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関連審決 無効2014-400004
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事件 平成 28年 (行ケ) 10047号 審決取消請求事件

原告 有限会社公郷生命工学研究所
訴訟代理人弁護士大嶋芳樹 大嶋勇樹
被告Y
訴訟代理人弁理士中野圭二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/10/31
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2014−400004号事件について平成28年1月15日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文同旨
事案の概要
本件は,実用新案登録無効審判請求に基づいて実用新案を無効とした審決の取消訴訟である。争点は,新規性及び進歩性判断(引用考案の認定,相違点の認定・判 断)の誤りである。
1 特許庁における手続の経緯 被告は,平成19年3月22日,名称を「空気の電子化装置」とする考案(以下「本件考案」という。につき, ) 実用新案登録出願をし(実願2007-2789号),同年6月20日,設定登録(実用新案登録第3133388号)を受けた(請求項の数2。甲44。以下「本件実用新案登録」という。。
) 原告は,平成26年4月28日,本件考案請求項1及び2に係る考案について実用新案登録無効審判を請求した(甲27。無効2014-400004号。。
) 特許庁は,平成28年1月15日, 「実用新案登録第3133388号の請求項に係る考案についての実用新案登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。
2 本件考案の要旨 本件実用新案登録の請求項1及び2に記載された本件考案の要旨は,次のとおりである(甲44。以下,これらの考案をそれぞれ「本件考案1」及び「本件考案2」といい,本件実用新案登録の登録実用新案公報(甲44)記載の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。。
)【請求項1】(本件考案1)「 高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ,その中心部に空気を流し込むことで空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置。」【請求項2】(本件考案2)「 請求項1の構造において,電磁コイルから発生する熱を電磁コイルの筒(ボビン)に流れる空気によって冷却するために,ボビンの材質を銅,アルミニウム,スズ,真鍮,亜鉛,チタンなどの熱伝導性がよく,磁気を帯びない非磁性体金属で作 った空気の電子化装置。」 3 審判における請求人(被告)の主張 本件考案1は,@甲1(特開2004-224671号公報)に記載された考案(甲1考案)であるから,実用新案法3条1項3号に該当し,実用新案登録を受けることができない。また,A甲1考案並びに甲2及び3記載の周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから,実用新案法3条2項の規定により,実用新案登録を受けることができない。
本件考案2は,甲1考案及び甲2〜6記載の周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから,実用新案法3条2項の規定により,実用新案登録を受けることができない。
4 審決の理由の要旨 (1) 本件考案1について ア 甲1考案の認定 甲1には,次の考案(甲1考案)が記載されている。
「高電圧を流した針電極28から電子を発生させるイオン化室23の先端に『コイル18が巻かれたイオン回転室24』を設け,イオン化室23の中に酸素ガスを流し込むことで酸素分子を励起させることによって『O 2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1Σg+),O?,O2(a1Δg),O2?』を生成させてオゾンを生成することができる酸素ガスのオゾン発生装置」 イ 本件考案1の新規性 (ア) 一致点の認定 本件考案1と甲1考案とを対比すると,次の点で一致する。
「高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ,その中に酸素含有ガスを流し込むことで酸素含有ガス中の酸素分子を励起さ せることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる酸素含有ガスの電子化装置。」 (イ) 相違点の認定 本件考案1は,放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ,「その中心部に」「空気」を流し込むことで「空気」中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる「空気」の電子化装置であるのに対して,甲1考案は,イオン化室23の先端に「コイル18が巻かれたイオン回転室24」を設け,イオン化室23の中に酸素ガスを流し込むことで酸素分子を励起させることによって「O2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1Σg+),O?,O2(a1Δg),O2?」を生成させてオゾンを生成することができる酸素ガスのオゾン発生装置,つまり,放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ,「その中に」「酸素ガス」を流し込むことで「酸素ガス」中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる「酸素ガス」の電子化装置である点。
(ウ) 相違点の判断 本件考案1の「空気」は,電子化される対象物であり, 「中心部」は,空気が流し込まれる場所であって,本件考案1に係る「物品の形状,構造又は組合せ」に該当するものではないから, 「中心部」及び「空気」は,本件考案1の考案特定事項であるということはできない。
したがって,前記(イ)の相違点は,実質的な相違点であるとはいえず,本件考案1は,甲1考案であるから,実用新案法3条1項3号に該当し,実用新案登録を受けることができない。
ウ 本件考案1の進歩性 (ア) 相違点の認定 a 仮に,前記イ(イ)の相違点があるとしても,本件明細書及び本件実用新案登録の願書に添付された添付資料(以下,まとめて「本件明細書等」という。)は,本件考案1の「一重項酸素などの活性酸素種」にオゾンは包含されていないこ とを実証する具体的データを開示するものではない。
また,乙7(甲16。計量証明書(株式会社シモダアメニティーサービス)平成26年 2 月15日)には,オゾンが検出されなかったという結果が示されているものの,この測定の対象機器が本件考案 1 の電子化装置に該当するかどうかは不明であるので,本件考案 1 の「一重項酸素などの活性酸素種」にオゾンが包含されていないことを実証する具体的データを開示するものであるとはいえない。
さらに,乙1(甲10。陳述書(控訴人取締役所長A)平成26年6月23日)には,狭義の活性酸素にはオゾンが包含されず,広義の活性酸素にはオゾンが包含されることが技術常識である旨が示されているところ,本件明細書等において, 「一重項酸素などの活性酸素種」が「広義の活性酸素」と「狭義の活性酸素」のどちらであるかについての直接的な定義は何らなされていない。
そうすると,本件考案1の「一重項酸素などの活性酸素種」について,オゾンを包含するものであるかを確認するために,本件明細書等を参酌する際,活性酸素についての「狭義」と「広義」の定義に関わらず,本件明細書等及び乙7において,「オゾンが存在していない」 「一重項酸素などの活性酸素種」と「オゾンが多く若しくは少なく存在している」 「一重項酸素などの活性酸素種」のどちらかに限定される合理的な理由が示されているとはいえず,そうである以上,本件考案1の「一重項酸素などの活性酸素」 前記の両方を包含するものであるとみるのが妥当である。
は, ここで,本件考案1の「一重項酸素などの活性酸素種」は,甲1考案に基づく容易性の判断を行う関係上,以下,前記の両方の内の「オゾンが多く存在している」「一重項酸素などの活性酸素種」であるとみることとする。
b 本件考案1では, 「その中心部に」酸素含有ガス(空気)を流し込むのに対して,甲1考案では, 「イオン化室23(放電管)の中に」酸素含有ガス(酸素ガス)を流し込むという点につき,本件明細書等の記載から,前記「中心部」は,「放電管の中心部に」酸素含有ガス(空気)を流し込むことに当たるというべきである。
(イ) 相違点の判断 a 甲 1 には,イオン化室(放電部1)の略中心部に向けて酸素含有ガス(酸素ガス)が供給されることが図示されているとみることができ,この略中心部に酸素含有ガス(酸素ガス)が供給される(流し込まれる)ことでイオン化がなされているといえるので,甲 1 考案の「イオン化室23(放電管)の中に」酸素含有ガス(酸素ガス)を流し込むことについて,略中心部の範疇内である中心部に向けて酸素含有ガス(酸素ガス)を供給してイオン化する,つまり, 「イオン化室23(放電管)の中心部に」酸素含有ガス(酸素ガス)を流し込むようにすることは,当業者であればきわめて容易になし得ることである。
b 甲 1 には,空気(酸素含有ガス)からオゾンを生成し得ること,及び,放電を行った酸素ガス(酸素含有ガス)に回転電界と磁界を与えることで荷電した酸素原子と酸素分子の衝突確率を大きくしてオゾンの生成を効率的にすることの開示があるといえ,ここで,衝突確率が「酸素濃度」と「放電強度,回転電界強度及び磁界強度」の影響を受けること,例えば, 「酸素濃度」と「放電強度,回転電界強度及び磁界強度」の両方を小さくすると衝突確率も小さくなり,また, 「酸素濃度」を小さくしたとしても「放電強度,回転電界強度及び磁界強度」を大きくすることで衝突確率を維持し得る(オゾンの生成を効率的に行い得る)ことは,当業者であれば普通に想起し得ることである。
そうすると,甲1考案の, 「酸素ガス」を流し込むことで「酸素ガス」中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる「酸素ガス」の電子化装置について, 「酸素ガス」を,これよりも酸素濃度が低い「空気」に代えたとき, 「放電強度,回転電界強度及び磁界強度」を大きくすることにより,オゾンの生成が非効率的にならない(一重項酸素などの活性酸素種を発生させる)ようにする,つまり, 「空気」を流し込むことで「空気」中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種(「オゾンが多く存在している」「一重項酸素などの活性酸素種」)を生成させることができる「空気」の電子化装置 とすることは,当業者であればきわめて容易になし得ることである。
c したがって,本件考案1は,甲1考案に基づいて当業者であればきわめて容易考案することができたものであるから,実用新案法第3条第2項の規定により,実用新案登録を受けることができないものである。
(2) 本件考案2について ア 本件考案2の認定 本件考案2は,本件考案1において, 「電磁コイルから発生する熱を電磁コイルの筒(ボビン)に流れる空気によって冷却するために,ボビンの材質を銅,アルミニウム,スズ,真鍮,亜鉛,チタンなどの熱電導性がよく,磁気を帯びない非磁性体金属で作」ることを限定事項にするものである。
イ 周知技術の認定 「電磁コイルから発生する熱を放熱するために,ボビンの材質を銅,アルミニウムなどの熱電導性がよく,磁気を帯びない非磁性体金属で作」ることは,周知技術である(甲4〜6)。
相違点の判断 前記イの周知技術と,甲1考案は,電磁コイルという点で一致している。
そうすると,甲1考案の「電磁コイル」について,この点で一致する前記周知技術を適用することで, 「電磁コイルから発生する熱を放熱するために,ボビンの材質を銅,アルミニウムなどの熱電導性がよく,磁気を帯びない非磁性体金属で作」るようにすることは,当業者であればきわめて容易になし得ることである。
そして,前記のようにするときの「放熱」は,電磁コイルの使用が空気中であれば空気中に放熱される(放熱により生じる空気の流れによって順次冷却される)ことになるのは,当然の事項である。
したがって,本件考案2は,甲1考案及び甲4〜6に記載された周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから,実用新案法第3条第2項の規定により,実用新案登録を受けることができないものである。
原告主張の審決取消事由
1 甲1考案の認定 甲1考案は,以下のとおり認定されるべきである。
「『イオン化室23』と『イオン回転室24』を接続し,『イオン化室23』において放電を受けた酸素ガスを『イオン回転室24』に導入し,回転電界及び磁界により誘導して,酸素分子に衝突させてさらにオゾンを生成する装置」 【0019】 ( ) 「イオン化室23」において酸素ガスに放電することで発生するのが,「O2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1Σg+),O?,O2(a1Δg),O2?」【00 (03】)であり, 「イオン回転室24」の役割は, 「放電による酸素気体中の放電生成物の内,オゾン生成エネルギーを有するO?に着目し,積極的に回転運動を与え,且つ,ガスの自然拡散方向と異なる軌跡を与えることにより,酸素分子との衝突効率を増加させてオゾン収率の向上を図る」【0006】 ( )ことである。
2 相違点の認定 (1) 本件考案 1 と甲1考案の相違点は,次のとおり認定されるべきである。
【相違点@】 甲1考案は,「オゾン発生装置」であるのに対して,本件考案 1 は,「オゾンを含まない活性酸素発生装置」である点。
【相違点A】 甲1考案は,放電による酸素気体中の放電生成物のうち,オゾン生成エネルギーを有するO-に着目し,積極的に回転運動を与え,かつ,ガスの自然拡散方向と異なる軌跡を与えることにより,酸素分子との衝突効率を増加させオゾン収率の向上を図ることを目的とした装置であるのに対して,本件考案1は、
「放電針2」から空気中に発せられる自由電子(e-)が,空気の自然拡散方向に流れる軌道に沿って電磁コイルから発生する磁力線により回転運動を与えることによって二重項酸素 (・O2-)を生成し,さらに,空気中の酸素分子(O2)が磁力線に晒されて励起させることで,一重項酸素などの活性酸素を生成させることを目的とした装置である点。
【相違点B】 甲1考案における「イオン化室23」で発生するものは,「O2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1Σg+),O?,O2(a1Δg),O2?」であるのに対して,これに相当すると思われる本件考案1の「放電管2」から発生するものは,自由電子(e-)である点。
【相違点C】 甲1考案における「イオン化室23」は,左端に「高圧ケーブル26」が接続され, 「高圧ケーブル26」に「針電極28」が配置され,右端には「通気孔30」が設けられ, 「筒体29」に「ガス供給管27」が貫通するという構造がとられているのに対して,これに相当すると思われる本件考案1の「放電管1」は,左端は送風機を用いて空気が送り込まれるように開放され, 「放電針2」と「対面極3」を平面的に組み合わされ,右端も通気口は設けられず開放された構造である点。
【相違点D】 甲1考案における「イオン回転室24」は,内部に「3重電極33」が取り付けられ,外周に「コイル18」が巻かれた構造(【0018】)であるのに対し,これに相当すると思われる本件考案1の「ボビン6」は,3重電極が取り付けられておらず,外周に「電磁コイル7」が巻かれただけの単純な構造である点。
【相違点E】 甲1考案における「イオン化室23」は,「イオン回転室24」において,「筒体34」の延出方向にかけて約45°の角度で挿入されている(【0018】)のに対して,本件考案1では,「放電管1」は「ボビン6」に水平に直結している点。
(2)ア 相違点@について (ア) 本件考案1で生成される「一重項酸素などの活性酸素種」は,一重項 酸素(Δ1O2)と二重項酸素(・O2-)の2種類(甲10,8頁)であり,他の活性酸素は発生しない。
a 本件考案1は,陰極の放電針と陽極板で構成される高電圧放電管に電磁コイルを組み合せたものであり,@放電管を流れる空気流に陰極の放電針により印加することで自由電子を発生させ,自由電子を含んだ電子化空気を電磁コイルで空気流に沿って磁力線が平衡に進むようにし,空気の流れに乗った自由電子を磁力線に沿って激しくスピンさせ,空気中の自由電子を酸素分子の外殻電子軌道へ付加して二重項酸素を作り出し,A空気中の酸素分子を,電磁コイルの中を通過させることによって,電磁力を作用させ,外殻電子軌道の電子の配列を変化させ,一重項酸素を作り出すものである。
酸素分子に交流高電圧をかけて電子を衝突させると,酸素分子の一部が原子状態に解離し,酸素の3体衝突によりオゾンが発生するところ,これには,極めて強い電気的エネルギー(高周波電流又は交流電流)が必要であり,周波数の平滑な直流電流では,酸素分子の解離現象が起こらないため,オゾンは発生しない。したがって,放電装置によりオゾンを発生させるための電源は,交流高電圧でなければならない(甲17,48)。
直流電圧を用いても,放電部分に電磁共鳴(電子の自転運動(スピン)が磁気の影響を受けて変化する現象。一般的には,磁気共鳴のうちの「電子スピン共鳴」 (活性酸素などのフリーラジカルの同定・定量を行う技術)とほぼ同じ作用である。)が起こるような強い磁力線を作用させると,エネルギーレベルが高い電磁波が発生して,わずかながらオゾンが発生することがある。放電部分に電磁共鳴を発生させるためには,放電部分に取り付けられる電磁コイルに高周波電流又は交流電流をあてがい,磁力線(N極,S極)の方向を激しく揺動させることが必要である。
本件考案1は,電磁コイル7を放電管1の先端部に設定して,放電針2と電磁コイル7との距離を離して,電磁共鳴が起こらないようにしてあり,また,電磁コイル7に作用させる電流は直流であるから,原理的に,オゾンは発生しない。
b 成分の78%強が窒素,21%程度が酸素である「空気」と,酸素100%の「酸素ガス」とでは,その属性が異なるところ,甲1考案において,放電により酸素分子が酸素原子になるのは,酸素ガスを用いているからであり,本件考案1においては,空気を用いているので,放電により酸素分子が酸素原子にはならない。
「空気」を電子化させて一重項酸素などの活性酸素(オゾンを含まない)を発生させる本件考案1と, 「酸素ガス」からオゾンを生成させる甲1考案との比較を行うに際し, 「空気」と「酸素ガス」を「酸素含有ガス」という概念で一括りにすることは,過度の上位概念化・抽象化である。
(イ)a 本件考案1からオゾンが発生しないことの実証データとして,甲16が存在する。
原告によるねつ造などを疑う合理的な理由がない限り,甲16におけるSRRエンジン(型式SRR-400型)が本件考案1の電子化装置であると認定すべきである。審判において,前記エンジンが本件考案1の電子化装置に該当するのか不明であると考えるのであれば,求釈明をすべきであるのに,これを行わず,甲16が「一重項酸素などの活性酸素種」にオゾンが包含されていないことを実証する具体的データとはいえないと判断するのは,審理不尽である。
b 本件明細書には, 「そこで,本考案はオゾンを発生させないで,空気を電子的に電子化させ,磁力を掛けて励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させる装置を提供することを課題とする。 【考案が解決しようとす 」 (る課題】, 【0011】, )「人体や環境に有害とされるオゾンを発生させない電磁的に励起された活性酸素を発生させる空気の電子化装置を提供する。 ( 」 【要約】)と記載されているのであるから,「オゾンが多く若しくは少なく存在している」「一重項酸素などの活性酸素種」ではなく,「オゾンが存在していない」「一重項酸素などの活性酸素種」に限定される合理的な理由が示されている。
イ 相違点Aについて 甲1(【0006】)と甲44(【0013】【0016】 , )の記載の対比から,相違点Aが認められる。
ウ 相違点Bについて 甲1(【0003】)と甲44(【0013】【0025】 , )の記載の対比から,相違点Bが認められる。
エ 相違点Cについて 甲1の【図7】と甲44の【図1】を見比べただけで,その違いは明白であり,共通点を見出すことは,困難である。
甲1の【図7】で, 「筒体29」に「ガス供給管27」が貫通するという複雑な構造がとられているのは,甲1考案が,空気ではなく酸素ガスを吹き込むことを前提にした装置だからである。
一方,本件考案1は,空気を送り込むことを前提に左端は開放されており, 「ガス供給管27」に相当する装置は存在しない。
オ 相違点Dについて 甲1考案における「イオン回転室24」は,イオン化した酸素原子(O-)を回転電界により強制的に回転させ,螺旋軌道を描かせることにより、酸素分子(O2)との衝突確率を増加させオゾン収率の向上を図るものであり,3重電極は,前後方向に互いに平行に配設されるとともに,正三角形の頂点位置に各電極11が配設された構成となり,この電極11にそれぞれ位相が120°ずつずれた周波数の電圧を印加することにより,回転電界を発生させることで,再反応部2(「イオン回転室24」)内に導入されたイオンは,螺旋状の軌跡を描きながら進むこととなる。
一方,本件考案1は,高電圧を流した放電針から発生する電子(e-)に磁力線を作用させると,空気中の酸素分子が励起されて,一重項酸素などの活性酸素種が発生するという原理を利用したものであり,イオンを含んだ空気を螺旋状の軌跡を描きながら進ませることは想定していない。
カ 相違点Eについて 甲1の【図7】及び【図8】と甲44の【図1】の記載の対比から,相違点Eが認められる。
甲1考案の「イオン化室23」が,「イオン回転室24」において,「筒体34」の延出方向にかけて約45°の角度で挿入されている理由は, 【0012】、
【0018】の記載から,3重電極33に回転電界をかけて, 「イオン化室23」より排出されたガスに含まれるイオンを回転させ,イオンの進行方向とガスの進行方向をずらすための工夫と思われる。
一方,本件考案1では,イオンを含んだ空気を螺旋状の軌跡を描きながら進ませることは想定しておらず, 「放電管1」を「ボビン6」に対して45°の角度で挿入する必要もない。
3 相違点の判断 (1) 本件考案1について 本件考案1は,甲1考案及び甲2及び3に記載された周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたとはいえない。
ア 前記2(1)の相違点Cが存在する以上,「イオン化室23の中」に酸素ガスを流し込むことから, 「放電管の中心部」に酸素ガスを流し込むことが,きわめて容易に想到し得るか否かを問題とすることは,甲 1 考案と本件考案 1 との構造上の差異を無視したものであり,本件考案1の進歩性を考える上で有害無益な検討事項である。
イ 本件考案 1 には,オゾンを発生させる仕組みがないので,オゾンの生成が非効率的にならないようにするという課題はない。
(2) 本件考案2について ア 本件考案2は,本件考案1のボビンの素材を限定する内容であるところ,次のとおり,甲1考案に甲4〜6に記載された周知技術を適用する動機付けはないから,本件考案2は,甲1考案及び甲4〜6に記載された周知技術に基づいて,当 業者がきわめて容易考案をすることができたとはいえない。
(ア) 技術分野の関連性について 本件考案2は,甲1考案とも甲4〜6に記載された周知技術とも,技術分野が異なる。
本件考案2の技術分野は,空気中の酸素分子を電磁的に励起させ,一重項酸素などの活性化酸素を発生させるための電子化装置に関するものである(甲44【0001】。
) 甲1考案は,放電により荷電状態となった物質を利用したオゾンの発生方法及び装置に関するものである(甲1【0001】。
) 甲4に記載された事項は,リニアモータの冷却構造に関するものであり(甲4【0001】,甲5に記載された事項は,放熱性に優れたモータ構造に関するものであ )り(甲5【0001】,甲6に記載された事項は,真空又は減圧の雰囲気下で用い )る電磁石に関するものである(甲6【0001】。
) (イ) 課題の共通性について 本件考案2と甲1考案,甲4〜6に記載された周知技術は,課題が異なる。
a 本件考案2の課題は,@冷却して電磁コイルの燃焼を防止することと,A筒(ボビン)のなかを流れる電子化空気に磁力線を作用させることである。
(a) 本件考案2には,「電磁コイルから強力な磁力線を発生させるために電磁コイルに強い電流を流すが,電流により発生する熱量が多いので冷却しないと電磁コイルが焼けて断線し,その役割を果たさなくなる」 (甲44【0018】)という課題がある。
また,二重項酸素の発生効率を高めるために,電子化された空気を加熱するという課題があり,コイルから放散される熱をもって電子化する空気を加温するという工夫がなされている。
(b) 本件考案2には,「オゾンを発生させないで,空気を電子的に電子化させ,磁力を掛けて提起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生 成させる」(甲44【0011】)という課題がある。
ニッケル,鉄などの強磁性金属では,電磁コイルから発生する磁力線を遮断し,ボビンの中を流れる電子化空気に磁力線を作用させることができなくなるので、ボビンに磁気を帯びない非磁性体金属で作られたものを使用する必要がある。
b 甲1考案には,電磁コイルが巻かれたボビン(イオン回転室24)の素材を非磁性体金属で作成するという課題はない。
c(a) 甲4に記載された周知技術の課題は,モータの定格推力の向上を図ることができるとともに,位置決め精度や直進性能の向上を図ることができるリニアモータの冷却構造を提供すること(甲4【0006】)である。
甲4に記載された周知技術において,ボビンに非磁性体素材を用いることの課題は,磁性体素材を用いるとリニアモータの駆動に影響を与えることから,これを避けるためである。そして,コイル冷却用部材に,熱伝導性のよい素材を用いるのは,モータの冷却効率を上げるためであり,非電磁性金属を用いるのは,合成樹脂よりも熱伝導率がよいからである(甲4【0012】。
) (b) 甲5に記載された周知技術の課題は,モータ構造の冷却能を向上させることにより,永久磁石への損傷程度が少なく,高い値の電流を供給して,急始動及び急加速が可能で,高トルクが得られ,常温にて駆動できるモータ構造を提供することである(甲5【0003】。
) 甲5に記載された周知技術において,ボビンに非磁性体金属を用いることの課題は,モータの冷却効率がよい非磁性体の材料を提供することである。
(c) 甲6に記載された周知技術の課題は,真空中や減圧下ではコイル導線のまわりに伝熱媒体の空気がないため,除熱は皆無又は微弱となり、コイル導線の温度は通電中上昇を続け,コイル導線間の短絡やコイル導線の断線に至る可能性があるため,効率的に除熱することである(甲6【0004】。
) (ウ) 作用,機能の共通性について 本件考案2と,甲1考案,甲4〜6に記載された周知技術は,前記のとおり,技 術課題が異なるから,作用・機能が異なる。
(エ) 引用考案中の内容中の示唆について 本件考案2においてボビンに熱伝導性のよい非磁性体金属を用いるのは,@電磁コイルが焼けて断線することを防ぐ,A空気を加熱して二重項酸素の発生効率を高める,B強磁性金属では電磁コイルから発生する磁力線を遮断し,ボビンの中を流れる電子化空気に磁力線を作用させることができなくなる,ためであり,甲1考案には,これらの点に関する示唆はない。
甲4〜6に記載された周知技術には,本件考案2の空気中の酸素分子を電磁的に励起させ,一重項酸素などの活性化酸素を発生させるための電子化装置に周知技術のボビンが利用可能であることの示唆はない。
イ 甲1考案から出発し,甲4ないし6に記載された周知技術を考慮することにより,本件考案の特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することは不可能である。
本件考案の特徴点(先行技術と相違する構成) 甲1考案は, は, 「オゾン発生装置」であるのに対して,本件考案は, 「オゾンを含まない活性酸素発生装置」であるという点にあるところ,本件考案2のボビンを熱伝導性のよい非磁性体金属にすることで, 「オゾンを含まない活性酸素発生装置」が「オゾン発生装置」になることはあり得ない。
4 被告の反論に対する主張 被告の反論は,時機に遅れた攻撃防御方法の提出であるから,却下されるべきである。
被告の反論
1 相違点の認定について (1) 原告が主張する相違点は,いずれも本件考案1の請求項の記載に基づくも のではなく,対比の前提となる本件考案1の認定を誤り,実施例と引用考案とを対比したものであるから,失当である。
(2)ア 相違点@について (ア)a 本件考案 1 の請求項1には,「二重項酸素と一重項酸素を発生させる構成」及び「オゾンを発生させない構成」は記載されておらず,本件考案1は,「一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置」であり,「オゾンを含まない活性酸素発生装置」とは認められない。
本件考案1には, 「一重項酸素などの活性酸素種を生成させる」ことについて, 「高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ,その中心部に空気を流し込むことで空気中の酸素分子を励起させる」との特定しかない。
「陰極の放電針と陽極板で構成される高圧放電管」及び「自由電子を含んだ電子化空気を電磁コイルで空気流に沿って磁力線が平衡に進むようにする」ことは,本件考案1の請求の範囲にも,本件明細書にも記載されていない。
また,本件明細書を参酌しても,本件考案1の「高電圧を流した放電針」の「高電圧」が,直流高電圧又は交流高電圧であることの特定はされていない。
したがって,本件考案1の「高電圧」には,交流高電圧が含まれ,「電磁コイル」には,放電部分にも強い磁力線を作用させてオゾンを発生させるような強力な磁力を生じさせる電磁コイルが含まれるから, 「オゾンを発生させない」という課題を解決するための構成を欠いている。
b 「空気」は,本件考案 1 の考案特定事項であるということはできないから,「酸素ガス」と「空気」は実質的な相違点ではない。
本件考案は,高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コ 「イルを巻きつけ,その中心部に空気を流し込むことで空気中の酸素分子を励起させる」ものであり,考案の詳細な説明にも,電子や磁界が空気中の酸素分子に作用することの説明しかない。
したがって,本件考案1は, 「酸素含有ガス」をその中心部に流し込めばよく,空気に含まれる酸素以外の成分は,本件考案の作用効果に影響を与えることはない。
(イ)a 本件考案 1 の電磁コイルも,甲 1 発明の電磁コイル(コイル18)も,放電管(イオン化室23)の先端に,放電針とコイルとの距離を離して巻き付けられているので,両者で異なる作用を奏するとは考えられない。
b(a) 甲1には,空気などの酸素含有ガスに対して放電(電子化)することによって,一重項酸素(O(1D),O2(b1Σg+),O2(a1Δg))などの活性酸素種を生成することが記載されている。また,甲1には,オゾン生成のために空気も広く用いられていること,印加電圧や,周波数により,オゾン生成量を調整できることが記載されているから,甲 1 考案において, 「酸素ガス」より酸素濃度の低い「空気」を用いることは,当業者にとってきわめて容易である。
(b) 仮に,本件考案1の「高電圧」が直流高電圧であるとしても,甲1には,放電針に高電圧を流すためのイオン化高圧電源として,直流高圧電源を利用することが記載されている(甲1【0020】。
) (ウ) 甲16には,型式の特定しかなく,本件考案1との構成の対比がない。
仮に,型式SRR-400型のSRRエンジンが,本件明細書に記載された構成を有しているとしても,本件考案 1 は「過度の上位概念化・抽象化」がなされているから,甲16が本件考案1に包含されるあらゆる構成の空気の電子化装置についてオゾンを発生させないことを証明するものではない。
イ 相違点Aについて 原告が主張する相違点Aは,本件考案1と甲1考案の主たる目的を対比したものにすぎず,構成を対比したものではない。
ウ 相違点Bについて 本件考案は,放電針から電子を発生させるのであり,この点は,甲1考案も同じである。
エ 相違点Cについて 原告が主張する相違点Cは,本件考案1の実施例を説明する図面と甲1考案を対比したものであり,本件考案1の請求項1には,『放電管1』は,左端は送風機を 「用いて空気が送り込まれるように開放され, 『放電針2』と『対面極3』を平面的に組み合わされ,右端も通気口は設けられず開放された構造」であることの記載はなく,前記相違点Cに対応する構成が存在しない。
オ 相違点Dについて 甲1には, 「回転電界および磁界をかけるイオン回転室」を有する考案のほか, 「回転電界のみをかけるイオン回転室」又は「磁界のみをかけるイオン回転室」を有する考案も開示されている。
カ 相違点Eについて 原告が主張する相違点Eは,本件考案1の実施例を説明する図面と甲1考案を対比したものであり,本件考案1(請求項1)には,前記相違点Eに対応する構成が存在しない。
2 相違点の判断について (1) 本件考案1について ア 原告が主張する相違点Cは,本件考案1の実施例を説明する図面と甲1考案を対比したものであり,本件考案1(請求項1)には,前記相違点Cに対応する構成が存在しない。
イ 「空気」は,本件考案1の考案特定事項であるということはできない。
(2) 本件考案2について 本件考案2は,本件考案1の「電磁コイルが巻きつけられる筒」 (ボビン)を冷却するための公知材料の中からの最適材料の選択であるから,進歩性が否定される方向に働く要素である主引用発明からの設計変更等に該当する。
甲4〜6は, 「電磁コイルが巻きつけられる筒」として本件考案2の材料を選択することが周知技術であることを裏付けている。
当裁判所の判断
1 本件考案について 本件考案は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲44)には,本件考案について,概略,次のとおりの記載がある。
本件考案は,空気中の酸素分子を電磁的に励起させ,一重項酸素などの活性化酸素を発生させるための電子化装置に関する(【0001】。
) 空気中の酸素分子は基底状態が三重項状態であり,有機化合物等との反応性は高くない。しかし,紫外線照射,荷電粒子照射,電磁波照射,高電圧照射等によって,反応性が高い活性酸素種に変換することができる。その例として,ヒドロキシ-ラジカル(OH・),スーパーオキシドアニオン(O 2・-),一重項酸素分子( 1O2)が知られている。【0002】 ( ) これらの活性酸素種のなかで特に注目されているのが,有機物との反応性が高いヒドロキシ-ラジカル(OH ・)である。ヒドロキシ-ラジカル(OH ・)は,過酸化水素(H2O2)に銅や鉄などの重金属イオンを反応させるフエントン反応によって生成されるが,TiO2の光触媒機構によっても発生する。【0003】。
( ) 従来,高圧電流を流した放電針で紫外線を発光させ,放電筒のなかでマイナスイオンとオゾンを発生させる装置が知られていた(【0008】。
) しかしながら,発生した活性化空気を大気中に放散させると,活性化空気中に残留するオゾンの影響が心配され,環境的に問題となるため,解放的に使用することが難しかった(【0009】【0011】。
, ) そこで,本件考案は,オゾンを発生させないで,空気を電子的に電子化させ,磁力を掛けて励起させることによって,一重項酸素などの活性酸素種を生成させる装置を提供することを課題とする(【0011】。
) 本件考案は,高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コイルを巻き付け,その中心部に空気を流し込み,放電針から発生した自由電子を, 電磁コイルの中心部に作用する空気の流れに沿った磁力線の電磁誘導によって,激しく回転させ,空気中の酸素分子と接触させて,酸素分子を電磁的に励起させ,その電子軌道に自由電子を付加させ,一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置である(【0012】【0013】【0016】【001 , , ,7】【0025】。
, ) 高電圧を流した放電針から発生する電子に磁力線を作用させると,空気中の酸素原子が励起されて,一重項酸素などの活性酸素種が発生することは,一般的には知られておらず,本件考案は,その仕組みを見出す実験の結果から体験的に得られたものである。その仕組みにより発生する活性酸素は,秒単位で消滅する非常に短命なもので,発生と同時に瞬時に消滅するので,オゾンのような有害性はなく,大気中や水中,土中などの開放された環境下でも,環境的に安全である。【0017】 ( ,【0025】) 本件考案の実施形態は,次の図1(縦断面説明図)のとおりである(【0020】,【0029】。
) すなわち,放電管1は,非電導性の樹脂で作り,筒状の管内部に放電針2と対面極3を端子4及び端子5で取り付けて固定する。その放電管1の先端部に,電磁コイル7を巻き付けたボビン6を接合して一体化する。電磁コイル7の末端は端子8及び端子9と接合し,外部電源から供給される電流が通電される構造とする。また, ボビン6に巻きつけられる電磁コイル7は,側板10及び側板11で固定する。
(【0020】) 2 甲1考案の認定について (1) 甲1には,以下の記載がある。
請求項1】放電を利用したオゾンの発生方法であって,酸素ガスに放電を行った後に,回転電界もしくは磁界,あるいは回転電界および磁界のかかった空間内に導入することを特徴とするオゾン発生方法。
請求項2】放電を利用したオゾンの発生装置であって,酸素ガスを導入して放電を行うイオン化室と,回転電界もしくは磁界,あるいは回転電界および磁界をかけるイオン回転室とを有し,イオン化室をイオン回転室に接続するとともに,イオン化室において放電を受けたガスをイオン回転室に導入することを特徴とするオゾン発生装置。
【0001】【考案の属する技術分野】本考案は,放電を利用してオゾンを発生させる方法および装置に関する。・・・【0002】【従来の技術】・・・オゾンの生成方法としては,無声放電を利用したものが多く知られている。・・・【0003】また,放電による酸素気体中の放電生成物としては,O2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1 Σg+),O-,O2(a1Δg) 2-が揚げられる。この内,オゾンの生成エネルギーに近い ,O生成エネルギーを有するO2(b) -,O2(a)等の粒子が主にオゾンの生成に関与すると ,O考えられている・・・。
【0005】【考案が解決しようとする課題】しかし,多くの方法は,電気放電の制御を行うものであり,放電部分を出たオゾンを含んだガスについては検討がなされてこなかった。
このため,従来の技術においては,・・・オゾンの生成に大きくかかわるO 2(b),O -,O2(a)等の粒子の挙動について,制御は行われず,これらの粒子の多くをそのまま放出しているものである。・・・また,O-をそのまま放出する場合には,酸素分子との衝突確率が非常に小さくなり,オゾン生成に関与することなく排出され,他の物質と反応し,オゾンが生成されないものである。
【0006】【課題を解決するための手段】本願考案者等は,オゾンの収率を向上すべく,放電後のオゾンを含んだガス中に存在するイオン化された酸素原子の活用を考え,このイオン化した酸素原子を電磁的に誘導して酸素分子との衝突確率を増加させることにより,オゾン収率の向上を目指すものである。そして,イオン化した酸素原子を回転電界により強制的に回転させ,螺旋軌道を描かせることにより,酸素分子との衝突確率を増加させるものである。すなわち,放電による酸素気体中の放電生成物の内,オゾン生成エネルギーを有するO-に着目し,積極的に回転運動を与え,且つ,ガスの自然拡散方向と異なる軌跡を与えることにより,酸素分子との衝突確率を増加させオゾン収率の向上を図るものである。
【0007】酸素ガスに電気放電を行うことにより生成される物資において,荷電を有する物質を電磁気的に誘導して,未反応物質に衝突させることにより,生成反応を促進して,生成効率を向上させるものである。オゾンの生成においては,酸素分子への衝突確率を増大させるものであり,オゾンの生成効率を向上させるものである。そして,荷電した物質としては,オゾン生成エネルギーを有するO-を利用するものであり,誘導手段としては電磁気により誘導することにより負に荷電した酸素原子を他の物質に接触させることなく,酸素分子に衝突させることができるも のである。
【0008】本考案は次のような手段を用いる。
請求項1に記載のごとく,放電を利用したオゾンの発生方法であって,酸素ガスに放電を行った後に,回転電界もしくは磁界,あるいは回転電界および磁界のかかった空間内に導入する。
【0009】そして,請求項2に記載のごとく,放電を利用したオゾンの発生装置であって,酸素ガスを導入して放電を行うイオン化室と,回転電界もしくは磁界,あるいは回転電界および磁界をかけるイオン回転室とを有し,イオン化室をイオン回転室に接続するとともに,イオン化室において放電を受けたガスをイオン回転室に導入するオゾン発生装置を構成する。
【0010】【考案の実施の形態】・・・図1は本考案のオゾン収率向上手段を示す模式図である。・・・オゾン収率向上手段は,放電部1と再反応部2により構成されている。放電部1において供給された酸素ガスに放電を行い,オゾンを生成するとともに,未反応のガスを再反応部2に供給するものである。そして,再反応部2において未反応のガスよりオゾンを生成するものであり,特に,未反応の酸素分子と負に荷電した酸素原子とによりオゾンを生成するものである。
【0011】 放電部1には,供給管3により酸素ガスが供給され,放電電極4により放電が行われる。これにより,放電部1内において酸素ガスよりオゾンが生成するとともに,負に荷電した酸素原子などが生成する。放電部1に酸素ガスを供給することにより,酸素ガス,オゾンおよび負に荷電した酸素原子は放電部1と再反応部2とを連通する連通孔5より再反応部2に供給される。
再反応部2には,排出口6が設けられており,連通孔5より供給された気体は排出口6へと流れるものである。そして,この気体には,放電部1において生成したオゾン,負に荷電した酸素原子,未反応の酸素分子が含まる。そして,この気体中において,負に荷電した酸素原子を電磁気的手法により再反応部2内において誘導することにより,負に荷電した酸素原子を他の気体分子と異なる挙動を取らせ酸素分子に衝突し易くするものである。これにより,オゾンを生成し易くするものである。オゾンを生成するに十分なエネルギーを持った酸素原子と未反応の酸素分子とを接触しやすくすることより,オゾンの生成効率を向上させるものである。負に荷電した酸素原子を電磁気的手法により誘導するので,負に荷電した酸素原子の寿命を長く保つことができ,他の物質との接触を避けながら酸素分子への衝突確率を向上することができる。
これにより,再反応部2において効率的にオゾンを生成することができるものである。そして,再反応部2のガスは排出口6より排出される。
【0012】・・・再反応部2内において,O-に回転電界を与えることにより,O-を再反応部2内において螺旋状の軌道に沿って移動させることができるものである。
図2はO-の軌道の一例を示す図である。負に帯電させたイオンを図2のXY平面上でX軸と45°の角度で再反応部2内に射出する。
(この再反応部2にはX軸方向に磁場BをYZ平面上に回転電界Eを印加している。)この電場において,O-は図2のような回転運動を行う。回転電界によるイオンの回転運動において,回転電界に対応する速度は回転電界と同期するように一意的に決まる。このため,YZ平面上の初速度の全てを電界の回転に使用した場合には,イオンは注入端からX軸方向に真直ぐ螺旋回転して進む。そして,YZ平面上の速度が負になったときは,XY平面において逆方向に進むこととなる。
【0013】図3は3重電極を有する再反応部2の内部構成を示す斜視図である。
再反応部2は前後方向に延出された筒状に構成されており,この再反応部2内に3重電極が配設されている。3重電極は電極11・11・11により構成されており,電極11は,前後方向に,互いに平行に配設されるとともに,正三角形の頂点位置に各電極11が配設された構成となっている。この電極11にそれぞれ,位相が120°ずつ,ずれた周波数の電圧を印加することにより,回転電界を発生させる。この回転電界により再反応部2内に導入されたイオンは螺旋状の軌跡を描きながら進むこととなる。
【0014】さらに,再反応部2に磁界をかける場合について説明する。図4は磁界をかけた場合におけるO-の挙動例を示す図,図5は同じくYZ平面におけるO-の挙動例を示す図である。電極11の延出方向(図3においてX軸方向)にかける磁界を調節して,O-イオンを回転運動させることが可能である。
回転電界をかけながら,磁界をかけることにより,重ね合わせの理から回転電界による回転とともに磁界による回転運動も行うものである。図5に示す例においては,回転電界により小さな回転を行いながら,磁界により大きな円を描きながら運動するものである。
このように,電界もしくは磁界,あるいは電界および磁界によりO-イオン回転運動を制御してO-イオンの酸素分子への衝突確率を増加させるものである。
【0015】次に,本考案の実施の形態について図を用いて説明する。
図6はオゾン発生装置の模式図である。図6に示すオゾン発生装置は,酸素ガスに放電を行い,オゾンを生成するとともに,放電により発生した負に荷電した酸素原子を酸素分子に衝突させて,さらにオゾンを生成するものである。
オゾン発生装置は,主に,酸素貯蔵部21,ガス流量制御装置22,放電部であるイオン化室23,イオン化室23に接続されたイオン化用高電圧源20,再反応部であるイオン回転室24,高周波三相交流発生器25により構成されている。
・・・イオン化室23はイオン化室23 内に導入された酸素分子に放電を行うものである。
【0016】図7はイオン化室の一部側面断面図である。イオン化室23は,筒体29,針電極28,平板電極31,ガス供給管27,高圧ケーブル26により構成されている。筒体29は内側にガラス製容器を装着したステンレス製筒により構成されており,通気孔30が設けられている。筒体29の一端には高圧ケーブル26が接続されており,この高圧ケーブル26に接続する針電極28が配設されている。そして,筒体29の他端には通気孔30が設けられており,通気孔30より針電極28側に平板電極31が配設されている。さらに,筒体29にはガス供給管27が貫通しており,筒体29内部に酸素ガスを供給可能にしている。
【0017】イオン化室23は内部に酸素ガスを導入して,放電によりオゾンおよびイオン化した酸素原子を発生させるものである。イオン化室23において筒体29内にガス供給管27より酸素ガスが供給され,針電極28と平板電極31との間で放電が行なわれる。そして,さらに酸素ガスを筒体29内に供給することにより,放電をうけたガスが通気孔30より筒体29の外へ排出される。イオン化室23より排出されたガスは,イオン回転室24内に導入される。
【0018】図8はイオン回転室の構成を示す側面断面図である。イオン回転室24は,筒体34の両端を閉じ,一方にイオン化室23を装着し,他方にオゾンガス排出口35を装着したものであり,内部に3重電極33を配設したものである。イオン化室23はイオン回転室24において,筒体34の延出方向に対して約45°の角度で挿入されている。これにより,3重電極33に回転電界をかけて,イオン化室23より排出されたガスに含まれるイオンを回転させ,イオンの 進行方向とガスの進行方向をずらすものである。そして,イオン化室23よりガスが供給されることにより,筒体34内のガスがオゾン排出口35より排出されるものである。イオン回転室24内において,荷電した酸素原子を回転運動させて,酸素分子との衝突確率を増加させることにより,オゾンの生成効率を向上させることができるものである。
【0019】オゾン発生装置としては,磁界を利用して荷電した酸素原子を誘導するものを用いることも可能である。図9は磁界を利用するオゾン発生装置を示す図である。図9に示すオゾン発生装置は,酸素ガスに放電を行い,オゾンを生成するとともに,放電により発生した負に荷電した酸素原子を回転電界および磁界により誘導して酸素分子に衝突させて,さらにオゾンを生成するものである。
オゾン発生装置は,酸素貯蔵部21,ガス流量制御装置22,放電部であるイオン化室23,イオン化室23に接続されたイオン化用高電圧源20,再反応部であるイオン回転室24,高周波三相交流発生器25,イオン回転室24に巻かれたコイル18および,コイル18に接続 した直流電源19により構成されている。
そして,直流電源19よりコイル18に電流を通すことにより,コイル18によりイオン回転室24に磁界が発生し,イオン回転室24内に導入された荷電物質に回転運動をさせることができるものである。そして,これにより,荷電した酸素原子と酸素分子との衝突確率を増加させて,オゾン生成の効率を向上できるものである。
【0020】【実施例】・・・オゾン発生装置は,図6に示した装置に,オゾン濃度計と取り付けて行ったものである。
酸素ガスは,酸素ガスボンベより99.5%の酸素ガスを供給し,ガス流量制御装置として最大流量2L/minのマスフローコントローラを利用した。そして,イオン化高圧電源として最大電流7μAの直流高電圧源を利用した。高周波三相交流発生器においては,周波数を180KHz,電圧を0.6Vとした。オゾン濃度計としては,濃度範囲0〜10ppmのものを利用した。
【0021】・・・放電状態の変化によるオゾン収率変化の確認のために,回転電界を印加することなく,直流高電圧によるイオン化の状態を測定した。実験条件は,供給酸素量50ml/minとし,回転電界をかけない場合と,かけた場合とで,それぞれ3時間ずつ測定し,オゾン濃度の変化を見た。
図10は回転電界によるオゾン濃度の影響を示す図である。図10において,横軸は時間軸であり,3時間目以降において回転電界をかけたものである。図10に示すごとく,回転電界をかけた後には,オゾン濃度が2倍ほどに上昇した。このように,放電を行った後の酸素ガスを,回転電界をかけた筒体内に導入することにより,オゾンの生成効率を向上できるものである。
【0022】【考案の効果】このように,酸素ガスを導入して,放電によりオゾンを発生するとともに,同時に生成する荷電状態の酸素原子および酸素を利用して,オゾンを発生させるので,放電に用いたエネルギーを効率的に利用して,オゾンを生成できる。さらに,オゾン生成に用いる酸素を効率的にオゾンとすることが可能であるため,高い濃度のオゾンを効率的に生成できる。また,回転電界もしくは磁界を用いて荷電酸素原子の回転運動を制御するので,容易に荷電酸素原子の酸素分子との衝突確率を増加できる。そして,電磁気的手法を用いて荷電酸素原子を誘導するので,荷電酸素原子を容易に扱うことが出来るものである。
(2)ア 前記(1)によれば,甲1考案について,以下のとおり認められる。
(ア) 甲1考案の課題は,従来の無声放電を利用したオゾンの生成方法では,オゾンの生成に関わるO2(b) -,O2(a)等の粒子の多くが,オゾン生成に ,O関与しないまま放出されており,オゾンの収率が低いことであった(【0002】,【0003】【0005】【0006】。
, , ) (イ) 甲1考案は,放電による酸素気体中の放電生成物のうち,オゾン生成エネルギーを有するイオン化された酸素原子O-に着目し,これを回転電界により強制的に回転させ,ガスの自然拡散の方向と異なる螺旋軌道を描かせることにより, 酸素分子との衝突確率を増加させ,オゾン収率の向上を図ったものである 【000 (6】。
) (ウ) 甲1考案には,O-を回転させる具体的な手段として,@再反応部であるイオン回転室に設けられた3重電極のそれぞれに,位相が120°ずつ,ずれた高周波の電圧を印加して発生した回転電界をかけること【0009】 0012】 ( 【 , ,【0013】【0015】【0018】,A@に加え,イオン回転室に巻かれたコイ , , )ルに直流電源から電流を通して発生した磁界をかけること【0009】 0012】 ( , 【 ,【0014】【0019】が開示されている。
, (エ) 以上によれば,甲1考案においては,放電による酸素気体中の放電生成物のうち,O-以外のものは,回転運動を与える対象とされていないといえる。
イ なお,甲1には, 「回転電界もしくは磁界,あるいは回転電界および磁界」(【請求項1】【請求項2】【0014】, , , )「回転電界もしくは磁界を用いて」【00 (22】)との記載があり,文言上,O-を,電界及び磁界により回転させることのほか,電界のみ又は磁界のみによって回転させることが示されている。
しかしながら,甲1には,上記記載以外に,O-に,電界をかけず,磁界のみをかけることにつき,実施例を含む具体的な記載はない。むしろ,磁界を利用するオゾン発生装置を示す図である図9は,オゾン発生装置の模式図である図6に,コイルと,コイルに接続された直流電源を加えたものであることを考え併せると,甲1考案において,O-に,3重電極により発生する電界をかけず,コイルにより発生する磁界のみをかけることは,想定されていないと解される。
そして,甲1には,図6に示した装置のオゾン生成結果についての記載はある【0 (020】【0021】 , )ものの,O-に磁界のみをかけた装置によるオゾン生成結果についての記載はなく,O-に磁界のみをかけた場合にも,現実的な装置設計の範囲内で,3重電極により発生する電界をかけた場合と同程度のオゾンの収率が確保できるのかは明らかではなく,他にこの場合のオゾンの収率を推定し得る技術常識を認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上によれば,甲1考案は,以下のとおり,認定すべきである(なお,下線部は,審決の認定した甲1考案と相違する箇所である。。
)「 高電圧を流した針電極28から電子を発生させるイオン化室23の先端に,内部に3重電極33が配設され,コイル18が巻かれたイオン回転室24を設け, イオン化室23の中に流し込まれた酸素ガスを励起して,O2+,O2(W),O(1D),O,O2(b1Σg+),O-,O2(a1Δg),O2-を生成し,イオン回転室24において,生成したO-に対し,3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え,酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置。」 エ したがって,審決の甲 1 考案の認定には,誤りがある。
3 本件考案1と甲1考案の対比 (1)ア 前記第2の2のとおり,本件考案請求項1には,「一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる」空気の電子化装置であることが記載されているところ,このうち,「一重項酸素などの」という部分は,その文言上,「活性酸素種」の例示であって,「活性酸素種」の内容を限定するものではない。
前記1のとおり,甲44には,紫外線照射,荷電粒子照射,電磁波照射,高電圧照射等によって,空気流の酸素分子が,反応性が高い活性酸素種に変換されるところ,その例として,ヒドロキシ-ラジカル(OH・) スーパーオキシドアニオン , (O ・-2 ),一重項酸素分子(1O2)が知られている(【0002】)ことが記載されているが,本件明細書中に,前記以外に,ヒドロキシ-ラジカル(OH ・),スーパーオキシドアニオン(O2・-),一重項酸素分子(1O2)以外のいかなる物質が「活性酸素種」に含まれるものかについての記載はない。
イ そして,証拠(甲10,22,23)及び弁論の全趣旨によれば,一般に, 「活性酸素」には, 「狭義の活性酸素」と「広義の活性酸素」があり,次の図(甲22)のとおりの物質が, 「狭義の活性酸素」及び「広義の活性酸素」と解されてい ることが認められる。
以上によれば,オゾン(O3)は,狭義の「活性酸素」ではないが,広義の「活性酸素」であることが認められる。
ウ この点,原告は,本件考案で生成される「活性酸素種」は,一重項酸素と二重項酸素のみであって,オゾンは含まれない旨を主張し,活性酸素種を,ラジカル形成の有無により分類すると,ラジカル種としてヒドロキシルラジカル(・OH-) スーパーオキシドラジカル ・O2-) ヒドロペルオキシルラジカル , ( , (HOO・)があり,ノンラジカル種として,一重項酸素(1O2),過酸化水素(H2O2),オゾン(O3)があること,空気に磁界と電界を作用させて作られる活性酸素種は,一重項酸素(1Δ g),二重項酸素(・O2-),オゾン(O3)の三種類であることを記載した原告取締役所長A作成の陳述書(甲10)を提出する。
しかしながら,前記アのとおり,本件考案1の請求項における「活性酸素種」には,文言上,特段の限定はないし,本件明細書の記載中にも,例示された一重項酸素以外で前記「活性酸素種」に含まれるのは,どのような物質か,前記「活性酸素 種」 狭義の活性酸素を意味するのか, は, 広義の活性酸素を意味するのかについて,明確な記載はなく,また,前記「活性酸素種」に含まれる物質を認定するに足りる証拠はない。
原告が主張するように,狭義の活性酸素の中でも,特に,一重項酸素と二重項酸素のみが,前記「活性酸素種」に含まれることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,前記1のとおり,本件明細書に, 「オゾンを発生させないで,空気を電子的に電子化させ,磁力を掛けて励起させることによって,一重項酸素などの活性酸素種を生成させる」 (【0011】, )「その仕組みにより発生する活性酸素は,・ ・・オゾンのような有害性はなく,・・・環境的に安全である。( 」【0017】【002 ,5】)旨の記載があるとしても,本件考案に係る請求項1の記載として,「活性酸素種」につき,原告主張の一重項酸素及び二重項酸素のみに限られると解することはできず,狭義の活性酸素に限られると解することもできないのであって,結局,オゾンを含む広義の活性酸素全部を含むものと解するほかない。
エ 以上によれば,本件考案で生成される「一重項酸素などの活性酸素種」と,甲1考案で生成される「オゾン」 本件考案1に係る請求項の は, 「活性酸素種」,すなわち,広義の活性酸素である点において共通する。
(2) また,前記第2の2のとおり,本件考案請求項1には,「空気中の酸素分子を励起させることによって」活性酸素種を生成させることのできる空気の電子化装置であることが記載されているところ, 「空気中の酸素分子を励起させる」 このことについては,前記1のとおり,本件明細書には,高電圧を流した放電針から発生する自由電子に,電磁コイルにより発生する磁力線を作用させて激しく回転させ,酸素分子と接触させることにより, 「空気中の酸素分子が励起する」のであって,その結果,空気中の酸素分子の電子軌道に自由電子が付加して, 「活性酸素種」が生成される旨記載されているといえる(【0012】【0013】【0016】【001 , , ,7】【0025】。
, ) そうすると,本件考案における「空気中の酸素分子を励起させる」とは,放電針 から発生した電子が,電磁コイルにより発生する磁界によって激しく回転する状態となり,空気中の酸素分子の電子軌道に付加されることを意味するものであるといえる。
(3) 以上によれば,本件考案と甲1考案の一致点及び相違点は,以下のとおりであると認められる。
【一致点】 高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管を有し,活性酸素種を生成させることができる装置。
【相違点】 本件考案は,空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置であって,励起の手段が電磁コイルであるのに対して, 甲1考案は,イオン化室23に流し込まれた酸素ガスを励起して生成したO-に対し,イオン回転室24において,3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え,酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置である点。
4 新規性について 前記3のとおり,本件考案と甲1考案は,励起の対象として流し込まれるガスが空気(本件考案)か酸素ガス(甲1考案)か,回転運動をさせる対象となる荷電粒子が電子(本件考案)かO-(甲1考案)か,課題解決手段が磁界(本件考案)か回転電界及び磁界(甲1考案)かという点で相違するのであって,これらの相違点は,いずれも実質的なものと認められるから,本件考案新規性を欠くとは認められない。
5 容易想到性について (1) 甲2及び3に記載された周知技術について ア(ア) 甲2には,次の記載がある。
「 被反応気体に電界を印加して無声放電もしくはコロナ放電を発生させる放電装置と,前記被反応気体に磁界を印加して気体分子間で化学反応を生じさせる磁石装置を具備してなることを特徴とする気体反応装置。(特許請求の範囲(1) 」 ) 「この発明は反応させるべき気体に電界を印加して無声放電もしくはコロナ放電を発生させ同時に磁界を印加して気体に化学反応を生じさせるよう構成した気体反応装置である。(4頁 」3行〜6行) 「このオゾン生成装置は,第1図に示すように,空気もしくは酸素ガス(1)が流通する円筒状の電極(2)と,この電極の内部に配設されている中心電極(3)と,この中心電極(3)と上記円筒電極(2)との間に,無声放電もしくはコロナ放電をこの円筒内で発生するように電圧を印加する放電用電源(4)と,円筒(2)の周囲でかつ中間位置に設けた超電導磁石装置で構成された磁石装置(5)とで主に構成されている。(6頁12行〜20行) 」 「次にこの装置の動作について説明する。まず円筒電極(2)と中心電極(3)との間に電圧を印加し円筒内を流通する空気(1)中で無声放電もしくはコロナ放電を発生させておく。
次に磁石装置(5)を動作させて円筒内に磁界を印加する。円筒内を流通する空気中の酸素ガスからオゾンが生成され,円筒出口よりオゾン(12)を得る。(7頁13行〜19行) 」 1 被反応気体 2 円筒の電極 3 中心電極 5 磁石装置 (イ) 甲3(甲45)には,次の記載がある。
「対置した電極に高圧電流を印加して放電を行う既存構成の各種放電装置を,適宜の磁石の磁界 中に設置し,該放電装置による放電現象に磁石の磁束を作用させて,もって,電極間を通過する空気中の酸素を活性化して,多量の活性酸素及び活性オゾンを生成するようにしたことを特徴とする,活性酸素生成装置。(特許請求の範囲) 」 「平板電極方式の放電装置を採用した場合の本発明装置の具体的構成例につき説明すると,平板状の放電電極板(2)を,2枚乃至複数枚,等間隔に,間隔(3)をおいて対面設置し,各放電電極板(2)の導線(4)を高圧電源(例えば,トランス(5))に接続し,2枚乃至複数枚の放電電極板(2)からなる放電装置(1)を構成し,該装置(1)を,該装置(1)に近接して適宜設置した磁石(6)の磁界中に適宜設置する。
磁石(6)は,適宜の永久磁石(6)a, (6)b等を放電装置・・・の一側又は両側等に適宜設置する。また,電磁石の使用も当然に可である。・・・ 上記構成に於て,放電電極板(2)に高圧電流を印加し,また,各放電電極板間に空気を通すと,該放電板(2)間に放電が発生するが,該放電は同時に磁石(6)の磁界中において発生するため,磁束の作用を受け,ために,通過空気中の酸素が活性化されて多量の活性酸素及び活性オゾンが生成されるものである。(1頁右下欄15行〜2頁左上欄18行) 」 1 放電装置 2 放電電極板 3 電極板の間隔 4 導線 5 トランス 6 磁石 イ 前記アのとおり,甲2及び甲3(甲45)のいずれにも,空気又は酸素ガスに電界と磁界を同時に印加してオゾン等を発生させる装置が記載されていることが認められるものの,磁界のみを単独で印加することは記載されていない。
(2)ア 前記(1)イによれば,甲2又は甲3(甲45)に基づき,磁界のみを単独で印加してオゾン等を発生させるという周知技術は認められない。
そうすると,甲1考案と甲2及び3から認められる周知技術を組み合わせても, 「回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え」るという構成が,磁界のみをかけて回転運動を与えるという構成になるとは認められない。
イ また,前記2(2)イのとおり,甲1の記載から,O-に磁界のみをかけた場合にも,現実的な装置設計の範囲内で,3重電極により発生する電界をかけた場合と同程度のオゾンの収率が確保できるのかは明らかではなく,他にこの場合のオゾンの収率を推定し得る技術常識を認めるに足りる証拠はないことを考え併せれば,甲1考案の3重電極33を省略する動機付けは認められない。
ウ さらに,回転させる対象を,O-から電子に替える場合には,それに伴い,甲1考案の3重電極33を省略する動機付けがあるかにつき,別途検討する必要があると解されるので,この点につき検討するに,前記2(2)ア(イ)のとおり,甲1考案は,オゾン生成エネルギーを有する酸素原子O-に着目し,これを回転電界により強制的に回転させ,ガスの自然拡散の方向と異なる螺旋軌道を描かせることにより,酸素分子との衝突確率を増加させ,オゾン収率の向上を図る 【0006】 ( )ことを課題解決手段とするものであって,甲1の記載中に,回転運動の対象となる荷電粒子を,O-から電子に変更することにつき,示唆があると認めることはできず,他に前記変更についての動機付けの存在を認める足りる事実はない。
エ 以上のとおりであって,甲1考案において,励起の対象が「酸素ガス」であり,その励起手段が「3重電極」及び「コイル」であるという構成に替えて,励起の対象が「空気中の酸素分子」であり,その励起手段が「電磁コイル」であるという構成を適用することは,動機付けを欠き,本件考案1は,甲1考案並びに甲2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたとはいえない。
6 まとめ 以上のとおり,審決の認定した甲1考案の認定には誤りがあり,本件考案1は,甲1考案と同一ではなく,また,甲1考案並びに甲2及び3に記載された周知技術 に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたとはいえない。
また,本件考案2は,前記第2の2のとおり,本件考案 1 の構造に,電磁コイルの筒(ボビン)の材質を非磁性体金属で作ることを構成要件として付加するものであるところ,本件考案1が,甲1考案並びに甲2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたとはいえないことは,前記認定のとおりである。そして,甲4(甲46)はリニアモータの冷却構造,甲5はモータ構造,甲6(甲47)は電磁石の発明であり,甲4(甲46),甲5及び甲6(甲47)には,いずれも,「空気中の酸素分子」を「電磁コイル」で励起するという構成についての記載はないから,本件考案2が,甲1考案及び甲4〜6記載の周知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたともいえない。
なお,原告は,被告の反論につき,時機に遅れて提出した攻撃防御方法である旨主張する。弁論の全趣旨によれば,被告の反論は,弁論準備手続終結後に提出された準備書面により主張されたことが認められるが,被告が訴訟代理人を選任したのが,弁論準備手続終結後であったこと,原告も,弁論準備手続終結後,準備書面を提出して主張を行ったこと,弁論準備手続終結後の第1回口頭弁論期日において,原被告とも,他に主張・立証はない旨を述べて,同期日において弁論が終結されたことも認められるのであって,被告の反論につき,被告が「故意又は重大な過失により時機に遅れて提出した攻撃又は防御の方法」であって, 「これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」 民事訴訟法157条 1 項) ( ものであるとは認められない。
結論
以上の次第で,審決は,甲1考案の認定,相違点の認定・判断に誤りがあり,取消しを免れないから,原告主張のその余の点を判断するまでもなく,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。