,通常のガスの使用状態におけるのと異なり,このような接続方式とするのが最良である,ということを発見するところにある。このような発見は,ガス管接続の常識(ガス管を容易に抜けることのないように接続すること)にとらわれた当業者にとっては,容易になし得るところではないのである。
(3) 補助参加人は,ガスコックにおける周知技術として,実公昭46-3194号公報(丙第1号証,以下「丙1文献」という。)を提出する。確かに,丙1文献には,軸線を一致させた円筒形状の長い接続部と,これら接続部と直交する勾配を有する長い円筒形状の接続部とを有するコックが開示されている。しかし,このコックは,ガスコックではない。ましてや,検査機能付きガスコックではない。したがって,丙1文献に記載された技術をガスコックに係る周知技術とするのは誤りである。
3 訂正判断1についての取消事由3(相違点4についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点4について,「コックや弁等に設けた,通常使用しない開口や使用頻度が少ない開口を,「閉栓」を「ねじ込むことにより」遮蔽することは,上記の二つの参考文献(実願昭47-57395号(実開昭49-18136号)のマイクロフィルム(判決注・本訴甲第11号証,以下「甲11文献」という。),特公昭40-20306号公報(判決注・本訴甲12,以下「甲12文献」という。))にも示されるように,当該技術分野における常套手段といえるものであり,第1引用例記載の圧力検査に使用される「第2排出口」,あるいは当該「第2排出口」に続く開口は,通常使用する必要はないから,そのような頻繁に使用する必要がない開口に対して,上記の常套手段を採用することに困難性は認められらない。」(審決書7頁18行〜25行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
甲11文献は,流体を制御するための弁を開示している。しかし,ガス流通を制御するための弁を開示しているわけではない。また,甲11文献の弁に用いられる閉栓は,流体の流通とは無関係な弁軸挿入用の開口に,弁軸挿入後,螺着するものであり,訂正考案のガスコックのようなガス流通用の開口を塞ぐための閉栓とは全く異なる。
甲12文献の調節弁は,液体を流通させるためのものであり(甲第12号証1頁右欄24行),訂正考案のガスコックとは技術分野が異なる。ガスコックの技術分野においては,閉栓を用いてガス流通用の開口を閉じることは常套の手段ではない。また,甲12文献の調節弁では,金属製配管を開口にねじ込んで接続するようになっており,この金属製配管接続のためのねじ孔を利用して閉栓を装着するものであり,訂正考案のようにガス用ゴム管を直接挿入して接続する突出部に,閉栓を装着する構成とは全く異なる。
(2) 被告及び補助参加人は,「螺蓋」(ねじ込み式の閉栓)を用いて,通常使用しないガス流通用の開口を閉じておくことを開示する文献として,新たに実公昭31-1863号公報(丙第3号証,以下「丙3文献」という。)を挙げている。
しかし,丙3文献は,審決の判断の資料とされているものではない。このような文献を,「ゴム管が直接接続される部位に閉栓を装着する構造」を示す証拠として引用することは,許されるべきではない。
仮に,そのような引用が許されるとしても,丙3文献には,流出管をコック本体から長く延ばしてL字形にし,この流出側の管の波形先端部に閉栓を装着する構成のものが記載されており,この構成における「螺蓋」(閉栓)を訂正考案のような短い検査用突出部に適用することは困難である。丙3文献記載の閉栓装着構造は,ガスコックの分野において稀有の構造であり,周知,常套の手段ではない。
このような稀有の構造のものについての丙3文献の開示内容に基づいて,別紙1の(C)から(D)への改造に至るのは,きわめて困難である。
(3) 引用考案の検査機能付きガスコックの場合,仮に検査終了後に不要となった検査口を閉じる必要があるならば,この検査口からホースエンドを外して,その代わりに閉栓をねじ込むはずであり(別紙5の(C)から(D),及び,(D)から(E)参照),これを別紙1の(A)から(D)への第1段階から第3段階への改造に至る迂回経路を経ることは,当業者にとってあり得ない発想である。甲11文献,甲12文献や丙3文献に記載されている閉栓を,引用考案のガスコックに適用して訂正考案の構成に想到するのが困難であることは,このことからも明らかである。
(4) 審決の次の判断(特に下線を付加した部分)は誤りである。
「請求人は,上記相違点4の評価に関して,「第1引用例の第2排出口を閉塞するのに閉栓を用いて遮蔽する場合には,ホースエンドを取り外して閉栓をねじ込むことになる」から,訂正考案に比べて検査の「作業性が悪くなる」旨主張する。 たしかに上記主張に係る不都合は否定できないが,訂正考案のような接続手段を採る場合には,上述のとおり,ガス管の接続が不確実になるという問題を生じかねないことを考慮すれば,上記の作業性が悪いという不都合は相対的なものでしかないという評価が可能である。 しかも,第1引用例記載のものも,ガス管接続用のホースエンドをコック本体と<一体に形成する>という周知の構造を採用すれば,上記の閉栓は,必然的にホースエンドの先端近傍に設けることになり, 「ホースエンドを取り外」す必要はなくなるのであるから,上記作業性の改善は当然予測しうる範囲内の事項といえる。」(審決書8頁6段〜8段) (ア) 訂正考案において,検査状況下ではガス管の接続に何の問題も生じず,ガス管の着脱が容易であるなどの利点が生じることは前述したとおりであり,上記審決の「作業性が悪いという不都合は相対的なものでしかない」との判断は全くの誤りである。
(イ) コック本体と一体をなすホースエンドの先端近傍に閉栓をねじ込むことについても,その必然性はない。「都市ガス工業 器具編」(昭和47年3月20日,社団法人日本瓦斯協会発行,甲第10号証。以下「甲10文献」という。)の258頁に示すように,不使用時のホースエンドにはゴムキャップを装着するのが一般的である。これとは異なり,訂正考案のように,ゴム管挿入用の突出部の先端に閉栓をねじ込んで検査用の流出孔を閉塞するという特異な構造は,必然でも自明でもないのである。
4 訂正判断1についての取消事由4(相違点3,4に係る訂正考案の各構成の組合せについての判断の誤り) 審決は,相違点3,4に係る訂正考案の各構成の有機的結合について,次のとおり判断した。
「訂正考案が,前記の相違点3で指摘した構成と,相違点4で指摘した構成とを,併せ備えていることは明らかであるが,そうであるからといって,それら二つの構成が「有機的結合」をなしているか否かは必ずしも明確とはいえないし,そのような根拠が示されているともいえない。 もっとも,請求人は,上記(3)で言及した,通常使用しない開口を「閉栓を用いて遮蔽する場合」に,訂正考案では,第1引用例記載のもののように「ホースエンドを取り外して」閉栓をねじ込む必要がない点を,上記の有機的結合による効果というのかも知れないが,上述のように,第1引用例記載のものでも,ホースエンドをコック本体と<一体>に形成する周知の構造を採用しうることは明らかで,その場合,「ホースエンドを取り外」すということ自体が不可能となるのであるから,上記の「有機的結合」とする評価を採用しうる余地はない。」(審決書9頁10行〜21行)。
しかし,訂正考案における円筒形状の短い突出部は,ゴム管の直接接続と閉栓装着の両機能を併せ持つものであり,従来技術と全く異なる有機的結合による構造である。審決の上記判断は誤りというしかない。
5 訂正判断1についての取消事由5(顕著な作用効果の看過) (1) 引用考案は,相違点3に係る訂正考案の構成を備えないことにより,訂正考案が同構成によって奏する次の@ないしDの効果を奏し得ないものになっている。
@ ガス圧検査時あるいはガス漏洩検査時には,検査器に取り付けられたガス管を突出部に嵌め込むだけで検査器をガスコックに接続することができ,検査器を容易に接続することができるとの効果が得られる。
A 検査用の突出部がコック本体と一体をなすので構造が簡単である。
B ガス用ゴム管を装着するための特殊な部品ないしは器具を必要とせず,その管理も不要である。
C 突出部の外周部が円筒面をなしており,ガス用ゴム管の内周面との密着面積が大きいので,突出部を短くしても充分な気密性が得られる。通常のホースエンドのように複数の大径部と小径部を交互に有する形状に比べて,検査のための一時的なガス用ゴム管の挿入,離脱がし易く,作業性が良い。反面,ガス用ゴム管が抜け易いものの,検査に際しては検査員が常に監視しており,長期にわたって接続状態を維持する必要がないので,支障がない。
D 訂正考案のガスコックでは,栓の回動軸線と上記流入通路及び流出通路の軸線を含む平面上にコック本体及び栓が配置されており,この平面と直交する方向に検査用の突出部が突出している。しかし,この突出部はその突出方向における上記コック本体の外寸法より短いので,コック本体を小型にすることができる。
(2) 引用考案は,相違点4に係る訂正考案の構成を備えないことにより,訂正考案が同構成によって奏する,「ガスコックの通常の使用時には,流出孔が閉栓をねじ込むことによって遮蔽されるので,流出孔からガスが漏れるのを確実に防止できる」との効果(E)を奏し得ないものとなっている。
6 訂正判断2についての取消事由(一応の相違点についての判断の誤り)について 審決は,先願考案における突出部の認定を誤り,先願考案の突出部を多義的に認定した結果,その判断に矛盾を生じ,その結果,一応の相違点1についての判断を誤り,先願考案と訂正考案との構成の相違に起因する訂正考案の作用効果の判断をも誤った。審決は,その結果,訂正考案は,先願考案と同一のものであると誤って判断したのである。
被告及び補助参加人の反論の骨子
審決に,原告主張の認定判断の誤りはない。
1 訂正判断1についての取消事由1(一致点認定の誤り)について 審決には,引用考案の認定の誤りも一致点の認定の誤りもない。
2 訂正判断1についての取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について 審決の相違点3についての判断に誤りはない。
3 訂正判断1についての取消事由3(相違点4についての判断の誤り)について 原告は,ガスコックの技術分野において,閉栓を用いてガス流通用の開口を閉じることは常套の手段とはいえない,と主張する。
しかしながら,ガスコックの技術分野において,「螺蓋」(ねじ込み式の閉栓)を用いて,通常使用しないガス流通用の開口を閉じておくことを開示している文献としては,審決の挙げているもの以外に,丙3文献もあり,このことからしても,原告の主張に理由がないことは明らかである。
4 訂正判断1についての取消事由4(相違点3,4に係る訂正考案の各構成の組合せについての判断の誤り)について 原告は,訂正考案における円筒形状の短い突出部は,ゴム管の直接接続と閉栓装着の両機能とを併せ持つものであり,従来技術と全く異なる有機的結合による構造である,と主張する。
しかしながら,突出部が「円筒形状の短い」ものであることと「ゴム管の直接接続と閉栓装着の両機能」との間には,直接的な関係がない(外周部が波形で,長い突出部であっても,ゴム管の直接接続や閉栓の装着には全く支障がない)ことは明らかであり,原告の上記主張は合理的な根拠を欠く。
5 訂正判断1についての取消事由5(顕著な作用効果の看過)について 審決は,原告が主張する,訂正考案と引用考案との間の作用効果の相違を認めた上で,そのような作用効果の相違は,「第1引用例及びその他の周知技術等を開示した文献の記載から予測しがたいものではなく,格別の作用効果と評価することはできない。」(審決書8頁4行〜6行)と判断しているのである。審決のこの判断に誤りはない。
6 訂正判断2についての取消事由(一応の相違点についての判断の誤り)について 審決における,先願考案の認定,一応の相違点1についての判断,先願考案と訂正考案との構成の相違に起因する訂正考案の作用効果についての判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 訂正判断1についての取消事由1(一致点認定の誤り)について 原告は,審決が,引用考案における,ゴムホースを随時直接挿し込むことができるホースエンドの基端が螺着される部位Tを,訂正考案の突出部に相当するとした認定は誤りであり,しかも,審決のこの認定は,相違点3についてのその認定判断と矛盾する,と主張する。
審決は,相違点の一つを,次のとおり認定するとともに,同相違点(相違点3)について次のとおり判断した。
「[相違点3] 検査用のゴム管と,コック本体に形成される突出部との接続関係が,訂正考案では,ゴム管を,前記コック本体に「突出方向における前記コック本体の外寸法より短く」形成された,「突出部」の「円筒面をなす外周部」に直接挿入して接続するのに対し,第1引用例記載の考案では,<突出部>に螺着される「ニップル状のホースエンド」を介して間接的にゴム管を挿入接続しており,また,当該ホースエンドの長さを短くすることや外周部の形状を円筒状にすることについては格別の言及はない点。」(審決書6頁10行〜16行) 「[相違点3]について ガス用ゴム管をコック本体と接続する場合に,第1引用例記載のように,コック本体とは別部材のホースニップルを介して接続する手段と,訂正考案のように,コック本体(と一体)に形成した突出部の外周にゴム管を直接挿入する手段とは,いずれも周知の接続手段である。つまり,ゴム管接続用のホースニップルを,第1引用例記載のようにコック本体とは別部材のものとするか,・・・コック本体,またはその主要部と一体に形成される突出部とするかは,いずれも周知の手段であって,どちらを採用するかは通常の選択的設計事項である。 また,コック本体とゴム管との接続を確実にするという優位性や必要性を無視してもよいのであれば,ホースニップルの長さを短いものにしたり,通常採用される波形の外周形状に代えて,「円筒面をなす」形状とすること自体は,当業者が容易になしうる設計変更というべきである。」(審決書7頁2行〜16行) 審決の上記説示によれば,審決が,訂正考案の「突出部」と引用考案の「ホースエンドの螺着される<突出部>(部位T)及びホ-スエンド」とを対応させて,相違点3を認定し,その上で,同相違点について判断していることが明らかである。したがって,審決が「第1引用例の・・・「ゴムホースを随時直接挿し込むことができ」るホースエンド(5)の基端が「螺着」(上記b参照)される部分は,ホースエンドを介して上記ゴムホースを接続するために<コック本体の外面>に<一体に形成>された<突出部>とみることができる」(審決書4頁35行〜5頁2行)とした認定は,上記相違点3の認定と矛盾したものとなっている。
しかしながら,審決は,引用考案の部位Tを訂正考案の突出部に相当する構成として一致点を認定しているものの,上記のとおり,引用考案の部位Tとホースニップルとを一体にとらえて,これを訂正考案の突出部に相当する構成として相違点3を認定するとともに,その相違点3について容易想到性の判断をしているものであるから,上記一致点の認定が不正確であるとしても,審決が相違点3を正しく認定し,その相違点3について判断していることに変わりはない。
以上からすれば,引用考案の部位Tが訂正考案の突出部に相当するとした審決の一致点の認定部分が不正確であるとしても,その構成に関係する相違点3の認定に誤りがなく,また,審決がこの相違点3について判断をしているのであるから,この一致点認定の誤りは,相違点の看過には結び付かず,結局のところ,審決の結論に影響を及ぼす誤りではないことに帰するのである。原告の主張は採用し得ない。
2 訂正判断1についての取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について (1) 第1引用例には,「三方バルブは,ガス供給源に接続されたガス吸入口と,2個のガス排出口とを備えているが,従来上記排出口は何れも端部にガス管螺入用のめねじが刻設されているため,ガス圧力測定等の場合には圧力計に附属のゴムホースを直接挿し込むことができなくて,わざわざ接続用のガス管を螺着し,その先端にホースエンドを取付けねばならないため,きわめて面倒であった。」(甲第6号証1頁14行〜2頁4行),「上記のように構成された実施例について,その作用・効果を説明する。」(同6頁12行〜13行),「第2排出口(4)にはホースエンド(5)が螺着されているため,圧力計等に附属のゴムホースを随時直接挿し込むことができきわめて便利である。」(同8頁7行〜10行),「本考案は・・・レバーの回動操作だけで燃焼,燃焼時の圧力検査および配管気密検査をきわめて手軽に行うことができる」(同9頁5行〜9行)との記載がある。
第1引用例の上記記載内容及び同引用例の公開時期(昭和52年)からすれば,本件出願時(昭和62年)においては,ガスの漏洩検査の際には,圧力計のゴムホース(ゴム管)をガスコックに接続して圧力を測定することが行われる際に,ゴム管をガスコック本体に直接かつ容易に着脱することができ,手軽に検査作業を行えるようにすることが望ましいと,一般的に考えられていたことが明らかである。
(2) 審決は,「ゴム管接続用のホースニップルを,第1引用例記載のようにコック本体とは別部材のものとするか,上記の第3及び第4引用例(これらの他,実開昭57-33367号公報,実開昭57-46169号公報,実開昭58-91073号公報)にも開示されるように,コック本体,またはその主要部と一体に形成される突出部とするかは,いずれも周知の手段であって,どちらを採用するかは通常の選択的設計事項である。」(審決書7頁6行〜12行)と認定した。ゴム管接続用のホースニップルを,コック本体又はその主要部と一体に形成される突出部とする点が周知の手段であることは,丙1文献の第2,3図に,外周部が円筒面の導口bが三方に突出した圧力流体の制御用コック(三方バルブ)が記載されていること,及び,丙1文献が本件出願(昭和62年)より16年前の昭和46年に公開された文献であることから明らかである。
検査用のゴム管をガスコック本体に直接着脱することができるようにして手軽に検査作業を行えるようにすることが,上記のとおり周知の課題であったことを考慮すれば,上記周知技術を,引用考案のガスコックに適用して,そこでの,検査用のゴム管をホースエンド(5)を介してガスコック本体に接続する構成を,ガスコック本体の外面に,円筒面をなす外周部に柔軟性を有する検査用のガス用ゴム管が挿入される突出部を一体に形成して,検査用のゴム管をガスコック本体に直接着脱できるような構成にすることは,当業者がきわめて容易に成し得る程度の事項であるというべきである。
そして,検査用のゴム管をバルブ本体に直接着脱するだけでなく,容易に着脱することができ,手軽に検査作業を行えるようにすることが望ましいことが周知の課題であったことを考慮すれば,引用考案のガスコックに上記周知技術を適用するに当たって,検査用のゴム管を容易に着脱できるようなものとすること,すなわち,突出部を適度に短くすることにより,ゴム管との接触面積を適度に減少させ,着脱の際の抵抗を減少させることは,当業者が通常行う設計的事項にすぎないということができる。
したがって,引用考案のガスコックに上記周知技術を採用するに当たり,検査に支障を来さない範囲で着脱作業を容易にするために,突出部の長さを突出方向におけるコック本体の外寸法より短くし,相違点3に係る訂正考案の構成とすることも,単なる設計的事項であり,当業者が通常行うことの範囲内にとどまる事柄であるというべきである。
(3) 原告は,相違点3についての審決の判断について,(a) ガスコック設置作業時にのみ用いられる検査用のホースニップルを一体化すれば,ホースニップルを取り外すことができず,ガスコックの設置スペースの増大と梱包の大型化を招く,このため,別体型ホースニップルを一体型ホースニップルに置き換える,との発想は生まれない,(b) 訂正考案のガスコックは,流入通路と流出通路と栓とが同一平面上に配置されるため,設置スペースが小さく梱包も小型化できるという利点を有するのに対し,その平面と直交する方向に大きく突出する一体型ホースニップルを設けると,これら利点を失うことになる,と主張する。
しかしながら,ガスの漏洩検査においては,検査用のゴム管をガスコック本体に直接かつ容易に着脱することができるようにして手軽に検査作業を行えるようにすることが周知の課題であったことは,上記のとおりである。ガスコックの小型化による保管,搬送等の利便性と,検査作業におけるゴム管の着脱の容易性のどちらをどの程度優先させるかは,当業者が適宜決定すべき設計的事項にすぎないというべきであり,原告が主張する上記の点は,上記周知の課題に基づいて,ゴム管をガスコックに接続する構成に係る上記周知技術を引用考案のガスコックに適用することを妨げるほどの事項にはなり得ない。
原告は,審決の判断は,検査時のみに一時的に突出部にガス用ゴム管が接続されるという特殊事情を全く無視したものである,訂正考案においては,突出部へのゴム管接続は,検査時においてだけ一時的に行われるのであり,常に専門技術者の監視下において検査されるため,検査用の一時的な接続としては不完全な接続ではない,訂正考案の発想の困難性は,検査の際にはこのような接続方式とするのが最良である,ということを発見するところにある,このような発見は,ガス管接続の常識(ガス管を容易に抜けることなく接続すること)にとらわれた当業者にとっては容易になし得るところではない,と主張する。
しかしながら,ガスの漏洩検査においては,検査用のゴム管をバルブ本体に直接かつ容易に着脱することができるようにして手軽に検査作業を行えるようにすることが上記のとおり周知の課題であること,及び,ガスの漏洩検査のゴム管の接続については,検査のための一時的な接続であることは明らかな事柄であることからすれば,相違点3に係る訂正考案の構成は,引用考案と上記周知技術とに基づいて当業者がきわめて容易に想到することができるものといい得ることは上記のとおりである。審決が,「上記いずれの相違点も格別のものとはいえない。」(審決書7頁27行)とした判断に誤りはない。
原告は,丙1文献のコックは,ガスコックではなく,検査機能付きガスコックでもない,と主張する。しかしながら,ガスは圧力流体であるから(「流体」とは,気体と液体との総称である。(広辞苑第5版)),引用考案と上記周知技術はともに,圧力流体の制御用三方バルブである点で一致するのである。丙1文献のコックがガスコックであるか否か及び検査機能を有しているか否かは,上記周知技術の認定を左右するものではない。
3 訂正判断1についての取消事由3(相違点4についての判断の誤り)について (1) 甲10文献には,「c.ゴムキャップ」の項に,「不使用時のコックにゴムキャップをかぶせることは不測の漏れによる事故防止上きわめて有効で」(甲第10号証258頁)と記載され,また,丙3文献には,「19はゴム管接続口2の螺蓋」(丙第3号証1頁左欄26行),「本案は叙上の様に構成したので・・・所要の際に蝶蓋22を開きゴム管節続(判決注・「接続」の誤記と認める。)口2の螺蓋19を取外し所要の器具例えば瓦斯コンロ,瓦斯ストーブ等に接続するものであつてコツクは把手cを回動させ栓体bの透孔4と連通孔3とを一致させ或は不一致として瓦斯の供給,遮断を行う」(丙第3号証1頁左欄28行〜右欄2行)と記載されている。
甲10文献及び丙3文献(昭和31年公開公報)の上記記載に照らすと,本件出願前において,ガスコックについては,使用しないガス流出孔からのガス漏れを防ぐことが周知の課題であり,ガス流出孔にゴムキャップをかぶせたり,閉栓をねじ込むことによりガス流出孔を遮蔽したりして同課題を解決することが周知の技術であったことが認められる。
上記周知の課題及びその課題を解決するための周知技術に照らせば,引用考案のガスコックに検査用のゴム管を接続する突出部を設けたとしても,検査用の流出孔は通常使用しないものであることが明らかであるから,ガスの流出孔である限り,その「流出孔を遮蔽する閉栓を,流出孔にねじ込むことにより前記コック本体の突出部に着脱自在に設け」(訂正明細書請求項1)て相違点4に係る訂正考案の構成とすることは,そこからのガス漏れを防ぐために本来検討されるべき程度の事項にすぎないということができる。したがって,審決が「コックや弁等に設けた,通常使用しない開口・・・を,「閉栓」を「ねじ込むことにより」遮蔽することは,・・・当該技術分野における常套手段といえるものであり,第1引用例記載の圧力検査に使用される「第2排出口」,あるいは当該「第2排出口」に続く開口は,通常使用する必要はないから,そのような頻繁に使用する必要がない開口に対して,上記の常套手段を採用することに困難性は認められらない(判決注・「認められない」の誤記と認める。)。」(審決書7頁4段)と判断したことに誤りはない。
(2) 原告は,丙3文献は,審決の判断の資料とされていないため,「ゴム管が直接接続される部位に閉栓を装着する構造」を示す証拠として引用することは許されるべきではない,と主張する。
しかし,周知技術は,特許の出願時において,当業者ならば当然に認識しているはずの技術事項であるから,審決取消訴訟における周知技術の認定においては,審決が挙げていなかった文献も証拠として採用することができる。審決が丙3文献を周知技術認定の証拠として挙げていなくとも,これを周知技術を認定する際の証拠として採用することに何ら問題はない。
原告は,丙3文献には,流出管をコック本体から長く延ばしてL字形にし,この流出側の管の波形先端部に閉栓を装着する構成のものが記載されており,この構成における「螺蓋」(閉栓)を訂正考案のような短い検査用突出部に適用することは困難である,丙3文献記載の閉栓装着構造は,ガスコックの分野において稀有の構造であり,周知,常套の手段ではない,とも主張する。
しかし,丙3文献記載のガスコックにおいて,流出管をコック本体から長く延ばしてL字形にし,この流出側の管の波形先端部に閉栓を装着することにしていることと,ガス流出孔に閉栓をねじ込むことにしていることとの間に,技術的な関連性は全然ない。そうである以上,上記ガスコックにおけるガス流出管の上記形状が,ガス流出口に閉栓をねじ込むことによりガス流出孔を遮蔽し,ガス漏れを防ぐことは周知技術である,との認定を左右することはあり得ない。また,引用考案のガスコックへの上記周知技術の適用を困難にすることもあり得ない。
(3) 原告は,引用考案の検査機能付きガスコックの場合,仮に検査終了後に不要となった検査口を閉じる必要があるならば,この検査口からホースエンドを外して,その代わりに閉栓をねじ込むはずであり(別紙5の(C)から(D),及び,(D)から(E)参照),これを別紙1の(A)から(D)への第1段階から第3段階への改造に至る迂回経路を経ることは,当業者にとってあり得ない発想である,と主張する。
しかし,引用考案に相違点3及び相違点4に係る訂正考案の各構成を組み合わせたものに想到することがきわめて容易なことは,後記4で述べるとおりである。原告のこの主張は,引用考案に相違点3と相違点4とを組み合わせたものがきわめて容易に想到し得るものであるとすれば,意味のない主張であることが明らかである。
(4) 原告は,相違点4についての請求人(原告)の主張に対する,審決の以下の説示中,下線を付した部分の判断が誤りである,と主張する。
「請求人は,上記相違点4の評価に関して,「第1引用例の第2排出口を閉塞するのに閉栓を用いて遮蔽する場合には,ホースエンドを取り外して閉栓をねじ込むことになる」から,訂正考案に比べて検査の「作業性が悪くなる」旨主張する。 たしかに上記主張に係る不都合は否定できないが,訂正考案のような接続手段を採る場合には,上述のとおり,ガス管の接続が不確実になるという問題を生じかねないことを考慮すれば,上記の作業性が悪いという不都合は相対的なものでしかないという評価が可能である。 しかも,第1引用例記載のものも,ガス管接続用のホースエンドをコック本体と<一体に形成する>という周知の構造を採用すれば,上記の閉栓は,必然的にホースエンドの先端近傍に設けることになり, 「ホースエンドを取り外」す必要はなくなるのであるから,上記作業性の改善は当然予測しうる範囲内の事項といえる。」(審決8頁25行〜37行) (ア) しかしながら,引用考案に相違点3及び相違点4に係る訂正考案の各構成を組み合わせることがきわめて容易であることは,後記4で述べるとおりであり,このことを前提とすれば,「作業性が悪くなる」との原告の主張は,意味のないものであることが明らかである。
(イ) 原告は,不使用時のホースエンドにはゴムキャップを装着するのが一般的であって,これとは異なり,訂正考案のように,ゴム管挿入用の突出部の先端に,閉栓をねじ込んで検査用の流出孔を閉塞するという特異な構造は,必然でも自明でもなく,この特異な構造により流出孔の閉塞を確実なものとすることができると主張する。
確かに,甲10文献には,不使用時のガス流出孔からのガス漏れを防ぐために,当該ガス流出孔にゴムキャップを装着することがきわめて有効であることが記載されている(甲第10号証258頁)。しかし,閉栓が,ガスの流出口からガス漏れを防ぐものとして,ゴムキャップと比べ,特異な構造のものであるなどとは,到底いうことができない。ガス流出口にゴムキャップを装着することがきわめて有効であるとしても,このことが,ガス流出孔に閉栓をねじ込むことによりガス流出孔を遮蔽することは周知技術である,との認定を左右するものではないことは明らかである。原告の上記主張を検討しても,上記の閉栓をねじ込むとの構成が周知であったことを否定することはできない。
検査用の流出孔は通常使用しないものであることは明らかであるから,上記周知の課題及びその課題を解決するための周知技術に照らせば,引用考案のガスコックに検査用のゴム管を接続する突出部を設けたとしても,「そのような頻繁に使用する必要がない開口に対して,上記の常套手段を採用することに困難性は認められない。」(審決書7頁4段)とした審決の判断に誤りはない。
4 訂正判断1についての取消事由4(相違点3,4に係る訂正考案の各構成の組合せについての判断の誤り)について 原告は,訂正考案における円筒形状の短い突出部は,ゴム管の直接接続の機能と閉栓装着の機能とを併せ持つものであり,従来技術と全く異なる有機的結合による構造である,と主張する。
しかし,ガスコック本体の外周部に検査用のゴム管が挿入される突出部を一体形成して,相違点3に係る訂正考案の構成とすることは,突出部の外表面の形状に係る事項であるのに対して,突出部の流出口を使用しないときに,同流出孔に閉栓をねじ込むようにして,相違点4に係る訂正考案の構成とすることは,突出部の内部の形状に係る事項であって,両者について技術的関連性はないのであるから,相違点3と相違点4に係る訂正考案の各構成を組み合わせたものに想到することを困難にする事情はない,というべきである。
引用考案に,「コック本体,またはその主要部と一体に形成される突出部とする」(審決書7頁10行,11行)との周知技術と,「通常使用しない開口や使用頻度が少ない開口を,「閉栓」を「ねじ込むことにより」遮蔽すること」(審決書7頁18行,19行)との周知技術の両者を組み合わせて適用することを困難にする事情は認められない。原告の上記主張は採用し得ない。
5 訂正判断1についての取消事由5(顕著な作用効果の看過)について 原告は,引用考案は,相違点3の構成を備えないことにより,訂正考案が奏する前記@ないしDの効果を奏し得ない,引用考案は,相違点4の構成を備えないことにより,訂正考案の「ガスコックの通常の使用時には,流出孔が閉栓をねじ込むことによって遮蔽されるので,流出孔からガスが漏れるのを確実に防止できる」との効果(E)を奏し得ない,と主張する。
しかしながら,原告が主張する訂正考案の前記@ないしEの効果は,いずれも,訂正考案の構成のものとして,きわめて容易に予測し得るもの(むしろ,自明のもの)にすぎない。訂正考案の構成が前記のとおり,きわめて容易に予測し得るものである以上,訂正考案の構成のものとしてこのようにきわめて容易に予測し得る効果をもって訂正考案進歩性を根拠付け得るものとみることはできないというべきである。審決の「上記いずれの作用効果も,第1引用例及びその他の周知技術等を開示した文献の記載から予測しがたいものではなく,格別の作用効果と評価することはできない。」(審決書8頁4行〜6行)とした判断に誤りはない。
結論
以上に検討したところによれば,原告が訂正判断1について主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,訂正判断1についてこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そうすると,訂正判断2について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないことが明らかである。そこで,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久
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