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関連審決 無効2000-35274
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 考案 /  図面 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  きわめて容易 /  減縮 /  公知技術 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 403号 審決取消請求事件
原告 株式会社ドムス設計事務所
訴訟代理人弁護士 上野勝
訴訟代理人弁理士 松永善蔵
被告 松下電工株式会社
被告 日本製紙株式会社
被告 大建工業株式会社
被告 永大産業株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 小松陽一郎,平野和宏
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/28
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2000-35274号事件について平成15年8月12日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,実用新案を無効とする審決の取消しを求める事件であり,原告は無効とされた実用新案の実用新案権者の共有者3名の一人,被告らは上記実用新案に対する無効審判の請求人である。
1 特許庁等における手続の経緯 (1) 原告,ボード株式会社及び朝日ウッドテック株式会社(以下「原告外2名」という。)は,考案の名称を「木質防振床材」とする実用新案登録第2048015号(昭和60年12月27日にした特許出願(特願昭60-298268号)を平成元年3月24日に実用新案登録出願に変更したもの,平成7年1月23日にその設定登録。以下「本件実用新案」といい,その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者であった。
(2) 被告らは,平成12年5月18日,本件実用新案について原告外2名を被請求人として無効審判の請求をし,特許庁に無効2000-35274号事件として係属したところ,特許庁は,平成13年4月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
(3) 被告らは,平成13年5月21日,東京高等裁判所に上記審決の取消を求める訴訟を提起したところ(同年(行ケ)第233号事件として係属),平成15年1月30日,上記審決が本件考案と原特許出願に係る発明との同一性を肯定して本件出願の出願日につき原特許出願の出願日まで遡及するとした判断は誤りであるとして,上記審決を取り消す旨の判決が言い渡され,同判決は確定した。
(4) そこで,特許庁は,審判請求事件について更に審理し(以下再開後の審判手続を「再度の審判手続」という。),平成15年6月5日,原告外2名を審尋したところ(甲3),原告は,同年7月1日,原告のみの作成名義で本件考案の訂正案(甲4)を作成提出したこと,上記訂正案に係る考案は,審判甲第5号証(特開昭63-241264号公報),同第6号証(GBRC50号),同第7号証(「電工技術」vol.35,No.4,43〜52頁)及び同第8号証(特開昭62-156471号,本訴甲第9号証)に基づき,当業者が極めて容易に考案し得るとはいえず,また,審判甲第5ないし第7号証と同一であり得ないことを回答した。
(5) 特許庁は,平成15年8月12日,「登録第2048015号の実用新案登録を無効とする。」との審決をし,原告はその謄本の送達を受けた。
2 本件考案の要旨 任意の緩衝板上において,貫通あるいは半貫通のスリツトが所定間隔で設けられた仕上板上に,合成樹脂シート等よりなり,仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が,順次,積層粘着され,所定の形状,寸法に一体化されたことを特徴とする木質防振床材。
3 審決の理由の要点 (1) 出願日の遡及について 本件実用新案に係る出願が,原特許出願の時にしたものとみなすことはできず,本件実用新案の出願日は出願の変更が行われた平成元年3月24日である。
ところで,当審は審判被請求人に対して,本件実用新案に係る出願が適法な変更出願となるために更なる訂正の用意があるか,また本件実用新案がいわゆる新規性,進歩性を有する考案かについて更なる主張があるかの審尋を行った。
平成15年7月1日付の回答書によると,審判被請求人は 訂正の用意について,実用新案登録請求の範囲に「任意の緩衝板上において,貫通あるいは半貫通のスリットが所定間隔で設けられた仕上板上に,合成樹脂シート等よりなり,仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が,順次,積層粘着され,所定の形状,寸法に一体化されたことを特徴とする木質防振床材。」とあるのを,実用新案登録請求の範囲減縮を目的として,「任意の綬衝板上において,貫通あるいは半貫通のスリットが所定間隔で設けられた仕上板上に,合成樹脂シート等よりなる厚さ1mmの可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が,順次,積層粘着され,所定の形状,寸法に一体化されたことを特徴とする木質防振床材。」(以下,「訂正案」という。)と訂正する用意がある旨回答するとともに, 本件実用新案のいわゆる新規性,進歩性については先に提出した平成12年8月28日付審判答弁書の主張を援用すると回答している。
そこで上記訂正案について検討すると,「合成樹脂シート等よりなり,仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板」を「合成樹脂シート等よりなる厚さ1mmの可撓性薄板」とする訂正は,可撓性薄板についてその厚さを1mmと限定してはいるが,可撓性薄板が仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目であるという相対的な関係の限定を外すものであり,これによって仕上板および最上層の木質床化粧板は,その厚さが可換性薄板と同等の厚さのものまで含むものとなり,この訂正案は実用新案登録請求の範囲減縮を目的とするものではない。
また上記実用新案登録請求の範囲の訂正が,誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明を目的とするものではないから,上記訂正案は平成5年法附則4条2項において読み替えられた平成5年法改正前の実用新案法40条2項ただし書きに規定する訂正の要件を満たすものではなく,本件無効審判の中で訂正の機会を与える必要はない。
(2) 実用新案法3条1項違反について 本件考案が実用新案法3条1項の規定に違反するかについては,次の(3)で述べるように本件考案は実用新案法3条2項の規定により特許を受けることができないので,検討するまでもない。
(3) 実用新案法3条2項違反について (3-1) 引用刊行物記載の考案 審判請求人が無効理由に引用した審判甲第8号証(特開昭62-156471号公報,原特許出願の公開公報,本訴甲第9号証),審判甲第5号証(特開昭63-241264号公報,本訴乙第2号証)には次のような考案が記載されている。
(3-1-1) 審判甲第8号証 「1はグラスウール,ロックウール等の無機質繊維材で構成された所定の厚さを有する緩衝板であって,床基台11の上に密実に敷設され,その壁際は主な繊維方向が縦方向の端部細帯片7を介して壁基台9及び均し層8と接している。
そして緩衝板1の上には貫通或いは半貫通のスリット4を有する仕上板3が密設されている。スリット4は幅が1mmから2mm程度,スリット4の間隔は100mmから300mmが標準で,緩衝板1の厚さと仕上板3の厚さによって最適の寸法を定める。またスリット4の形状は第3図aの如く貫通或いは半貫パラレル型でもb図の如くXカット型或いはC図の如くダブルXカット型でも床衝撃音防止性能には変化がない。更にスリット4を有する仕上板3の表面には床衝撃による仕上板3のスリット4間の各細長い板がバラバラに振動するのをおさえるため,アスファルト紙,樹脂シート等の可撓性薄板5が粘着されている。
尚,仕上板3の表裏には予め可撓性薄板5と緩衝板1を密着しておくことも可能である。
最上層には通常,床化粧板6が施されているが,本発明による防振床の床衝撃音(固体衝撃音)防止性能が卓越しているため,木質系の硬質化粧板の使用も可能である。」(2頁右上欄6行〜左下欄10行参照) 「第4図は緩衝板1の厚さ10mmの場合の例で,第5図は緩衝板1の厚さ25mmの場合の例である。その他の仕様は第4図,第5図共通で仕上板3の厚さ9mmの合板上に,スリット4は貫通パラレル型では幅1mmを100mm間隔で設刻し,仕上板3上の可撓性樹脂シート5は厚さ1mmであった。」(3頁左上欄19行〜右上欄5行参照) 以上の記載を対比のためにまとめると,審判甲第8号証には次のような孝案が図面と共に記載されている。
「無機質繊維材で構成された所定の厚さを有する緩衝板上において,貫通あるいは半貫通のスリットが100mmから300mmの間隔で設けられた厚さ9mmの仕上板上に,樹脂シート等よりなる厚さ1mmの可撓性薄板を介在させて木質系の化粧板を,順次,積層粘着され一体化された防振床。」 (3-1-2) 審判甲第5号証 「木質化粧板1の裏面に軟質シート2を積層一体化すると共に軟質シート2の裏面に基板3を積層一体化させて木質板4が形成されている。木質板4の基板3には切溝8を設けられており,基板3の裏面にゴムシート5が粘着されて木質床材Aが構成されている。」(2頁右上欄7行〜同欄12行参照) 「木質床材Aには長手方向の一側に嵌合突部15が突設してあり,他側に嵌合凹部16が凹設してある。しかして,木質床材Aは,第3図に示すように建物のコンクリートスラブのようなコンクリート面7上に接着剤6を介して直接貼着して敷設される。」(3頁右下欄2行〜同欄8行参照) 以上の記載をまとめると,審判甲第5号証には次のような考案図面と共に記載されている。
「ゴムシート5上に,切溝8が所定間隔で設けられた基板3,軟質シート,木質化粧板を順次,積層粘着し,所定の形状,寸法に一体化した木質床板A。」 (3-2) 対比・判断 本件考案を審判甲第8号証記載の考案と対比すると,a.審判甲第8号証記載の考案の「無機質繊維材で構成された所定の厚さを有する緩衝」,「スリットが100mmから300mmの間隔で設けられた」,「樹脂シート等の可撓性薄板5」,「木質系の硬質化粧板」は,それぞれ本件考案の「任意の緩衝板」,「スリットが所定間隔で設けられた」,「合成樹脂シート等よりなる可撓性薄板」,「木質床化粧板」に相当し,b.審判甲第8号証記載の考案も,緩衝板上に,スリットが設けられた仕上板,可撓性薄板,木質床化粧板を順次,粘着され一体化されて床を構成する材料であるから,全体として本件考案と同様に「木質防振床材」ということができ, 以上のことから,両者間には次のような一致点,相違点がある。
(一致点) 任意の緩衝板上において,貫通あるいは半貫通のスリットが所定間隔で設けられた仕上板上に,合成樹脂シート等よりなる可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が,順次,積層貼着され一体化された木質防振床材。
(相違点) ア 可撓性薄板の厚さに関して,本件考案では「仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目」であるのに対して,審判甲第8号証記載の考案は,仕上板3の厚さが9mmで可撓性薄板厚さが1mmとあるが木質化粧板の厚さについては言及されていない点 イ 木質防振床材が,本件考案では所定の形状,寸法に一体化された床材であるのに対して,審判甲第8号証記載の考案では特に所定の形状,寸法に一体化されているとは言及していない点(相違点の検討) 相違点アについて検討する。
まず,本件考案における「仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板」については,本件考案が記載された明細書の対応する考案の詳細な説明によると,仕上板および最上層の木質床化粧板と可撓性薄板との厚さの関係について,仕上枚が9mm,木質化粧板が6mm,可撓性合成樹脂シートが1mmとされている。そしてそれ以外に厚さの関係について説明する記載はない。
このことから本件考案の「仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板」は,仕上板が9mmで木質化粧板が6mmのとき,可撓性薄板が1mmの厚さ関係を含むものとして規定されているということができる。
そうすると審判甲第8号証記載の考案も可撓性薄板と仕上板の厚さの関係については同じ寸法関係が記載されているから,可撓性薄板が仕上板より多分に薄めである点で本件考案と相違するものではない。
次に,可撓性薄板と木質化粧板との厚さの関係について検討する。
審判甲第8号証には木質化粧板の厚さについて具体的な寸法の記載はない。
しかし,木質化粧板は化粧板であることからみて仕上板3や緩衝板1に比べて厚くする理由はないし,また審判甲第8号証の第1図と第2図にはともに,床化粧板6が,仕上板3よりは薄く,可撓性薄板5より厚くしたものが図示されていることからみて,仕上板を9mmとし可撓性薄板を1mmとしたとき,床化粧板の厚さを6mm程度に設定することは当業者ならば普通に考えつくことであるから,可撓性薄板を本件考案でいうところの木質化粧板よりも多分に薄めと設定することは,当業者がきわめて容易に考えつくことができたことである。
相違点イについて検討する。
審判甲第5号証に,ゴムシート上に,切溝が所定間隔で設けられた基板,軟質シート,木質化粧板を順次,積層粘着し,所定の形状,寸法に一体化した木質床板が記載されており,ここで「ゴムシート」,「切溝」,「基板」,「軟質シート」,「木質化粧板」,「木質床板」は,それぞれ本件考案の「緩衝板」,「貫通のスリット」,「仕上板」,「可撓性薄板」,「木質床化粧板」,「木質防振床材」に相当するから,木質防振床材を所定の形状,寸法を有する床材として構成することは公知技術であり,上記相違点イは当業者がきわめて容易に考えつくことができた構成の変更である。
(3-3) むすび 以上のことから,本件考案は審判甲第8号証および審判甲第5号証記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであり,実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないから,本件実用新案登録は実用新案法37条1項1号の規定により無効とすべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 審決取消事由1(審判手続の法令違背) 原告には,再度の審判手続の中で本件考案を訂正する機会が与えられるべきであったのに,その機会が与えられなかったから,再度の審判手続には瑕疵があり,かつ,その瑕疵は審決の結論に影響を及ぼすものである。
(1) 原告は,再度の審判手続において,更なる訂正の用意があるかとの特許庁の審尋に対し,本件考案を訂正する用意がある旨回答したところ,特許庁は,無効審判の中で訂正の機会を与える必要はないとして,その機会を与えなかった。
(2) しかし,原告は,更なる訂正の用意があるかとの特許庁の審尋を受けて本件考案の訂正案を作成したのであり,しかも,原特許出願の出願当時の木質建材流通市場においては,入手可能な最薄の合板(仕上板)の厚さは2.5mmであり,また,最薄の木質床化粧板(複合床材)の厚さは2.7mmであって,これらと比較すると,厚さ1mmの可撓性薄板は「多分に薄目」の範囲内にあり,上記訂正案は,本件考案と同一性を失うものではなく,実用新案登録請求の範囲減縮に当たるから,上記訂正案による訂正は認められるべきであった。
(3) したがって,原告に本件考案の訂正の機会を与えなかった再度の審判手続には瑕疵があり,かつ,その瑕疵は審決の結論に影響を及ぼすものである。
2 審決取消事由2(審理不尽) 審決は,審理を尽くさずに原特許出願に係る「発明」を「考案」と誤認し,さらに,証拠の解釈を誤り,判断を遺脱して,審判甲第5号証及び第8号証(特開昭62-156471号,本訴甲9)記載の考案に基づいて,当業者が極めて容易に考案することができたと判断した。
当裁判所の判断
1 審決取消事由1(審判手続の法令違背)について (1) 平成5年法律第26号附則4条2項により読み替えられた同法による改正前の実用新案法40条2項本文は,「第37条第1項又は第48条の12第1項の審判の被請求人は,前項又は次条において準用する特許法第153条第2項の規定により指定された期間内に限り,願書に添付した明細書又は図面の訂正を請求することができる。」と規定し,また,同法40条1項は,「審判長は,審判の請求があつたときは,請求書の副本を被請求人に送達し,相当の期間を指定して,答弁書を提出する機会を与えなければならない。」と,同法41条において準用する特許法153条2項は,「審判長は,前項の規定により当事者又は参加人が申し立てない理由について審理したときは,その審理の結果を当事者及び参加人に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならない。」と規定する。以上の規定によれば,実用新案登録の無効の審判の被請求人は,これについての答弁書の提出期間内又は職権による無効理由通知に対する意見書の提出期間内に限り,願書に添付した明細書又は図面の訂正を請求することができるものである。
(2) ところで,再度の審判手続においては,実用新案登録の無効の審判の被請求人である原告外2名について,改めて答弁書を提出する機会はなく,また,職権による無効理由通知に対する意見を申し立てる機会も与えられた形跡はないから,原告外2名は,本件考案の訂正を請求することはできなかったのであり,したがって,原告に本件考案を訂正する機会が与えられなかったとしても,再度の審判手続に瑕疵があるということにはならない。
(3) 確かに,甲3,4及び弁論の全趣旨によれば,特許庁は,再度の審判手続において,本件出願の出願日が出願の変更の行われた平成元年1月30日であることを前提に,原告外2名を審尋し,その中で,「特許権者が,適法な変更出願であって出願日が遡及するような明細書の訂正をする用意がある場合は,訂正案を提出してください。その訂正案を前提にして無効審判請求人の意見を伺いながら審理を進めていこうと考えています。」などと述べているところ,原告は,これを受けて,原告のみの作成名義で本件考案の訂正案を作成したことが認められる。
しかし,上記(2)に判示したように,再度の審判手続において,原告は本件考案の訂正を請求することができなかったのであるから,特許庁としては,上記のような審尋をしたとしても,これによって,特許庁に原告に本件考案の訂正の機会を与える義務や必要が生じたものということはできない。特許庁としては,職権による無効理由通知をして,原告に本件考案の訂正の機会を与えることもできるが,その機会を与えるか否かは特許庁の裁量的判断にゆだねられているものであり,訂正の機会を与えるべき義務はないものと解すべきである。
なお,甲3ないし5及び弁論の全趣旨によれば,特許庁は,原告が作成した本件考案の訂正案について検討し,その結果,上記訂正案による訂正が実用新案登録請求の範囲減縮を目的とするものではなく,また,誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明を目的とするものでないから,訂正の要件を満たすものではないと判断し,本件無効審判の中で訂正の機会を与える必要はないとして,原告に本件考案の訂正の機会を与えなかったことが認められ,実用新案登録請求の範囲の記載及び上記訂正案の記載に照らすと,上記訂正案による訂正が訂正の要件を満たすものではないと判断し,原告に訂正の機会を与えなかった特許庁の措置が不適切であったとか,裁量の範囲を逸脱した違法なものであったとはいえない。
したがって,特許庁が上記のような審尋をしていながら,原告に本件考案の訂正の機会を与えなかったとしても,その手続に瑕疵があったということはできない。
(4) したがって,原告の主張する審決取消事由1は,理由がない。
2 審決取消事由2(審理不尽)について 確かに,審判甲第5号証は特開昭63-241264号公報であり,また,審判甲第8号証は特開昭62-156471号公報であって,これらには「発明」が記載されているところ,審決は,「甲第8号証記載の考案」,「甲第8号証および甲第5号証記載の考案」との文言を使用している。しかし,これは「甲第8号証記載の発明」,「甲第8号証および甲第5号証記載の発明」の誤記であることが明白であって,このような誤記があったからといって,審決が審理を尽くさず,又は,証拠の解釈を誤り,判断を遺脱した,ということはできない。
したがって,原告の主張する審決取消事由2は,理由がない。
3 結論 以上のとおりであって,原告の主張する審決取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久