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関連審決 無効2000-35666
訂正2002-39095
関連ワード 技術的範囲 /  相当な対価 /  損害額 /  逸失利益 /  実施料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  図面 /  構造 /  物品 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  通常実施権 /  専用実施権 /  独占的通常実施権 /  減縮 /  削除 /  実施例 /  本質的部分 /  公知技術 /  特段の事情 /  設計変更 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 /  利益額 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 3997号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告A
原告 草竹コンクリート工業株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士 阪口徳雄
同 谷口達吉
同 向井理佳
原告ら補佐人弁理士 藤本昇
同 薬丸誠一
被告 植平コンクリート工業株式会社
訴訟代理人弁護士 松岡康毅
補佐人弁理士 小谷悦司
同 小谷昌祟
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/07/29
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙ロ号物件目録及びハ号物件目録各記載の物件を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
2 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載の各物件並びにその半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告Aに対し、金1455万9076円及びこれに対する平成13年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告草竹コンクリート工業株式会社に対し、金1億6134万2851円及び内金5713万6555円に対する平成13年5月3日から、内金1億0420万6296円に対する平成15年12月27日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用はこれを2分し、その1を被告の負担とし、その余を原告らの連帯負担とする。
7 この判決は、第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項及び第2項と同旨 2 被告は、原告Aに対し、金3388万3076円及びこれに対する平成13年5月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告草竹コンクリート工業株式会社に対し、金2億4658万6374円及び内金5713万6555円に対する平成13年5月3日(訴状送達の日の翌日)から、内金1億8944万9819円に対する平成15年12月27日(平成15年12月19日付訴えの拡張申立書送達の日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「地表埋設用蓋付枠」に関する登録実用新案の実用新案権者及びその専用実施権者である原告らが、被告がその考案技術的範囲に属する物件を製造、販売して実用新案権を侵害していると主張して、その差止め等及び損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。) (1) 原告Aは、下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)の権利者である。
考案の名称 地表埋設用蓋付枠 出願日 平成元年11月22日 出願番号 実願平1-135861号 出願公告日 平成7年4月12日 出願公告番号 実公平7-15882号 登録日 平成8年1月26日 登録番号 第2099411号 登録当初の実用新案登録請求の範囲は、別紙実用新案公報の該当欄記載のとおり。
本件実用新案権についての無効審判請求事件(無効2000-35666号)において、実用新案権者である原告Aは、平成13年4月20日、訂正を請求した。上記事件についての平成13年9月26日付の審決は、訂正を認め、本件実用新案の登録を無効とする審決をした(なお、上記審決によって認められた訂正後の実用新案登録請求の範囲は、別紙Aの「全文訂正明細書」〔乙第10号証添付〕の該当欄記載のとおりである。)(甲第20号証、乙第10号証)。
原告Aは、上記審決に対し、審決取消訴訟を提起しつつ(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第497号事件)、平成14年4月17日付で、訂正審判を請求した(訂正2002-39095)。上記事件についての平成14年6月13日付の審決は、訂正を認めた。上記訂正後の本件実用新案権(その考案を以下「本件訂正考案」という。)の実用新案登録請求の範囲は、別紙Bの「訂正明細書」〔甲第41号証添付〕の該当欄記載のとおりである(乙第11号証、甲第41号証)。
上記訂正審判請求事件の審決によって、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲が訂正されたため、東京高等裁判所は、平成14年8月9日、上記審決取消請求事件について、上記無効審判請求事件についての審決を取り消す判決をした(乙第12号証)。
(2) 本件訂正考案の実用新案登録請求の範囲は、以下のとおり分説される。
@ 蓋本体2が蓋受枠6上にその上面が略面一に嵌合され、蓋本体2の下端外周縁に逃げ空所5を形成すべく切り欠き部4が刻設された地表埋設用蓋付枠において、
A 蓋本体2の上方外周側面には蓋受枠6の上方内周縁に形成されたテーパー面8に合致するテーパー面7が形成されてなり、
B 且つ前記切り欠き部4の少なくとも一箇所以上には突起体10が外周方向に突設されてなり、
C 蓋受枠6の少なくとも一箇所以上には、前記突起体10を係入するための凹部11が形成され、
D しかも前記蓋受枠6には蓋本体2の環状脚部3を載置するための受部9が形成され、
E 且つ前記蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられてなることを特徴とする F 地表埋設用蓋付枠。
(3) 原告草竹コンクリート株式会社(以下、「原告会社」という。)は、本件実用新案権につき、平成11年8月31日、原告Aから専用実施権設定登録を受けた(乙第2号証)。
原告Aは、原告会社の代表取締役の1人である。
(4) 被告は、地表埋設用蓋付枠をコンクリートブロックに固着させ、これらに「DV24型」及び「DV32型」と名付けて販売している(これらの構成を備えた被告製品を、それぞれ以下「ロ号物件」及び「ハ号物件」という。ただし、ロ号物件及びハ号物件に「DV24型」及び「DV32型」以外の呼称があるか否かについては後記のとおり争いがある。また、ロ号物件及びハ号物件の構成についても後記のとおり一部争いがある。)。
被告は、ロ号物件及びハ号物件の蓋付枠部分(すなわち、蓋本体及び蓋受枠部分)については、これを製造業者に注文して製造させ、納入された蓋付枠を用いてロ号物件及びハ号物件を製造し、販売している。
ロ号物件及びハ号物件は、本件訂正考案の前記構成要件のうち、少なくともE以外はすべて充足している。
(5) 原告会社は、本件実用新案権(ただし、前記(1)記載の訂正前である。)の専用実施権に基づき、被告に対し、ロ号物件及びハ号物件につき製造販売又は販売のための展示の差止め並びに執行官保管の仮処分命令を申し立て(大阪地方裁判所平成12年(ヨ)第20086号)、大阪地方裁判所は、平成12年12月22日、上記申立てを認め、上記各物件の製造販売又は販売のための展示の差止め並びに執行官保管を命ずる仮処分決定をし、執行官は、同月27日、その執行をした。
2 争点 (1) ロ号物件及びハ号物件の構成 (2) 本件実用新案登録に明細書の記載不備が存在するか(明白な無効理由1) (3) 本件訂正考案進歩性を欠くか(明白な無効理由2) (4) 本件訂正考案技術的範囲は限定して解釈されるべきか (5) 被告の過失推定は覆滅されるか (6) 被告が販売したロ号物件及びハ号物件の個数 (7) 原告Aが被った損害額 (8) 原告会社が被った損害額 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(ロ号物件及びハ号物件の構成)について 〔原告らの主張〕 ロ号物件及びハ号物件の構成は、別紙ロ号物件目録及びハ号物件目録各記載のとおりである。
したがって、ロ号物件及びハ号物件は、いずれも本件訂正考案の構成要件Eを充足する。
なお、被告は、原告らの上記主張について、本件第5回口頭弁論期日において陳述した平成14年10月29日付被告準備書面(4)で認めながら、本件第12回口頭弁論期日において陳述した平成15年9月10日付被告準備書面で自白を撤回しようとするものであるが、原告らは被告の自白の撤回には異議がある。また、
被告の後記主張は事実に反するものであり、被告が自白していた原告らの主張は事実に反しない。
〔被告の主張〕 ロ号物件及びハ号物件は、いずれも、蓋の脚部底面と、蓋受枠の受部との間に隙間が存在する。したがって、ロ号物件及びハ号物件は、いずれも、本件訂正考案の構成要件Eである「前記蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられてなる」を充足しない。
また、被告は、ロ号物件及びハ号物件について、当初は、蓋本体の高さを蓋受枠の高さと一致させる設計にしていたが、平成12年ころ、蓋の環状脚部の高さを1mm程度切削して蓋の高さを低くするように設計変更した。この設計変更後のロ号物件及びハ号物件は、蓋本体に荷重が作用していない状態では、蓋本体の環状脚部の底面と受部の上面との間に、全周にわたって隙間が形成される構造となった。したがって、少なくともこれら設計変更後のロ号物件及びハ号物件は、いずれも、本件訂正考案の構成要件Eを充足しない。
(2) 争点(2)(本件実用新案登録に明細書の記載不備が存在するか〔明白な無効理由1〕)について 〔被告の主張〕 ア 本件実用新案登録には、次のとおりの明細書の記載不備があり、これが無効理由となることが明白であるから、このような本件実用新案権に基づく本件請求は権利の濫用として許されない。
イ 本件実用新案登録は、平成13年9月26日に訂正を認めた上で無効審決がされ、この無効審決の取消訴訟係属中である平成14年6月13日に訂正審判請求事件において訂正を認める審決がされたため、平成14年8月9日、東京高等裁判所の判決によって前記無効審決が取り消されたものである。
本件訂正考案のうち、平成14年6月13日の審決によって認められた訂正によって付加された構成要件である、構成要件D及びEによってもたらされる作用効果は、本件実用新案登録出願の願書に添付した当初明細書考案の効果の項(なお、これは実施例の項ではない。)に記載されているとおり、「蓋受枠の受部9に溝12が周設され、且つ凹部の底部11aには蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝12から凹部の底部11aを経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する。」なるものである。
この作用効果を達成する上で、「蓋受枠6の受部に周設した溝12」なる構成要件と、「凹部の底部11aに蓋受枠の内周方向へ下る傾斜を付すことによって、蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられる」なる構成要件とが必須である。
ウ 平成14年6月13日付審決によって認められた訂正後の本件実用新案権の明細書の「考案が解決しようとする課題」及び「課題を解決するための手段」の項の記載によれば、本件訂正考案の最大の課題は蓋本体の浮き上がりを防止することであると解される。
この種の蓋の浮き上がりが生じる要因として、蓋受枠の受部外周部に周回溝がなければ、蓋と蓋受枠との隙間から地表水と共に徐々に侵入してくる砂塵等が直接逃げ空所へ流入し、逃げ空所内に収納されている大きめの土砂がこの地表水によって細かく溶解され砂塵と共に蓋の底面と蓋受枠の受面との隙間に滞留して徐々に堆積することからも生じる事実は古くから指摘されているところである。
本件訂正考案においても、明細書考案の効果の項において、「蓋受枠の受部に溝が周設され、且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する。」と記載し、これとは別個に、「更に、蓋本体の下端外周縁に逃げ空所を形成することにより、蓋本体と蓋受枠間に土砂等の侵入が生じた際にも、該土砂を逃げ空所に収納して、蓋本体の浮き上がりを生じさせないという有益な効果もある。」と記載しており、蓋受枠の受部外周端に設けた溝の機能と、逃げ空所の機能とが各々異なる構成と効果である旨明示している。
エ 原告らが主張するように、蓋受枠6の受部に周設した溝12をなくし、
逃げ空所5を周回溝として機能させるとすれば、蓋と蓋受枠から徐々に侵入してくる地表水は直接逃げ空所内に砂塵と共に流入し、この地表水によって掃除不足等の要因により逃げ空所内に収納されている比較的大きな土砂を徐々に溶解することとなり、この溶解された細かな土砂が砂塵と共に蓋の環状脚部3の底面と蓋受枠の受面間の隙間に侵入して受部の粗面に引っ掛かり堆積し、蓋を徐々に持ち上げ、蓋の浮き上がり現象が生じるおそれがある。
したがって、「蓋受枠6の受部に周設した溝12」なる構成要件は本件訂正考案において必須のものである。
なお、溝12がなくても本件訂正考案の効果が達成されるとの主張は、
明細書にも図面にも全く記載されていなかったものである。周回溝としての溝12がもたらす効果を本件訂正考案の効果として明確にうたっており、これがなくても本件訂正考案の所期の課題効果が達成されることをうかがわせる記載がないのにもかかわらず、これがなくてもよいとすることは、一種の新規事項を構成要件に取り込んで解釈するに等しく、許されない。
オ ところが、本件訂正考案の実用新案登録請求の範囲には、上記「蓋受枠6の受部に周設した溝12」及び「凹部の底部11aに蓋受枠の内周方向へ下る傾斜を付すことによって、蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられる」の2つの構成要件は記載されていない。
したがって、本件訂正考案の実用新案登録請求の範囲は、平成5年法律第26号付則4条2項によって読み替えられた同法による改正前の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)39条3項に基づく同法5条4項2号の「実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してあること」の規定に反して訂正許可されたものである。
よって、本件実用新案登録には、旧実用新案法37条1項2号の2の規定に基づく無効理由がある。
〔原告らの主張〕 ア 以下のとおり、本件実用新案登録には被告が主張するような無効理由はない。
イ 本件訂正考案の作用効果は、「蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられることによって、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止すること」にある。
この、侵入した砂塵等を地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止するとの作用効果を奏するには、前記環状脚部の底面と凹部の底部との間にのみ隙間が存在すれば足りる。なぜならば、蓋本体の環状脚部の底面と蓋受枠の受部との間には前記隙間しか存在しないから、侵入した砂塵等は必然的に地表水と共に前記隙間を介して排出されるからである。
したがって、前記の効果を奏するには、「蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられる」との構成要件が必要不可欠であり、これで十分である。
被告は、「蓋受枠6の受部に周設した溝12」との構成要件が必要不可欠であると主張するが、このような溝は、本件実用新案の当初の出願前から公知である。
しかも、該溝12は本件訂正考案実施例として記載されたものであって、これが存在しなくても、環状脚部3の底面と凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられていれば、他の環状脚部3の底面と蓋受枠の受部9との間は当接状態にあって隙間が存在しないため、しかも蓋本体2の下端外周縁に刻設された切り欠き部分4により、蓋受枠6の蓋受部外周縁との間に逃げ空所5が形成されているため、該逃げ空所5が周回溝として機能し、その結果、侵入した砂塵等は地表水と共に前記蓋受枠に設けた凹部内に侵入し、該凹部の底部を経て前記隙間から蓋受枠内へ排除されるとともに滞留を防止することになる。
確かに、明細書中には、考案の効果の項に、「蓋受枠の受部に溝が周設され」との記載があるが、これは実施例としての構成を記載したものにすぎない。
したがって、「蓋受枠6の受部に周設した溝12」は、本件訂正考案の本質的で不可欠な要件ではない。
ウ なお、本件訂正考案において、蓋本体の浮き上がりを防止するのは溝ではなく、逃げ空所を形成したことによる。
これに対し、被告主張の「溝」は、侵入してきた地表水や砂塵等を排出するための案内路であって、本件訂正考案の課題とは直接関係しない。
被告は、明細書において、溝の機能と逃げ空所の機能とがそれぞれ異なる効果である旨記載されていると主張するが、これは構成が異なる以上当然のことであり、この記載をもって、溝の効果が蓋の浮き上がり防止の課題と直接関係するとはいえず、また、明細書には、被告が主張するような本件訂正考案の目的や溝と傾斜による逃げ空所への直接流入防止効果は記載されていないのであるから、
「溝」が本件訂正考案において不可欠の構成要件であるとはいえない。
エ また、被告は、「凹部の底部11aに蓋受枠の内周方向へ下る傾斜を付すこと」との構成要件も必要不可欠であると主張するが、このような傾斜を付すことによって地表水の流出が良くなることはあったとしても、一般的に排出路を傾斜させて流出を良くすることは周知自明の事項である。
しかも、地表水等の排除にはこのような傾斜を付すことは条件ではなく、傾斜を付さなくても地表水等は凹部11の底部11aを経て隙間から蓋受枠内へ排除される。
確かに、明細書中には、考案の効果の項に、「且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるため」との記載があるが、これは実施例としての構成を記載したものにすぎない。
したがって、被告主張のような傾斜を付すことは、本件訂正考案の本質的で不可欠な要件ではない。
オ 以上のとおり、被告主張の「溝」及び「傾斜」は、いずれも公知技術であり、かつこれらの要件が存在しなくても、「しかも前記蓋受枠6には蓋本体2の環状脚部3を載置するための受部9が形成され、且つ前記蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられてなる」との構成によって、前記の本件訂正考案の効果は十分に奏するのであるから、被告主張の構成が本件訂正考案に必要不可欠なものではない。
(3) 争点(3)(本件訂正考案進歩性を欠くか〔明白な無効理由2〕)について 〔被告の主張〕 ア 本件訂正考案は、次のとおり進歩性を欠き、これが無効理由となることが明白であるから、このような本件実用新案権に基づく本件請求は権利の濫用として許されない。
イ 本件実用新案権は、平成13年9月26日に訂正を認めた上で無効審決がされ、この無効審決の取消訴訟係属中である平成14年6月13日に訂正審判請求事件において、実用新案登録請求の範囲に構成要件D及びEを付加する訂正を認める審決がされたため、平成14年8月9日、東京高等裁判所の判決によって前記無効審決が取り消されたものである。したがって、本件実用新案の進歩性は、構成要件D及びEに存する。
そして、構成要件D及びEによってもたらされる作用効果は、前記(2)の被告の主張のとおり、「蓋受枠の受部9に溝12が周設され、且つ凹部の底部11aには蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝12から凹部の底部11aを経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する。」なるものである。
ウ 実開昭60-66748号マイクロフィルムのコピー(甲第21号証)の第2図及び第5図並びに明細書第3頁第13行ないし第4頁第2行までの「5はマンホール本体1のフタ2を載置する受面であるが、受面5の隅部には環状溝6が設けられている。又受面5上には複数の案内溝7が放射状に設けられており、各案内溝7は環状溝6と接続されている。なお本実施例においてはマンホールの本体1の内壁面8に案内溝7に接続する縦溝9を設けて案内溝7から砂やゴミ等がマンホール内に流れ落ちやすくしているが、案内溝7を中心に向かうほど下向に傾斜するようにテーパをつけて、縦溝9を省略しても良い。」との記載から、蓋と蓋受枠の隙間から地表水と共に侵入した砂やゴミを受部の環状溝6(本件訂正考案の溝12に相当する。)を介して放射状に複数設けられた中心に向かう下向きの傾斜面とした案内溝7によってマンホール内に排出する構成が示されている。
この案内溝7を傾斜面とすればフタ2の裏面との間に隙間が形成されることを意味しており、本件訂正考案における地表水と共に侵入した砂塵の排出構造と同様の構成が示されている。
唯一異なるのは、本件訂正考案では砂塵排出用の傾斜面からなる隙間は凹部11が形成された1か所のみであるのに対し、甲第21号証に記載された考案では複数箇所存在する点のみであるが、隙間を複数形成するか、1か所形成するかは、単なる設計事項にすぎず、むしろ甲第21号証に記載された考案の方が砂塵等の排出効率の上で優れているともいえる。
エ このように、構成要件D及びEと、これらからもたらされる作用効果が、本件実用新案登録出願前に発行されていた甲第21号証に記載されているのであるから、本件訂正考案進歩性を有するものではない。
オ なお、原告らは、「蓋本体の環状脚部の底面と凹部の底部との間にのみ隙間を設ける」構成により、後記原告らの主張イ記載の作用効果が得られ、進歩性がある旨主張するが、これは明細書に全く記載がない上に、いずれも当業者に容易に予測できる程度のものである。
カ したがって、本件訂正考案の実用新案登録請求の範囲は、旧実用新案法39条3項に基づく同法3条2項に違反して訂正許可されたものである。
よって、本件実用新案登録には、旧実用新案法37条1項2号の2の規定に基づく無効理由がある。
〔原告らの主張〕 ア 以下のとおり、本件実用新案登録には被告が主張するような無効理由はない。
イ 本件訂正考案は、構成要件Eを追加することによって、次のような格別の作用効果が得られたものである。
(ア) 環状脚部3の底面と蓋受枠の受部9との間は、凹部11を形成したその底部と脚部の底面との間にのみ隙間を形成し、それ以外の部分は隙間なく当接平受け構造としたため、蓋本体上に負載する耐荷重に対する安定した支持構造が得られる。
(イ) 蓋受枠に突起体を係入するための凹部を設け、該凹部の底部と環状脚部の底面との間にのみ隙間が設けられているため、逃げ空所5内に侵入した砂塵等は、地表水と共に逃げ空所5から凹部11内に侵入し、該凹部11内から前記隙間を介して排出されると同時に、滞留しやすい凹部内の砂塵等も地表水と共に隙間を介して同時に排出できる。
(ウ) さらに、凹部11内に集積した砂塵等は、経時により固体化しようとするが、凹部11内に係入される突起体10は、その係脱作業が容易となるべく凹部11よりもやや小さく形成されるため、蓋本体2上を通行する車両等の荷重により、凹部11内で円周方向に少許回動する往復運動を起こして前記集積した砂塵等をほぐし、その固体化を防止するとともに、蓋受枠6内へ隙間を介して排出できる排除作用をさらに助長する。
ウ これに対し、甲第21号証に記載された考案においては、案内溝7は複数放射状に設けられているため、本件訂正考案よりは侵入した砂塵等を地表水と共に排出容易とはなるが、フタ2を載置する受面5とフタ2との接触面積が少なくなり、耐荷重に対する不安定度が増した劣弱な構造となるのであって、本件訂正考案の、蓋本体への耐荷重に対する安定支持効果を得ながら、侵入した砂塵等を地表水と共に排出させ滞留を防止する効果を併備するという、上記イ(ア)の特徴は開示されても示唆されてもいない。
また、甲第21号証に記載された考案においては、本件訂正考案のような凹部や突起体を有しないから、上記イ(ウ)のような効果を奏しない。
したがって、本件訂正考案進歩性は否定されない。
(4) 争点(4)(本件訂正考案技術的範囲は限定して解釈されるべきか)について 〔被告の主張〕 登録実用新案の技術的範囲は、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないが、この範囲の記載の意味内容をより具体的に正確に判断する資料としてその明細書の他の部分に記載されている考案構造及び作用効果を考慮することは、差し支えないものである。
被告が前記(2)において主張したとおり、溝12によりもたらされる本件訂正考案に係る訂正明細書考案の効果の項に記載された作用効果は、本件訂正考案の課題である蓋の浮き上がり防止に直接関係するものであり、かつ、溝12による効果が本件訂正考案の効果として明細書に記載されている以上、本件実用新案登録が仮に有効なものとしても、その実用新案登録請求の範囲に記載されている「受部9」は、「テーパー面8との連接部に溝12が周設された受部9」として解釈されなければならない。
このように解釈するとき、ロ号物件及びハ号物件は、いずれもこの構成要件を満たさず、したがって本件訂正考案技術的範囲に属しない。
〔原告らの主張〕 明細書の実用新案登録請求の範囲の記載を限定解釈するのは、記載が抽象的な場合や、公知技術が存在して記載そのものでは公知技術と同視し得るような場合であって、被告が主張するような理由で限定解釈をすべきではない。
また、原告らが前記(2)において主張したとおり、本件訂正考案の課題を達成し、その効果を奏するには、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載で十分であって、これに被告主張のような新たな要件を付加する理由はない。
しかも、テーパー面との連接部に溝が周設された受部は、本件実用新案の当初の出願前から公知の技術であって、本件訂正考案本質的部分でも不可欠な構成要件でもない。
したがって、本件訂正考案の解釈として、被告が主張するように、「受部9」を「テーパー面8との連接部に溝12が周設された受部9」と限定的に解釈する理由はない。
(5) 争点(5)(被告の過失推定は覆滅されるか)について 〔被告の主張〕 ア 本件実用新案権は、平成12年12月27日に、ロ号物件及びハ号物件の製造販売又は販売のための展示の差止め並びに執行官保管を命ずる仮処分決定が執行され、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売が終了した後に、平成13年9月26日に訂正を認めた上で無効審決がされ、この無効審決の取消訴訟係属中である平成14年6月13日に訂正審判請求事件において訂正を認める審決がされたものである。すなわち、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売行為の終了後に、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲が訂正されたものである。
このような場合には、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売行為時において、ロ号物件及びハ号物件が、上記訂正後の本件訂正考案技術的範囲に属することが予見不可能であれば、旧実用新案法30条により準用される特許法103条による過失の推定は覆滅されるというべきである。
イ 本件実用新案について適用される旧実用新案法5条3項によれば、明細書考案の詳細な説明には、「その考案の目的、構成及び効果」を記載することが義務付けられ、また、同法同条4項によれば、実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載された考案の目的、構成及び効果に照らし、考案の構成に欠くことができない事項のみが記載されるべきことが法定されていた。
ウ ところで、平成14年6月13日の審決によって認められた訂正において実質的に追加減縮した構成要件は、構成要件D及びEであるが、この要件からもたらされる作用効果の一つとして挙げられているのは、訂正後の明細書に記載されているとおり、「蓋受枠6の受部9に溝12が周設され、且つ凹部11の底部11aには蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠6と蓋本体2との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝12から凹部11の底部11aを経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する。」なるものである。
このように、考案の効果の項には、上記効果が「受部9に周設された溝12」と、「凹部11の底部11aの傾斜」と、構成要件Eの「環状脚部3の底面と凹部11の底部11aとの間にのみ設けられた隙間」の3つの構成要件の協働によって達成される旨記述されている。
これに対し、本件実用新案の登録時の明細書には、実施例の項に、上記審決によって認められた訂正で追加限定された「環状脚部3の底面と凹部11の底部11aとの間にのみ設けられた隙間」という構成要件に相当する記載があっただけで、訂正後の明細書における考案の効果の項に記載されている「蓋受枠6と蓋本体2との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を蓋受枠内へ排除することができる」との効果が達成されるための、具体的積極的な記載が何ら存在しない。
なお、原告らは、上記(2)の原告らの主張イのとおり、溝12は本件訂正考案実施例として記載されたものであって、これが存在しなくても、逃げ空所5が周回溝として溝12と同じ機能を果たし、環状脚部3の底面と凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられていれば、侵入した砂塵等は地表水と共に前記蓋受枠に設けた凹部内に侵入し、該凹部の底部を経て前記隙間から蓋受枠内へ排除されるとともに滞留を防止することになると主張するが、この主張は本件実用新案の登録時の明細書及び図面に基礎付けられたものではない。むしろ、本件実用新案の登録時の明細書には、これに関すると思われる実施例中の記載の中で、考案の構成に欠くことができない事項として「溝12」と「凹部11の底部11aの傾斜」が明確に記載されている。
エ 以上の事情に照らせば、被告がロ号物件及びハ号物件を販売した時点において、「凹部11の底部11aとの間にのみ設けられた隙間」なる構成要件を付加限定するだけで、上記イの明細書記載要件を充足するものとして訂正が認められることを予見することは、到底不可能であった。
そして、ロ号物件及びハ号物件が本件訂正考案技術的範囲に属することを予見することもまた、当然不可能であった。
したがって、旧実用新案法30条により準用される特許法103条による過失の推定は、覆滅されるべきである。
〔原告らの主張〕 実用新案につき、訂正審判請求によって訂正が認められる要件は厳格に制約されており、かつ、訂正が認められると、当該考案は、訂正後における明細書
実用新案登録請求の範囲又は図面によって、当初から出願又は登録されたものとみなされる。本件実用新案権についても、このようにして訂正が認められた以上、過失の推定が通常の場合と同様に認められるべきことは当然である。
被告が予見可能であったか否かは、被告の主観的な事情や能力の問題にすぎない。
(6) 争点(6)(被告が販売したロ号物件及びハ号物件の個数)について 〔原告らの主張〕 ア 被告は、平成8年6月28日以降、蓋付枠部分の製造業者から、ロ号物件につき3万5558個、ハ号物件につき7856個の蓋付枠部分の納入を受けた。
なお、上記のうち、被告の帳簿類に「DV24型」として記載されていたロ号物件の蓋付枠部分の個数は2万8751個であり、「DV32型」として記載されていたハ号物件の蓋付枠部分の個数は6900個であるが、これ以外に、被告の帳簿類に「FCD24型」として記載されていた6807個もロ号物件の蓋付枠部分であり、「FCD32型」として記載されていた956個もハ号物件の蓋付枠部分である。
すなわち、上記「FCD」とは、ダクタイル鋳鉄を意味するところ、
「DV24型」や「DV32型」について、その販売先である地方公共団体の仕様承認書に鉄蓋や受枠の材質として「FCD500」と表記されたり、ロ号物件の鉄蓋の裏に「FCD500」と表記されており、また、被告自身、そのカタログで、
ロ号物件やハ号物件にダクタイル鋳鉄を採用している旨を記載していることに照らせば、被告において、ロ号物件やハ号物件を「FCD」として表示していても不思議はない。また、被告が「DV」型を販売する以前に販売していた旧製品である「ST」型には、ダクタイル鋳鉄は使用されていなかったのであるから、「ST」型が「FCD」で表示されることはない。そして、被告の帳簿類に「FCD」という表記があるのが平成8年3月から平成11年2月までであることからすれば、
「FCD24型」ないし「FCD32型」として記載されている物件も、ロ号物件ないしハ号物件の蓋付枠部分であると認めることができる。
なお、被告は、上記「DV」型のうち、「DV24型」についての平成9年7月2日から同年10月22日までの間に平野鋳工株式会社から仕入れた125個及び「DV32型」についての同年8月7日及び同年10月27日に同社から仕入れた31個は、「DV」型ではなく、ロ号物件ないしハ号物件の蓋付枠部分ではないと主張するが、これらは、いずれも帳簿等に「新型」ないし「新」の表示があるものであり、しかも帳簿中のこれらの物件について記載されている頁の次頁には、「DV」型が記載され、かつ、頁の欄外上に「新型」との記載があることに照らせば、「新型」ないし「新」は、上記「FCD」と同様、「DV」の名称が確定するまでに使用されたロ号物件ないしハ号物件の仮称である。
イ 前記「前提となる事実」(5)記載の仮処分決定の執行により、被告が販売せずに保管されているロ号物件及びハ号物件の個数は、それぞれ7712個及び3374個である。
被告が販売したロ号物件及びハ号物件の個数は、上記アの蓋付枠部分の仕入数から上記の保管数を控除して得ることができる。したがって、被告が販売したロ号物件の個数は、2万7846個、ハ号物件の個数は、4482個である。
〔被告の主張〕 ア 被告が蓋付枠部分の製造業者から納入を受けたロ号物件の蓋付枠部分の個数は2万8626個、ハ号物件の蓋付枠部分の個数は6869個である。
なお、原告らは、被告の帳簿類に「FCD24型」ないし「FCD32型」として記載されている物件もロ号物件ないしハ号物件の蓋付枠部分であると主張するが、「FCD」型として記載されている物件は、被告が「DV」型を販売する以前から販売していた従来型製品である「ST」型について、当初はねずみ鋳鉄品として成型されていた物のみを仕入れていたのを、後にこれとともに球状黒鉛鋳鉄品として成型された物も仕入れるようになったのに伴い、区別のためにその材質を表わす記号である「FCD」と併記したものにすぎない。これら「FCD」型として記載されている物件の構造は、そのように記載されていない「ST」型と変わらないのであるから、これらはロ号物件ないしハ号物件の蓋付枠部分ではない。
また、原告らは、被告の帳簿類に「DV24型」として記載されていたロ号物件の蓋付枠部分の個数は2万8751個であり、「DV32型」として記載されていたハ号物件の蓋付枠部分の個数は6900個であると主張するが、このうちロ号物件の蓋付枠部分についての平成9年7月2日から同年10月22日までの間に平野鋳工株式会社から仕入れた125個及びハ号物件の蓋付枠部分についての同年8月7日及び同年10月27日に同社から仕入れた31個は、上記と同様に「ST」型製品を「FCD」により製造したものであるから、「DV」型ではなく、ロ号物件ないしハ号物件の蓋付枠部分ではない。
イ 前記「前提となる事実」(5)記載の仮処分決定の執行により、被告が販売せずに保管されているロ号物件及びハ号物件の個数は、それぞれ7712個及び3374個である。
被告が販売したロ号物件及びハ号物件の個数は、上記アの蓋付枠部分の仕入数から上記の保管数を控除して得ることができる。したがって、被告が販売したロ号物件の個数は、2万0914個、ハ号物件の個数は、3495個である。
(7) 争点(7)(原告Aが被った損害額)について 〔原告Aの主張〕 ア 主位的主張 (ア) 逸失利益 原告Aは、本件実用新案権について、原告会社に対し、実施料を売上高の8パーセントとして、平成8年2月1日、独占的通常実施権を許諾し、平成11年8月9日、専用実施権を設定し、同月31日、その設定登録を経た。そして、
原告Aは、原告会社から、上記条件に従った実施料の支払を受けている。
原告会社と被告以外に本件実用新案権の実施品を製造販売している者はいないから、被告がロ号物件及びハ号物件を販売しなければ、その販売個数と同数の相当品を原告会社において製造販売することができ、これによって原告Aは実施料を得ることができたのであるから、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売により、原告Aは上記得ることができたはずの実施料相当額の損害を被った。
原告会社におけるロ号物件相当品の平均販売価格は1個当たり1万2101円、ハ号物件相当品の平均販売価格は1個当たり1万6527円である。
そして、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売個数は、上記(6)の原告らの主張のとおりであるから、原告Aが被った実施料相当額損害額は、以下のとおり計算される。
ロ号物件について 12,101円×27,846個×0.08=26,957,155円 ハ号物件について 16,527円× 4,482個×0.08= 5,925,921円 小計 32,883,076円 (イ) 弁護士及び弁理士費用 原告Aは本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人弁護士及び補佐人弁理士に委任しているところ、その費用のうち100万円は、被告の不法行為による損害というべきである。
(ウ) 合計 3388万3076円 イ 予備的主張 (ア) 実用新案法29条3項による損害算定 被告によるロ号物件の販売価格は1個当たり1万1700円、ハ号物件の販売価格は1個当たり1万6200円である。
その余は上記アと同じであるから、実用新案法29条3項に基づき、
原告Aが被った損害額は、以下のとおり計算される。
ロ号物件について 11,700円×27,846個×0.08=26,063,856円 ハ号物件について 16,200円× 4,482個×0.08= 5,808,672円 小計 31,872,528円 (イ) 弁護士及び弁理士費用 上記ア(イ)のとおり、100万円。
(ウ) 合計 3287万2528円 〔被告の主張〕 ア 原告Aの主張は否認ないし争う。
イ 原告Aは、平成11年8月9日、本件実用新案権の全範囲について、原告会社に対して専用実施権を設定したのであるから、その後は、自ら実施することも、他人に実施を許諾することも許されなくなったものである。したがって、このような原告Aが、損害を被ることはあり得ず、実用新案法29条3項も適用されない。仮に、原告Aが実施料相当額の損害を被ることがあり得るとしても、その実施料率が専用実施権と同等であるとするのは衡平の理念に反し認められるべきものではない。
ウ 原告Aは、本件実用新案権についての実施料率を8パーセントと主張するが、業界において、このような高率の実施料率を定めた事例は極めてまれであり、さらに、本件実用新案権はいったん無効審決がされ、訂正の結果かろうじてその効力を維持しているものである上、後記(8)の被告の主張エのとおり、本件訂正考案の価値が極めて低いことを考慮すれば、相当な実施料率はせいぜい1パーセント程度である。
エ 本件訂正考案は、原告Aが代表取締役を務める原告会社の業務範囲に属するものであり、原告会社における原告Aの職務に属する行為に基づき考案として、実用新案法11条3項によって準用される特許法35条1項により、原告会社は無償の通常実施権を有するものである。
したがって、原告Aが、原告会社の代表取締役という自らの地位を悪用し、自らの職務発明に関して会社から不相当な対価を受けることは、原告会社に対する背任行為である。
裁判所が、原告Aと、本来無償の通常実施権を有する原告会社との不当な実施権設定契約に定めた実施料率に基づいて損害額を認定することは、原告Aの背任行為を容認し、加担することとなり、許されない。
(8) 争点(8)(原告会社が被った損害額)について 〔原告会社の主張〕 ア 主位的主張 (ア) 実用新案法29条1項による損害推定 原告会社は、本件実用新案権について、原告Aから、実施料を売上高の8パーセントとして、平成8年2月1日、独占的通常実施権の許諾を受け、平成11年8月9日、専用実施権の設定を受け、同月31日、その設定登録を経た。そして、原告会社は、原告Aに対し、上記条件に従った実施料を支払っている。
原告会社におけるロ号物件相当品の平均販売価格は1個当たり1万2101円、ハ号物件相当品の平均販売価格は1個当たり1万6527円である。
原告会社におけるロ号物件相当品の製造販売に要する経費は、1個当たり、原材料費が3151円、運送費が916円、原告Aに対する実施料が968円の合計5035円である。
原告会社におけるハ号物件相当品の製造販売に要する経費は、1個当たり、原材料費が4845円、運送費が1251円、原告Aに対する実施料が1322円の合計7418円である。
したがって、原告会社によるロ号物件相当品及びハ号物件相当品の製造販売により原告会社が得ることができる利益は、ロ号物件相当品及びハ号物件相当品の1個当たりそれぞれ7066円及び9109円である。
そして、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売個数は、前記(6)の原告らの主張のとおりであり、原告会社は、この個数を加えても自らロ号物件相当品及びハ号物件相当品の製造販売をする能力を十分に有していた。
したがって、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売により、原告会社が被った損害額は、実用新案法29条1項の類推適用に基づき(あるいは、原告会社と被告以外に本件実用新案権の実施品を製造販売している者はおらず、被告がロ号物件及びハ号物件を販売しなければ、その販売個数と同数の相当品を原告会社において製造販売することができ、利益を挙げることができたのであるから、その相当額の逸失利益として)、以下のとおり計算される。
ロ号物件について 7,066円×27,846個=196,759,836円 ハ号物件について 9,109円× 4,482個= 40,826,538円 小計 237,586,374円 (イ) 弁護士及び弁理士費用 原告会社は本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人弁護士及び補佐人弁理士に委任しているところ、その費用のうち900万円は、被告の不法行為による損害というべきである。
(ウ) 合計 2億4658万6374円 イ 予備的主張 (ア) 実用新案法29条2項による平成11年8月8日までの損害推定 原告会社におけるロ号物件相当品の平均販売価格は1個当たり1万2101円、ハ号物件相当品の平均販売価格は1個当たり1万6527円であり、原告会社によるロ号物件相当品及びハ号物件相当品の製造販売により原告会社が得ることができる利益は、ロ号物件相当品及びハ号物件相当品の1個当たりそれぞれ7066円及び9109円である。
したがって、原告会社におけるロ号物件相当品及びハ号物件相当品の利益率は、ロ号物件相当品について58.4パーセント、ハ号物件相当品について55.1パーセントである。被告におけるロ号物件及びハ号物件の利益率は、低くとも、原告会社におけるそれぞれ相当品の利益率を下回ることはない。
被告によるロ号物件の販売価格は1個当たり1万1700円、ハ号物件の販売価格は1個当たり1万6200円である。
したがって、被告は、ロ号物件の販売により、1個当たり6832円の、ハ号物件の販売により、1個当たり8926円の利益を得ていた。
そして、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売個数は、前記(6)の原告らの主張のとおりであるが、このうち、原告会社が専用実施権の設定を受けた前日である平成11年8月8日までの販売個数は、ロ号物件が1万3611個、ハ号物件は2339個である。
したがって、被告による平成11年8月8日までのロ号物件及びハ号物件の販売により、原告会社が被った損害額は、実用新案法29条2項に基づき、
以下のとおり計算される。
ロ号物件について 6,832円×13,611個= 92,990,352円 ハ号物件について 8,926円× 2,339個= 20,877,914円 小計 113,868,266円 (イ) 実用新案法29条1項による平成11年8月9日以降の損害推定 被告によるロ号物件及びハ号物件の販売個数は、前記(6)の原告らの主張のとおりであるが、このうち、原告会社が専用実施権の設定を受けた平成11年8月9日以降の販売個数は、ロ号物件が1万4235個、ハ号物件は2143個であり、原告会社は、この個数を加えても自らロ号物件相当品及びハ号物件相当品の製造販売をする能力を十分に有していた。
したがって、被告による平成11年8月9日以降のロ号物件及びハ号物件の販売により、原告会社が被った損害額は、実用新案法29条1項に基づき、
以下のとおり計算される。
ロ号物件について 7,066円×14,235個=100,584,510円 ハ号物件について 9,109円× 2,143個= 19,520,587円 小計 120,105,097円 (ウ) 弁護士及び弁理士費用 上記ア(イ)のとおり、900万円。
(エ) 合計 2億4297万3363円 ウ 被告の主張に対する反論 被告は、原告会社におけるロ号物件相当品及びハ号物件相当品の製造販売により得られる利益を算定するために控除する経費として、事務費、営業経費、
水道、電気、光熱費等の間接経費も当然必要なはずであるから、これらも経費として控除すべきと主張する。
このうち、事務費と営業経費については、特別にロ号物件相当品及びハ号物件相当品の販売のために追加せざるを得なかったというものはないから、控除するものは存在しない。
水道、電気等の光熱費は、確かに控除すべきものではあるが、原告会社において、水道光熱費は総製造原価額の約0.1パーセントにすぎず、ロ号物件相当品及びハ号物件相当品の製造に要した光熱費はさらに小さな割合になるから、ほとんど計算するに値しないごく僅かな金額にしかならない。
〔被告の主張〕 ア 原告会社の主張は否認ないし争う。
イ 原告会社は、平成8年2月1日以降、本件実用新案権について原告Aから独占的通常実施権の許諾を受けたと主張するが、この主張は、本件訴訟の提起後約3年を経過した時点で唐突にされたものであり、その証拠として提出された許諾書なる書面(乙第35号証)についても、その記載日に作成された証拠はない。原告会社は、損害額を水増しするために、独占的通常実施権の許諾を受けたと主張するに至ったものである。
ウ 原告会社は、原告会社におけるロ号物件相当品及びハ号物件相当品の製造販売により得られる利益を算定するために控除する費用として、原材料費、運送費及び本件実用新案権の実施料のみを挙げるが、事務費、営業経費、水道、電気、
光熱費等の間接経費も当然必要なはずであるから、これらも経費として控除すべきである。
エ 本件訂正考案の価値は、「突起体10」の構成要件からもたらされる、
「蓋本体を開放する際には、突起体の先端をもって凹部の底部に溜まった土砂等が蓋受枠内に掻き落とされるため凹部内に堆積物を生じることがなく蓋本体の開閉がスムースに行える」という作用効果にのみ存在するところ、これによって蓋の開閉作業が容易になるとは考え難く、この作用効果自体疑問がある。このような点からみて、本件訂正考案の製品販売における利益形成への寄与率は極めて低く、販売利益の5パーセントを超えるものとは考えられない。
当裁判所の判断
1 争点(1)(ロ号物件及びハ号物件の構成)について ア 原告らは、ロ号物件及びハ号物件の構成につき、別紙ロ号物件目録及びハ号物件目録各記載のとおりであると主張し、被告は、平成14年11月5日の本件第5回口頭弁論期日において陳述した平成14年10月29日付被告準備書面(4)でこの主張を認め、自白が成立している。
被告は、平成16年2月9日の本件第12回口頭弁論期日において陳述した平成15年9月10日付及び同年11月4日付各被告準備書面で、前記「争点に関する当事者の主張」(1)被告の主張のとおり、成立した自白の内容と異なる主張をするところ、原告らは自白の撤回に異議を述べているから、以下、自白の撤回が認められるべきか否かについて検討する。
イ 被告は、ロ号物件及びハ号物件は、いずれも、蓋の脚部底面と、蓋受枠の受部との間に隙間が存在し、前記成立した自白の内容は事実に反すると主張し、その根拠として、下水道マンホール蓋についての日本工業規格(甲第13号証)及びロ号物件の蓋及び蓋受枠を切断した面を撮影したとする写真(甲第38号証)を挙げる。
しかしながら、被告におけるロ号物件及びハ号物件のパンフレットである乙第5号証によれば、ロ号物件及びハ号物件は上水道仕切弁に用いられるものであると認められるから、下水道マンホール蓋についての日本工業規格は被告の上記主張を認める根拠とはならない。
また、甲第38号証の写真は、これに写されている物件がロ号物件であることを認めるに足りる証拠はなく、これも被告の上記主張を認める根拠とはならない。
他に、被告の上記主張を認めるに足りる証拠はなく、かえって、上記乙第5号証には、ロ号物件及びハ号物件の特徴として、「蓋受構造を従来の平受構造にV型勾配構造を併用」と記載され、断面写真及び図面においても、蓋の脚部底面と蓋受枠の受部が接しているものが掲載されていることが認められること、さらに、
乙第24号証の1ないし4によれば、ロ号物件の1つにおいて、蓋の脚部底面と蓋受枠の受部が接していることが認められることに照らせば、被告の上記主張は認めることができない。
ウ 被告は、ロ号物件及びハ号物件について、平成12年ころ、蓋の環状脚部の高さを1mm程度切削して蓋受枠に対する蓋の高さを低くするように設計変更し、蓋本体に荷重が作用していない状態では、蓋本体の環状脚部の底面と受部の上面との間に、全周にわたって隙間が形成される構造となったから、これら設計変更後のロ号物件及びハ号物件については、前記成立した自白の内容は事実に反すると主張し、その根拠として、前記甲第38号証並びにロ号物件及びハ号物件の蓋付枠部分の製造業者の1つである有限会社星野鋳造所の代表取締役Bの陳述書(甲第39号証)を挙げる。
しかしながら、甲第38号証の写真が、これに写されている物件がロ号物件であることを認めるに足りる証拠はなく、被告の上記主張を認める根拠とならないのは上記イで述べたところと同様である。
また、甲第39号証には、被告から電話で、蓋の脚部を従前より1mm弱切削する方法で蓋の高さを低くするように指示を受け、その後の注文からその指示に従っており、時期としては自分の大体の記憶から平成12年2月3日納品の製品からこの変更を行った旨の記載があるが、これを裏付ける客観的な証拠が存在せず、その内容を直ちに信用することができない。
そして、他に、被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
そもそも、被告の上記主張及び甲第39号証の上記記述は、ロ号物件及びハ号物件において、蓋の環状脚部の高さを切削することで、蓋受枠に対する蓋の高さを低くすることができることを前提とするものであるが、前記「前提となる事実」記載のとおり、ロ号物件及びハ号物件は、いずれも本件訂正考案の構成要件Aである「蓋本体2の上方外周側面には蓋受枠6の上方内周縁に形成されたテーパー面8に合致するテーパー面7が形成されてなり」を充足するものであるから、蓋の環状脚部の高さが切削されても、蓋は、その外周側面に形成されたテーパー面が蓋受枠に形成されたテーパー面に支持されるのであって、蓋受枠に対する高さは変わらないはずである。したがって、被告の上記主張及び甲第39号証の上記記述は、
その前提において成り立ち得ないものであるから、到底採用することができない。
エ 以上のとおり、前記成立した自白の内容が事実に反すると認めることはできないから、被告によるその撤回は許されないというべきである。
したがって、ロ号物件及びハ号物件の構成は、別紙ロ号物件目録及びハ号物件目録各記載のとおりであるというべきであり、これによれば、ロ号物件及びハ号物件は、いずれも本件訂正考案の構成要件Eを充足するものと認められる。
2 争点(2)(本件実用新案登録に明細書の記載不備が存在するか(明白な無効理由1〕)について (1) 本件訂正考案に係る訂正明細書には、本件訂正考案の詳細な説明として、
以下のような記載があることが認められる(甲第41号証)。
ア 産業上の利用分野、従来の技術、考案が解決しようとする課題の項 本考案は、仕切弁室や消火栓室、マンホール、桝等の埋設枠体の上部に載置されてなる地表埋設用蓋付枠の改良に関する。
本件考案の従来技術としては、地表埋設用蓋付枠を構成する蓋本体の外周面の一部に突起を設け、かつ蓋受枠の一部に前記突起が係入する溝を刻設してなるもので、これにより蓋本体の不用意な回転を抑制してなるものがある。
しかるに、この従来の地表埋設用蓋付枠においては、係合してなる突起、溝により蓋本体の回転は防止されてなるのであるが、突起、溝はそれぞれ上下方向の全域にわたって形成されてなるため、浮き上がりによる離脱を防止するものではなかった。
また、従来の地表埋設用蓋付枠においては、蓋本体の開閉作業時における掃除不足や、地表埋設用蓋付枠上を通過する車両等による蓋本体の振動等により、蓋本体の下端外周縁と蓋受枠の蓋受部外周縁との間に土砂が侵入して溜まってしまい、該土砂によって蓋本体が押し上げられてしまうのである。
この蓋本体の浮き上がりによって、該蓋本体と蓋受枠との間に僅かな隙間が生じてガタツキ音を発生させたり、該隙間により一層土砂等を侵入し易くしてしまう恐れがある他、特に長年経過した場合には一端浮き上がった蓋本体が土砂を蓋受枠に押しつけた状態で前記振動を続け、かつ前後左右に摺動することにより蓋受枠を摩耗させて蓋本体が落ち込んでしまうという大なる問題点があった。
さらに、地表埋設用蓋付枠は前記突起を蓋本体の上下幅全域に突設してなるため、地表埋設用蓋付枠の上面を略面一として蓋本体を蓋受枠に嵌合させるための、該蓋本体の仕上げ作業時において、その下面は切削できるが、外周側面は前記突起が邪魔となり切削作業が行えない。
また、蓋受枠においては、L字形に形成される内壁の全域を仕上げるため切削作業に時間がかかるとともに、蓋受枠と蓋本体との嵌合時においては、上記蓋本体がその外周側面を切削していないものであるために、仕上げ作業を施した蓋受枠との側面間に不揃いな隙間が生じることとなるから、該仕上げ作業が無駄になり、かつ前記摩耗やガタツキ現象が発生する要因ともなっている。
考案は上記の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、蓋本体の浮き上がりを防止してガタツキ等が生じず、また開閉容易な地表埋設用蓋付枠を提供するところにある。
イ 課題を解決するための手段の項 「本考案は、地表埋設用蓋付枠の蓋本体や蓋受枠に浮き上がり防止手段を具備させることにより、上記の課題を解決せんとしてなされたものである。
すなわち、本考案は、蓋本体2が蓋受枠6上にその上面が略面一に嵌合され、蓋本体2の下端外周縁に逃げ空所5を形成すべく切り欠き部4が刻設された地表埋設用蓋付枠において、蓋本体2の上方外周側面には蓋受枠6の上方内周縁に形成されたテーパー面8に合致するテーパー面7が形成されてなり、且つ前記切り欠き部4の少なくとも一箇所以上には突起体10が外周方向に突設されてなり蓋受枠6の少なくとも一箇所以上には、前記突起体10を係入するための凹部11が形成され、しかも前記蓋受枠6には蓋本体2の環状脚部3を載置するための受部9が形成され、且つ前記蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられてなる地表埋設用蓋付枠である。」 ウ 作用の項 「上記構成からなる地表埋設用蓋付枠においては、切り欠き部4から突設されてなる突起体10と蓋受枠6の凹部11の係合により、いかなる場合においても蓋本体2の離脱、回転防止が図れるとともに、蓋本体2の下端外周縁に刻設されてなる切り欠き部4により、蓋受枠6の蓋受部外周縁との間に逃げ空所5が形成されてなるために、土砂27が蓋本体2と蓋受枠6との間に侵入した際にも、該土砂27は逃げ空所5内に収納されてしまうこととなるため蓋本体2の浮き上がり防止作用が得られ、従来のように蓋受枠6が摩耗損傷することがなく、従って上記双方の作用をもって一層の安全確実な使用が行えるのである。」 エ 実施例の項 「以下、本考案の一実施例図面に沿って説明する。
第1図(イ)至乃至(ニ)において、2は略長方形形状の蓋本体を示し、該蓋本体2の上方外周側面にはテーパー面7が形成されてなるとともに、下方方向には環状脚部3が突設形成され、その外周縁には略断面長方形形状の切り欠き部4が形成されてなる。
10は、前記蓋本体2の切り欠き部4から外側方向に向かって突設形成されてなる2個の突起体を示す。
6は、前記蓋本体2を外嵌状態にて載置させる蓋受枠を示し、前記蓋本体2の環状脚部3を載置させるための受部9が形成され、該蓋受枠6の上方の内周縁にはテーパー面7と合致するテーパー面8が形成されるとともに、受部9とテーパー面8との連設部には溝12が周設され、且つテーパー8面の下方には、前記突起体10が係入するための2個の凹部11が形成されてなる。ここで、凹部11の底部11aには、蓋受枠6の内周方向へ下る傾斜が付されてなるものである。
又、この蓋本体2の閉塞時には、蓋本体2の切り欠き部4によって蓋本体2の下端外周縁と、蓋受枠6との下方周縁間に逃げ空所5が形成されてなる。
第1図(ホ)、(ヘ)において、▽印は、テーパー面7、8、環状脚部3及び受部9の仕上げ作業に際しての切削位置を示す。
尚、15は、銘柄としての防水性の表示プレートを示し、地表埋設用蓋付枠1の下部に位置してなる埋設機器の仕様や使用状態等の説明等を表示部16に表示して外部から目視可能に構成されてなるもので、該表示プレート15は、片方を蓋受枠6に、もう片方を蓋本体2に接続された鎖体17によって垂下されてなる。
実施例は、以上の構成からなりその作用について説明すれば、地表埋設用蓋付枠1の蓋本体2の閉塞時において、該蓋本体2に形成されてなる突起体10は、切り欠き部4から突設されて蓋受枠6の凹部11内に係合してなるために、
例えば蓋本体2をそのまま上方向に持ち上げても前記係合は解除されることがないのである。
又、蓋本体2の開閉作業や振動等によって、例えば第1図(ハ)に示すように、蓋本体2と蓋受枠6との間に土砂27が侵入したとしても、該土砂27は、蓋本体2に設けた切り欠き部4によって形成されてなる逃げ空所5内に収納されることとなるために、従来の地表埋設用蓋付枠21のように蓋本体22が、該土砂27によって押し上げられて浮き上がるといったことがないのである。
このため、土砂27の侵入が生じた際にも蓋本体2のガタツキや摩耗による落ち込み等の心配がなく、極めて好適な使用が行えるのである。
又、蓋本体2を開放する際には、突起体10の先端が蓋受枠6の凹部11の底部11aに添って移動することとなり、底部11aに溜まった土砂等を削り取りつつ蓋受枠6内へ掻き落とすために、凹部11内に堆積物が生じることがなく、蓋本体2の開閉作業が常に容易に行えるのである。更に、製作面においては、
逃げ空所5を設ける構造であるために、切削面積が従来の略半分で済み、この結果仕上げ作業が短時間で行えるのである。
尚、上記実施例においては、地表埋設用蓋付枠1の形状を長方形に形成してなるが、第2図(イ)至乃至(ハ)に示すように円形でもよい。同図(ロ)においては、蓋受枠6と蓋本体2との隙間から地表水と共に侵入した砂塵等が蓋受枠6の溝12から凹部11の底部11aを経て地表水と共に蓋受枠6内へ排除される状態を示す(二点鎖線)。
又、第1図に示す長方形状の地表埋設用蓋付枠1においては、突起体10と凹所11を長方形の長辺側に形成してなるが、決してこれは条件ではなく、第3図(イ)、(ロ)に示すように、長方形の短辺側に形成してもよく、また円形の地表埋設用蓋付枠1にあっても第3図(ハ)至乃至(ホ)に示すように蓋受枠6の具体的な構造も問うものではない。
又、突起体10と凹部11の詳細な形状や、その個数も限定されない。
その他、本考案の細部の詳細は、考案の意図する範囲内において自由に設計変更可能である。」 オ 考案の効果の項 「叙上のように本考案は、蓋本体の切り欠き部から設けた突起体が、蓋受枠に設けられた凹部に係合されてなる地表埋設用蓋付枠であるために、該蓋本体の浮き上がりによって前記係合が解除されることがなく、いかなる条件においても蓋本体の廻り止めや、離脱防止が確実に行える地表埋設用蓋付枠であるという格別なる効果を有するに至った。
又、蓋受枠の受部に溝が周設され、且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する。しかも、蓋本体を開放する際には、突起体の先端をもって凹部の底部に溜まった土砂等が蓋受枠内に掻き落とされるため、凹部内に堆積物を生じることがなく、蓋本体の開閉が常にスムーズに行えるという優れた効果をも有する。
更に、蓋本体の下端外周縁に逃げ空所を形成することにより、蓋本体と蓋受枠間に土砂等の侵入が生じた際にも、該土砂を逃げ空所内に収納して、蓋本体の浮き上がりを生じさせないという有益な効果もある。
尚、製作面においても、逃げ空所を形成し、且つ突起体は切り欠き部から突設されてなるため、該突起体を蓋本体の上下幅全域に渡って突設してなる従来の地表埋設用蓋付枠に比し、仕上げ面積が略半分に減少して遥かに作業性が良好となるのである。」 (2) 上記のような明細書の記載に照らすと、本件訂正考案は、蓋の開閉を容易にしつつ、蓋本体の蓋受枠からの浮き上がりや、蓋本体の下端外周縁と蓋受枠の蓋受部外周縁との間に土砂が侵入して滞留することを防止し、さらに製造時における切削作業を容易にすることを目的とし、@ 蓋本体の突起体と蓋受枠の凹部を係合させる構成により、蓋本体の離脱や回転を防止する効果を、A 蓋本体の下端外周縁に刻設されてなる切り欠き部によって、蓋受枠の蓋受部外周縁との間に逃げ空所を形成する構成により、土砂が蓋本体と蓋受枠との間に侵入した際にも、該土砂を逃げ空所内に収納し、蓋本体の浮き上がりを防止する効果を、B 蓋本体に突起体を設ける構成により、蓋本体の開放時に、突起体の先端をもって蓋受枠の凹部の底部に溜まった土砂等を蓋受枠内に掻き落とし、凹部内に堆積物を生じさせないという効果を、C 逃げ空所を形成し、かつ突起体は切り欠き部から突設される構成により、従来の地表埋設用蓋付枠に比し、仕上げ面積が略半分に減少して作業性が良好となる効果を、それぞれ奏するものであると認められる。
(3) 被告は、明細書考案の効果の項に記載された「蓋受枠の受部に溝が周設され、且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する」という効果も、本件訂正考案の効果であると主張する。
しかしながら、本件訂正考案の実用新案登録請求の範囲には、蓋受枠の受部に溝が周設された構成や、凹部の底部に蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付された構成が記載されていないこと、これらの構成は、明細書実施例の項に、実施例の構成として記載されていることに照らせば、「蓋受枠の受部に溝が周設され、且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する」との記載は、本件訂正考案自体の効果の記載ではなく、その実施例の効果の記載であると解すべきである。
そして、考案の効果の項に、実施例の効果を記載することは、明細書の記載として適切ではないことは確かであるが、これが実用新案登録を無効とするものとは解されない。
(4) また、被告は、「蓋受枠の受部に周設した溝」がなければ、蓋と蓋受枠から徐々に侵入してくる地表水は直接逃げ空所内に砂塵と共に流入し、この地表水によって掃除不足等の要因により逃げ空所内に収納されている比較的大きな土砂を徐々に溶解することとなり、この溶解された細かな土砂が砂塵と共に蓋の環状脚部の底面と蓋受枠の受面間の隙間に侵入して受部の粗面に引っ掛かり堆積し、蓋を徐々に持ち上げ、蓋の浮き上がり現象が生じるおそれがあるから、蓋本体の蓋受枠からの浮き上がりを防止するという本件訂正考案の目的達成のためには、「蓋受枠の受部に周設した溝」という構成は必須のものであると主張する。
しかしながら、本件訂正考案では、蓋本体の環状脚部の底面と前記凹部の底部との間に隙間が設けられている(構成要件E)ことにより、逃げ空所内に収納された土砂が流入してきた地表水と共に前記隙間から蓋受枠内に排出されることは、本件訂正考案に係る訂正明細書の記載及び図面から明らかであるから、「蓋受枠の受部に周設した溝」という構成は蓋本体の蓋受枠からの浮き上がり防止のため必須のものとはいえない。
(5) 以上のとおりであるから、本件訂正考案の実用新案登録請求の範囲に、
「蓋受枠の受部に周設した溝」及び「凹部の底部に蓋受枠の内周方向へ下る傾斜を付すことによって、蓋本体の環状脚部の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられる」の構成要件が記載されていないことは、旧実用新案法5条4項2号の規定に反しないというべきであり、本件実用新案権に、上記の訂正要件を欠くにもかかわらず訂正を許可したという無効理由が存在することが明らかであるということはできない。
したがって、この点についての被告の主張は理由がない。
3 争点(3)(本件訂正考案進歩性を欠くか〔明白な無効理由2〕)について (1)ア 本件訂正考案に係る訂正明細書考案の詳細な説明の記載及び本件訂正考案の意義は、前記2(1)及び(2)で認定したとおりである。
イ なお、原告らは、本件訂正考案について、その構成要件Eを追加したことにより、前記「争点に関する当事者の主張」(3)〔原告らの主張〕イ(ア)ないし(ウ)の各効果が得られたと主張する。
しかし、上記のうち、(ア)及び(ウ)の各効果は、いずれも本件訂正考案に係る訂正明細書に何らの記載もなく、明細書に基づかない主張であるから、採用の限りでない。
また、上記(イ)の効果は、蓋本体の環状脚部の底面と凹部の底部との間に隙間が設けられたことにより得られた効果であるということができる。もっとも、この効果自体は、蓋本体の環状脚部の底面と蓋受枠の受部との間に隙間を設けることによって得られるものであり、その隙間の位置を、環状脚部の底面と凹部の底部との間のみに限定することと関連するものではないから、この点についての原告らの主張は相当ではない。
ウ そこで、前記本件訂正考案に係る訂正明細書の記載から検討するに、本件訂正考案の構成要件Eにおいて、蓋本体の環状脚部の底面と蓋受枠の凹部の底部の間にのみ隙間を設ける構成を採用した技術的意義は、それ以外の箇所においては蓋本体の環状脚部と蓋受枠の受部とを当接させたことにより、逃げ空所に侵入した土砂が堆積しやすくなる場所を、蓋本体の閉鎖時に蓋本体の突起体が係入される凹部の底部に限定し、ここに堆積した土砂を、蓋本体の開放時に突起体の先端により蓋受枠内に掻き落とすことで、土砂の堆積を防止することにあるものと認めるのが相当である。
(2) この点につき、被告は、構成要件D及びEによってもたらされる作用効果は、「蓋受枠の受部に溝が周設され、且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する」というものであると主張するが、上記(1)ウ及び前記2で判示したところに照らして採用することができない。
(3) 被告は、実開昭60-66748号マイクロフィルムのコピー(甲第21号証)には、マンホールの蓋と蓋受枠において、蓋と蓋受枠の隙間から地表水と共に侵入した砂やゴミを受部の環状溝を介して放射状に複数設けられた中心に向かう下向きの傾斜面とした案内溝によってマンホール内に排出する構成が示されていると主張し、確かに甲第21号証にはそのような構成が記載されていると認められる。
しかしながら、上記甲第21号証には、蓋本体の脚部と蓋受枠の受部との隙間を、突起体が係入される凹部の底部に限定する構成は記載されておらず、本件全証拠によっても、本件実用新案の登録出願前にこのような構成が記載された刊行物が存在したことを認めることはできない。
そして、本件訂正考案は、構成要件Eによって、前記(1)のとおり、逃げ空所に侵入した土砂が堆積しやすくなる場所を凹部の底部に限定し、ここに堆積した土砂を、蓋本体の開放時に突起体の先端により蓋受枠内に掻き落とすことで、土砂の堆積を防止するという効果を得たものであるから、蓋本体の脚部と蓋受枠の受部との隙間を突起体が係入される凹部の底部に限定する構成は、単なる設計事項ということはできない。
上記のとおりであるから、本件訂正考案は、上記甲第21号証等から極めて容易に考案することができたものということはできず、旧実用新案法39条3項3条2項に違反して訂正を許可したという無効理由が存在することが明らかであるということはできない。
したがって、この点についての被告の主張は理由がない。
4 争点(4)(本件訂正考案技術的範囲は限定して解釈されるべきか)について 被告は、溝によりもたらされる本件訂正考案に係る訂正明細書考案の効果の項に記載された作用効果は、本件訂正考案の課題である蓋の浮き上がり防止に直接関係するものであり、かつ、溝による効果が本件訂正考案の効果として明細書に記載されている以上、本件実用新案登録が仮に有効なものとしても、その実用新案登録請求の範囲に記載されている「受部9」は、「テーパー面8との連接部に溝12が周設された受部9」として解釈されなければならないと主張する。
しかしながら、本件訂正考案の課題である蓋の浮き上がり防止のためには、
溝は必須の構成ではなく、本件訂正考案に係る訂正明細書において考案の詳細な説明の考案の効果の項に記載されている溝による効果は、その記載されている項にかかわらず、本件訂正考案実施例の効果として解すべきことは、前記2で判示したとおりである。
したがって、この点についての被告の主張は、その前提を欠くものであって、理由がない。
5 争点(5)(被告の過失推定は覆滅されるか)について (1) 被告は、被告がロ号物件及びハ号物件を販売した時点において、「凹部11の底部11aとの間にのみ設けられた隙間」なる構成要件を付加限定するだけで、明細書記載要件を充足するものとして訂正が認められることを予見することは不可能であり、ロ号物件及びハ号物件が本件訂正考案技術的範囲に属することを予見することもまた、当然不可能であったから、旧実用新案法30条により準用される特許法103条の過失の推定は覆滅されると主張する。
しかしながら、旧実用新案法30条が準用する特許法103条により過失を推定するためには、その行為が特許発明ないし登録実用新案の技術的範囲に属することの予見可能性があれば足り、当該特許権ないし実用新案権の有効性や訂正許容性についての予見可能性は要求されないものと解すべきである。
したがって、考案が訂正された場合において、訂正前に行われた行為が、
訂正前の考案を前提とすればその実施行為には当たらなかったのに、訂正後の考案についてはその実施行為に当たるようなときはともかく(もっとも、実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更する訂正はそれ自体許されないものである。)、訂正の前後を通じてその考案の実施行為に当たる限り、当該行為者において、その行為が当該考案の実施行為となることは予見可能であるというべきであり、過失の推定が覆されるものとはならない。
(2) 上記(1)を前提として検討するに、前記「前提となる事実」(1)(2)及び乙第11号証(訂正審判請求事件の審決書)によれば、本件実用新案について、登録当初の実用新案登録請求の範囲は、本件訂正考案の構成要件@、B、C及びFからなるものであり、本件訂正考案の実用新案登録請求の範囲は、これに構成要件A、
D及びEを付加したものであり、実用新案登録請求の範囲減縮したものであると認められる。
また、前記「前提となる事実」(4)のとおり、ロ号物件及びハ号物件は、いずれも、本件訂正考案の構成要件@、B、C及びFをすべて充足するものであることが認められる。
以上のとおり、ロ号物件及びハ号物件は、いずれも、登録当初の考案を前提としても、本件訂正考案を前提としても、その技術的範囲に属することは変わりないのであるから、被告において、ロ号物件及びハ号物件の販売が本件訂正考案の実施に当たることは予見可能であったということができる。
したがって、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売について、旧実用新案法30条により準用される特許法103条の過失の推定は覆らないというべきである。この点についての被告の主張は理由がない。
6 争点(6)(被告が販売したロ号物件及びハ号物件の個数)について (1) 被告が、蓋付枠部分の製造業者から、ロ号物件につき2万8626個、ハ号物件につき6869個の蓋付枠部分の納入を受けたことは、当事者間に争いがない。
(2)ア 原告らは、被告の帳簿類に「FCD24型」として記載されている6807個及び「FCD32型」として記載されている956個も、ロ号物件及びハ号物件の蓋付枠部分であると主張する。そして、その根拠として、「FCD」とはダクタイル鋳鉄を意味するところ、被告が「DV」型を販売する以前に販売していた「ST」型には、ダクタイル鋳鉄は使用されていなかったのに対し、「DV」型にはダクタイル鋳鉄が使用されているのであるから、ダクタイル鋳鉄を使用したことを意味する「FCD」と帳簿類に記載されているものは、「ST」型ではなく「DV」型であると主張する。
上記原告ら主張のうち、「FCD」とは球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)を意味すること、「DV」型には球状黒鉛鋳鉄が使用されていること、「ST」型には、少なくとも当初は、球状黒鉛鋳鉄ではなく、ねずみ鋳鉄が使用されていたことは、被告も自認するところである。
しかし、被告は、上記原告らの主張に対し、「ST」型にも、後には球状黒鉛鋳鉄を使用するようになり、帳簿類の「FCD」の表記は、従来からのねずみ鋳鉄ではなく、球状黒鉛鋳鉄を使用した「ST」型に、区別のために付したものであると主張する。
イ そこで検討するに、その記載から岐阜県各務原市への水道用資材の仕様変更申請書の申請書控えであると認められる甲第40号証の1ないし3によれば、
被告が、平成9年4月28日に、各務原市に対し、消火栓・仕切弁ボックスの仕様を、ねずみ鋳鉄を使用する製品から球状黒鉛鋳鉄を使用する製品に変更する申請をしたことが認められ、これに付された4枚の図面(同号証の3)には、品名欄には、それぞれ、「UCK式型 仕切弁 φ24型 新型」、「UCK式型 仕切弁 φ32型 新型」、「消火栓用 350×450」及び「消火栓用 470×670」と、材質欄には、いずれも、「蓋 FCD500」及び「枠 FCD 500」と記載され、いずれにも各務原市の承認印が押捺されていることが認められるが、これらの図面には、図面に表された物件が、「切り欠き部の少なくとも一箇所以上には突起体が外周方向に突設されてなり」(本件訂正考案の構成要件B)、
「蓋受枠の少なくとも一箇所以上には、前記突起体を係入するための凹部が形成され」(構成要件C)、「蓋本体の環状脚部の底面と前記凹部の底部との間にのみ隙間が設けられてなる」(構成要件E)という構成を有することは示されていないから、これらの図面に表された物件が、本件訂正考案技術的範囲に属するものであると認めることはできない。そして、上記の各事実によれば、被告が、本件訂正考案技術的範囲に属しない蓋付枠について、材質をねずみ鋳鉄から球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)に変更したことがあることを認めることができる。
なお、原告らは、本来の「ST」型の構造は、蓋本体の下端外周縁に切り欠き部がなく(蓋本体の外周側面が蓋受枠の内周面と全面的に相近接するため、
逃げ空所が形成されない)、蓋本体と蓋受枠は、蓋本体の三角突起が蓋受枠の三角凹部に係入することで嵌合されるものであるところ、これと上記証拠は整合しない旨も主張する。確かに、乙第31号証及び第36号証によれば、被告製品として、
原告が上記のように主張する構成の製品が存在したことが認められるが、上記甲第40号証の1ないし3の記載内容に加えて、被告がロ号物件及びハ号物件を販売する以前に販売していた製品が、すべて原告主張の構成を有していたと認めるに足りる証拠が存在しないことを考慮すれば、原告らの上記主張は、上記認定を左右するものとはいえない。
さらに、原告らの主張(平成16年3月11日付原告準備書面添付別紙@及びAの各I及びII並びにB)によれば、「DV」型の名称は平成9年7月2日から用いられているところ(もっとも、被告はこれを否認しており、被告が自認する最も早い「DV」型は、同年12月2日である。)、「FCD」型の名称は平成8年3月18日から平成11年3月6日まで用いられ、しかも「FCD」型の納入業者は「DV」型の納入業者と重複しているから、「FCD」型もロ号物件及びハ号物件であるとすると、平成9年7月2日(被告の主張によっても同年12月2日)から平成11年3月6日までの間、同一の物件に対して「DV」と「FCD」の双方の名称が付せられていたこととなる。このような取り扱いは、被告において特段の事情がない限り不自然なものというべきところ、そのような特段の事情については何ら主張も立証もない。
以上の検討によれば、被告の帳簿類に「FCD」と記載された物件がロ号物件ないしハ号物件の蓋付枠部分であるとする原告らの主張はこれを認めることができない。
(3) 原告らは、被告の帳簿類に「新型」ないし「新」として記載されている、
「24型」の125個及び「32型」の31個も、ロ号物件及びハ号物件の蓋付枠部分であると主張する。
これに対し、被告は、帳簿類の「新型」ないし「新」の表記も、「FCD」と同様、従来からのねずみ鋳鉄ではなく球状黒鉛鋳鉄を使用した「ST」型の蓋付枠部分に、区別のために付したものであると主張する。
そこで検討するに、原告らの上記主張は、その体裁から一連の帳簿の各頁であると認められる乙第37号証の4ないし7において、いずれも頁の欄外上部に「新型」と記載され、同号証の4ないし6には「新」と付記された「FCD」型の記載が、同号証の6及び7には「DV」型の記載がされていることを根拠とする。
しかし、この事実によって、直ちに、「新」ないし「新型」と表示された物件がロ号物件ないしハ号物件の蓋付枠部分であると認めるには足りない。
そして、被告が、「新」ないし「新型」の表記も、「FCD」と同様、従来からのねずみ鋳鉄ではなく球状黒鉛鋳鉄を使用した「ST」型に、区別のために付したものであると主張していること、上記(2)のとおり、被告が、平成9年4月28日に、各務原市に対し、本件訂正考案技術的範囲に属しない製品について、その材質をねずみ鋳鉄から球状黒鉛鋳鉄に変更する申請をしているところ、これに付された仕切弁の図面には、品名欄に、「UCK式型 仕切弁 φ24型 新型」、
「UCK式型 仕切弁 φ32型 新型」と、いずれも「新型」の表示がされていることが認められること、原告らがロ号物件及びハ号物件の蓋付枠部分であると主張する、「新型」ないし「新」として記載されている物件の納入日は、平成9年7月2日から同年10月27日までであり、上記申請と近接していることをも合わせて考慮すれば、原告らが主張する、被告の帳簿類に「新型」ないし「新」として記載されている物件について、これらもロ号物件ないしハ号物件の蓋付枠部分であると認めることはできないというべきである。
(4) 以上のとおりであるから、被告が納入を受けたロ号物件及びハ号物件の蓋付枠部分の個数としては、前記(1)のとおり被告が自認するところである、ロ号物件につき2万8626個、ハ号物件につき6869個を超えて認めることはできない。
ところで、前記「前提となる事実」(5)記載の平成12年12月27日に行われた仮処分決定の執行により、被告が販売せずに保管されているロ号物件及びハ号物件の個数が、それぞれ7712個及び3374個であることは、当事者間に争いがない。
被告が販売したロ号物件及びハ号物件の個数は、上記の蓋付枠部分の仕入数から、上記の保管数を控除して得ることができる。したがって、被告が販売したロ号物件の個数は、2万0914個、同じくハ号物件の個数は、3495個であると認められる。
7 争点(7)(原告Aが被った損害額)について (1) 原告Aの主位的主張(弁護士及び弁理士費用を除く)について 原告Aは、原告会社と被告以外に本件訂正考案の実施品を製造販売している者はいないから、被告がロ号物件及びハ号物件を販売しなければ、その販売個数と同数の相当品を原告会社において製造販売することができ、これによって原告Aは実施料を得ることができたのであるから、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売により、原告Aは上記得ることができたはずの実施料相当額の損害を被ったと主張する。
しかしながら、上記のように、被告がロ号物件及びハ号物件を販売しなければ、その販売個数と同数の相当品を原告会社において製造販売することができたというためには、当該種類の物品の市場が、原告会社と被告においてほぼ独占する状態にあった場合、その他、考案の技術的効果が特に優れていることにより原告会社の製品と被告の製品との間に完全な代替関係があるような場合などに限られると解される(この点、実用新案法29条1項にいう、「侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、権利者と侵害者によって市場がほぼ独占状態にあることその他両者の製品が完全な代替関係にあることまでは要しないと解すべきであるが、これは、同条が、権利者の保護及び救済のために一定の損害額を法律上推定し、権利者の損害立証を容易にすることをその趣旨としているからであって、
同条を用いない損害の主張に上記趣旨をそのまま及ぼすことは、相当ではない。)。
しかるに、原告会社及び被告が、その所在地である奈良県ないし近畿圏において、ロ号物件及びハ号物件が属する上水道仕切弁の市場をほぼ独占していたこと、その他、ロ号物件及びハ号物件が原告会社の対応製品と完全な代替関係にあることについては、主張もこれを認めるに足りる証拠もない。
なお、原告Aは、本件訂正考案の実施品を製造販売していたのは、原告会社及び被告だけであったと主張するが、原告Aが主張する事実では足りないことは上記のとおりである(なお、原告Aの上記主張に沿う証拠として、原告会社従業員であるCの陳述書である乙第40号証も存在するが、これには客観的な裏付けもなく、他に原告Aの上記主張を認めるに足りる証拠もないから、結局のところ、原告Aの上記主張は認めることができない。)。
以上のとおりであるから、原告Aが主張するように、被告がロ号物件及びハ号物件を販売しなければ、その販売個数と同数の相当品を原告会社において製造販売することができたと認めることはできない。
そして、被告がロ号物件及びハ号物件を販売しなければ、原告会社において製造販売することができたロ号物件及びハ号物件の各相当品の個数については、
これを認めるに足りる証拠はない。本件においては、原告Aの損害額は、下記(2)のとおり、その予備的主張である、実用新案法29条3項により算出することができるから、原告Aの主位的主張による損害算定方法を前提として、実用新案法30条が準用する特許法105条の3により、その相当個数を認定することは相当でないというべきである。
よって、原告Aの上記主位的主張については、これを認めることができない。
(2) 原告Aの予備的主張(弁護士及び弁理士費用を除く)について ア 原告Aは、本件実用新案権の実用新案権者であるから、実用新案法29条3項により、被告によるロ号物件及びハ号物件の販売行為に対し受けるべき金銭相当額を、損害額として請求することができるというべきである。
この点につき、被告は、原告Aが原告会社に対して専用実施権を設定した後は、原告Aが損害を被ることはあり得ないと主張する。しかし、専用実施権を設定した実用新案権者は、売上に応じた実施料の定めがある場合には、専用実施権者からその売上に応じた実施料を得るべき地位を有するところ、実用新案権の侵害によって、専用実施権者から得るべき実施料が減少することが観念されるから、被告の上記主張は採用することができない。
また、被告は、本件訂正考案が原告会社における職務考案であることを根拠として、本件実用新案権について原告会社が無償の法定通常実施権を有することも指摘するが、そのような事実関係が認められるとしても、これによっては原告会社は本件訂正考案の実施を独占することはできないのであるから、原告会社が、
本件訂正考案の実施を独占する対価として、実用新案権者である原告Aに実施料を支払うことは、何ら不合理なものではない。なお、被告が主張するように、原告Aが、原告会社の代表取締役という自らの地位を悪用し、自らの職務発明に関して会社から不相当な対価を受けたならば、これが原告会社に対する背任行為となり得る場合はあるとしても、これ自体本質的には会社と代表取締役との間の問題である上、被告が主張するような事情を認めるに足りる証拠はない。
イ そこで、実用新案法29条3項に基づき、原告Aが賠償を請求することができる損害額について検討する。
(ア) 被告における製品の価格表である乙第19号証の2・3によれば、
被告におけるロ号物件及びハ号物件(ただし、いずれも蓋受枠が固着されたコンクリートブロックを含むものである。)の販売価格は、それぞれ1個当たり1万9500円及び2万7000円であると認められる(なお、原告Aは、被告におけるロ号物件及びハ号物件の販売価格は、1個当たりそれぞれ1万1700円及び1万6200円であると主張しているが、この主張価格は、上記乙第19号証の2に記載されている、蓋受枠の価格と一致しているところから、原告Aは、蓋受枠の販売価格を蓋付枠全体の価格と誤認して上記主張に至ったものと推測される。そして、上記認定の販売価格は、原告Aの主張する販売価格よりも高額であるが、実用新案法29条3項による算定に当たって、権利者が主張立証すべき金額は受けるべき実施料相当額の総額であり、販売単価はその計算根拠にすぎないものであるから、原告Aが主張する販売価格よりも高額の認定をしても、弁論主義に反するものではない。)。
ところで、上記はいずれもコンクリートブロック付の価格であるところ、本件実用新案権は蓋付枠についてのものであるから、原告Aの損害を算定するに当たっては、被告の売上高からコンクリートブロック部分の価格を控除し、蓋付枠部分の売上高を得る必要がある。被告のロ号物件及びハ号物件の価格のうち、蓋付枠部分の価格については、これを直接示す証拠は存在しないが、乙第33号証の2によれば、原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品の製造に要する費用のうち、鋳鉄である蓋本体及び蓋受枠部分の材料費及び加工費の合計額が、それぞれ3187.24円及び4893.33円である一方、コンクリートブロック部分のコンクリート及び鉄筋材料費並びに型枠損料及び加工費の合計額が、それぞれ418.61円及び533.43円であることが認められ、この事実に照らすと、
被告のロ号物件及びハ号物件の販売価格のうち、蓋付枠部分の販売価格が、全体の90パーセントを占めるものと認めるのが相当である。
したがって、被告におけるロ号物件及びハ号物件の販売価格のうち、
蓋付枠部分の価格相当額は、それぞれ1万7550円及び2万4300円であると認められる。
(イ) 原告Aは、原告会社に対する独占的通常実施権ないし専用実施権を設定するに当たって、実施料を売上高の8パーセントと定めたと主張し、これに沿う証拠として、独占的通常実施権許諾書(乙第35号証)、設定登録原簿謄本(乙第2号証)、専用実施権設定契約証書(乙第46号証)並びに原告会社代表取締役としての原告A及び原告会社従業員であるCの報告書(乙第45号証)が存在する。
しかしながら、上記乙第35号証は、原告らが独占的通常実施権の主張をするに至った平成16年3月15日の本件第13回口頭弁論期日に提出され(なお、原本が提出されたのは同年5月13日の本件第14回口頭弁論期日においてである。また、本件訴訟においては、平成15年4月15日の本件第8回口頭弁論期日以降損害認定に関する審理を行ってきたものである。)、その体裁も実用新案権者としての原告Aが原告会社に宛てて単独で作成したもので、作成日としては平成8年2月1日と記載されているものの、他に作成時期を特定するに足りるものは同号証にも他の証拠にも存在せず、同書証の上記提出経過にも鑑みれば、同号証が実際に平成8年2月1日に作成されたことには疑問を抱かざるを得ず、その作成日が同日ころであるとまで認めることはできない。また、上記のとおり、同号証が原告Aにより単独で作成されたものであること、前記「前提となる事実」(3)のとおり、原告Aが原告会社の代表取締役の1人であること、さらに、原告会社は、その商号に原告Aの姓を冠し、もう1人の代表取締役も、原告Aと同姓であることからすると、原告Aのいわゆる同族会社であると推認されることに照らせば、同号証が存在するからといって、直ちに、原告Aと原告会社との間に、真実、実施料を売上高の8パーセントとする合意が成立したと認めることもできない。
また、上記乙第46号証は、実用新案権者としての原告Aと、もう1人の原告会社代表取締役による専用実施権設定契約証書であり、その裏面に特許庁において登録済みであることを示す記載がされ、庁印が押捺されていることにより、これによって実用新案登録原簿に専用実施権設定の登録がされたものと認められる。そして、その作成日については、同号証には平成8年2月1日と記載されているが、原告らは平成11年6月ないし7月ころと主張しており、特許庁の専用実施権設定登録の受付けが同年8月9日にされていること(乙第2号証)に照らせば、原告の主張のとおり、同年6月ないし7月ころに作成されたものと認められる。しかし、上記のとおり、原告会社が原告Aのいわゆる同族会社であると推認され、原告Aは原告会社の代表取締役の1人であることに照らせば、同号証が存在し、実用新案登録原簿にこれと同内容の専用実施権設定登録がされている(乙第2号証)からといって、直ちに、原告Aと原告会社との間に、真実、実施料を売上高の8パーセントとする合意が成立したと認めることはできない。
そして、上記乙第45号証の報告書には、平成8年7月21日から平成12年7月20日までの4年間について、各年において原告会社が支払った特許使用料の内訳が記載され、原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品の販売額の8パーセントに相当する金額と、その他の原告会社製品についての実施料(その実施料率は、製品の種類に応じて販売額の0.75パーセントないし1.50パーセントと記載されており、ロ号物件及びハ号物件の各相当品が属する「上水道用ブロック類」の項や、ロ号物件及びハ号物件の各相当品と同率である実施料率8パーセントの項はない。)の額を合計すると、原告会社が支払った特許使用料の総額と一致するように記載されている(なお、上記特許使用料の総額の記載は、各年度の原告会社の決算報告書〔乙第14号証、第42号証ないし第44号証〕の記載と一致する。)。ところで、本件は、平成13年4月20日に提起されたものである(当初は、被告が原告会社を相手として訴えた当庁平成13年(ワ)第2629号製造販売差止請求権等不存在確認請求事件〔訴え取下げにより終了〕に併合されていた。)が、原告らは、当初は、被告製品である「DV20型」蓋付枠(以下「イ号物件」という。)も本件実用新案権の登録当初の考案の実施品であると主張していたところ、前記「前提となる事実」(1)のとおり、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲が平成14年6月13日付の審決によって訂正されたため、いったん中止していた本件訴訟手続を再開した後の平成14年11月5日の本件第5回口頭弁論期日において陳述された平成14年8月5日付準備書面によって、イ号物件に関する訴えを取り下げたという経緯があり(記録上明らかである。)、原告らが平成13年5月7日の本件第1回口頭弁論期日において提出した、平成12年9月25日撮影の写真とされる乙第3号証の1には、原告会社におけるイ号物件相当品として「実施品(商品名:D20蓋付枠)」の写真が掲載されている。以上の事情に照らせば、原告会社は、「D20」型蓋付枠を自ら製造販売し、これを本件実用新案権の登録当初の考案の実施品であると認識していたことが認められる(前記「前提となる事実」(1)のとおり、原告Aによる訂正審判請求は平成14年4月17日付であるし、その前の無効審判請求事件においてされた訂正請求も、平成13年4月20日にされたものである。)。以上の事情に照らせば、上記の平成8年7月21日から平成12年7月20日までの期間においても、原告会社において、「D20」型蓋付枠の製造販売が行われていたと推認されるところ、そうであるならば、これに伴い、原告会社から、原告Aに対し、「D20」型蓋付枠の販売高に応じて、本件実用新案権の実施料が支払われているはずである。しかしながら、上記のとおり、上記乙第45号証には、これに対応する記載は存在しない。以上のように、同号証の報告書は、その記載内容自体に極めて不自然な点があり、これが本件訴訟において、原告会社が原告Aに支払うべき実施料率が売上高の8パーセントであるという原告らの主張を裏付ける証拠とするために作成された報告書であることを考慮すれば、その内容は、真実を記載したものではなく、原告らにおいて、上記原告らの主張に沿うように虚偽の事実を記載したものと考えざるを得ない。したがって、乙第45号証の記載内容は信用することができず、原告Aの主張を裏付けるものということはできない。
以上のとおり、実施料率についての原告Aの主張を認めるに足りる証拠はなく、かえって、原告らにおいてその主張に沿うように虚偽の内容を記載した報告書を作成し、本件訴訟において提出したと考えられることに照らせば、原告Aの、実施料率が売上高の8パーセントであるという主張は採用することができない。
そこで、実用新案法29条3項に基づく損害の計算のために、裁判所において相当な実施料率を認定する必要があるところ、本件に現れた一切の事情に照らせば、実施料率は、売上高の3パーセントと認めるのが相当である。
(ウ) 被告によるロ号物件及びハ号物件の販売数は、前記6で判示したとおり、ロ号物件が2万0914個、ハ号物件が3495個である。
したがって、実用新案法29条3項に基づき、原告Aが被った損害額は、次のとおり計算される。
ロ号物件について 17,550円×20,914個×0.03=11,011,221円 ハ号物件について 24,300円× 3,495個×0.03= 2,547,855円 小計 13,559,076円 (3) 弁理士及び弁護士費用 原告Aが被った損害額のうち、弁護士及び弁理士費用相当分としては、本件事案の難易、上記認容額、その他諸般の事情を勘案すると、原告Aが主張する100万円をもって相当と認める。
(4) 合計 1455万9076円 8 争点(8)(原告会社が被った損害額)について (1) 原告会社の主位的主張(弁護士及び弁理士費用を除く)について ア 原告会社は、本件実用新案権について、原告Aから独占的通常実施権ないし専用実施権の設定を受けていたとして、専用実施権の設定を受けていた期間については実用新案法29条1項の適用を、独占的通常実施権の許諾を受けていた期間については同法同条同項の類推適用を主張する。
ここで、原告Aが、本件実用新案権について、原告会社に専用実施権を設定し、平成11年8月31日にその設定登録を経たことは、前記「前提となる事実」(3)のとおりである。
また、前記7(2)イ(イ)のとおり、原告会社は原告Aのいわゆる同族会社であると推認されるところ、このような企業形態においては、実用新案権を有する会社代表者が、会社に対して独占的通常実施権専用実施権を設定することが通常であることに照らせば、原告Aが、本件実用新案権の出願公告の時点から、実施料率は別として、原告会社に対してその独占的通常実施権を許諾していたことも推認することができる。
この点につき、被告は、原告会社による独占的通常実施権の主張が、本件訴訟の提起後約3年を経過した時点で唐突にされたものであり、信用することができないと主張する。確かに、原告会社による独占的通常実施権の主張は、原告会社が、平成15年12月19日受付の同月26日付原告ら準備書面において、専用実施権設定登録以前のロ号物件及びハ号物件の販売についても、実用新案法29条1項に基づく損害推定の主張をしたのに対し、被告が、平成16年2月6日付被告準備書面において、「原告会社が有する専用実施権は、平成11年8月9日に発生しており(乙第2号証)、それ以前に原告会社に生じる損害はあり得ない。にも拘わらず、原告が上記準備書面で主張する譲渡数量には、平成11年8月8日以前のものが含まれている。」(5頁)と指摘したのに応え、平成16年3月8日付原告ら準備書面において初めて主張したものであり(なお、原告会社は、平成16年5月13日の本件第14回口頭弁論期日において、平成16年3月までは独占的通常実施権が許諾されていた時期についての損害は主張していなかった旨陳述したが、上記のとおり事実に反することは明らかである。)、その主張が適切な時機に行われたとはいい難い。しかしながら、上記事情は、原告Aが原告会社に独占的通常実施権を許諾していたとの上記認定を左右するに足りるまでのものとはいい難いから、被告の主張は採用することができない。
そして、独占的通常実施権者は、確かに、登録によって公示されていないなど、専用実施権者と異なる面もあるが、損害については、基本的に専用実施権者と同様の地位にあるということができるから、独占的通常実施権者についても、
実用新案法29条1項を類推適用することができると解するのが相当である。
また、平成8年7月21日から平成12年7月20日までの各年度の原告会社の決算報告書である乙第14号証、第42号証ないし第44号証及び平成9年6月26日から平成12年6月25日までの各年度の被告の決算報告書の一部である甲第45号証、第47号証、第49号証の各製造原価報告書によれば、上記期間の原告会社における製品の総製造費用は、13億円台から16億円台の間であり、被告における製品の総製造費用は、6億円台から7億円台の間であることが認められ、これらからうかがうことができる原告会社と被告の企業規模によれば、実用新案法29条1項にいう、被告がロ号物件及びハ号物件を販売しなければ、原告会社において、これと同数のロ号物件及びハ号物件の各相当品を販売することができた関係にあったものと認められる。
イ そこで、実用新案法29条1項に基づき、原告会社が被ったと推定される損害額について検討する。
(ア) 原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品についての月別販売数量及び販売金額の一覧表である乙第34号証によれば、原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品の平成8年7月21日から平成10年7月20日までの間の平均販売価格は、それぞれ1個当たり1万2100.74円及び1万6527.10円であると認められる。
ところで、乙第3号証の2・3・5によれば、原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品も、蓋受枠をコンクリートブロックに固着したものであると認められるから、上記価格も、コンクリートブロック付の価格であると推認することができる。
しかるところ、本件訂正考案は蓋付枠についてのものであるから、原告会社の損害を算定するに当たっては、その販売価格からコンクリートブロック部分の価格を控除し、蓋付枠部分の販売価格を得る必要がある。原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品の価格のうち、蓋付枠部分の価格については、これを直接示す証拠は存在しないが、前記7(2)イ(ア)と同様に、原告会社におけるのロ号物件及びハ号物件の各相当品の販売価格のうち、蓋付枠部分の販売価格が、全体の90パーセントを占めるものと認めるのが相当である。
したがって、原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品の販売価格のうち、蓋付枠部分の価格相当額は、それぞれ1万0890.67円及び1万4874.39円であると認められる。
(イ) 次に、原告会社がロ号物件及びハ号物件の各相当品を販売することにより得られる利益について検討する。
実用新案法29条1項にいう「利益の額」とは、権利者において侵害行為がなければ販売することのできた製品の販売価格から、当該製品を追加的に製造販売する行為に必要であると認められる費用、すなわち、その製品の製造原価ないし仕入れ価格のほか、梱包、保管、運送等の各種の経費のうち当該製品の製造のみのために要する部分を控除した額であると解するのが相当である。そして、この控除すべき費用は、一般には、当該製品の製造販売に伴って比例的に増大するいわゆる変動費をいうが、これに当たらない固定費であっても、当該製品に直接関連する経費は、その製品を追加的に製造販売するために必要なものとして、控除の対象となるものというべきである。
ここで、原告会社は、利益を計算するために販売価格から控除すべき経費は、原材料費、運送費、原告Aに対する実施料のみであると主張する。確かに、これらは、製品を製造販売するために必要な経費であるから、販売価格から控除すべきものである。
しかし、原材料の加工に要する費用も、製造に必要な費用であり、追加的に当該製品を製造販売する場合にも当然に製品の製造原価の一部をなすものであるから、これも控除する必要がある。
また、被告が主張するように、水道、電気等の光熱費も、ロ号物件及びハ号物件の各相当品を製造販売するために必要となることは明らかであるから、
これらも控除すべき経費に当たるといえる(もっとも、この点は原告会社も争わない。)。
さらに、営業経費や管理費についても、製品の販売に際しては相応の費用を要することは否定することができないから、一定額を控除する必要がある。
そこで、控除すべき具体的な金額について検討するに、乙第33号証の2によれば、ロ号物件及びハ号物件の各相当品1個当たりについて、原材料費は、それぞれ2942.00円及び4550.00円、加工費は、それぞれ245.24円及び343.33円であると認められる。また、運送費は、乙第33号証の2によって認められる原告全製品の売上高(平成9年7月21日から平成10年7月20日までのもの)1円当たりの運送費(2億0408万1632円÷26億9684万7639円=0.076円)を、上記(ア)の蓋付枠部分の価格相当額に乗じることによって、それぞれ827.69円及び1130.45円であると算出するのが相当である。光熱費並びに控除すべき営業経費及び管理費については、
これを直接算出するに足りる証拠は存在しないが、弁論の全趣旨によれば、上記(ア)の蓋付枠部分の価格相当額の5パーセントに相当する金額を、光熱費並びに営業経費及び管理費として控除すべき金額と認めるのが相当である。これによれば、
当該控除すべき経費は、それぞれ544.53円及び743.72円と認められる。原告Aに対して支払うべき実施料としては、実施料率を売上高の3パーセントと認めるのが相当であることは前記7(2)イ(イ)のとおりであり、これによれば、実施料相当額は、それぞれ326.72円及び446.23円であると認められる。
以上によれば、原告会社がロ号物件及びハ号物件の各相当品を販売することによって得られる1個当たりの利益の額は、以下の計算のとおりとなる。
ロ号物件相当品について 10,890.67-(2,942.00+245.24+ 827.69+544.53+326.72) =6,004.49円≒6,004円(1円未満四捨五入) ハ号物件相当品について 14,874.39-(4,550.00+343.33+1,130.45+743.72+446.23) =7,660.66円≒7,661円(1円未満四捨五入) (ウ) なお、被告は、本件訂正考案の製品販売における利益形成への寄与率は極めて低く、販売利益の5パーセントを超えるものではないと主張するが、本件訂正考案の内容から、直ちに被告の上記主張を採用することはできず、他に被告の上記主張を採用するだけの事情も証拠もないから、被告の上記主張は採用することができない。
(エ) 被告によるロ号物件及びハ号物件の販売数は、前記6で判示したとおり、ロ号物件が2万0914個、ハ号物件が3495個である。
したがって、実用新案法29条1項に基づき、原告会社が被った損害額は、次のとおり推定される。
ロ号物件について 6,004円×20,914個=125,567,656円 ハ号物件について 7,661円× 3,495個= 26,775,195円 小計 152,342,851円 (2) 原告会社の予備的主張(弁護士及び弁理士費用を除く)について 原告会社は、予備的に、原告会社が専用実施権の設定を受けた前日である平成11年8月8日までの間に被告がロ号物件及びハ号物件を販売したことにより被った損害について、実用新案法29条2項による損害の推定を主張し、被告におけるロ号物件及びハ号物件の販売による利益率は、原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品の利益率を下回らないと主張する。
しかしながら、前記(1)アのとおり、平成8年7月21日から平成12年7月20日までの各年度の原告会社における製品の総製造費用は、13億円台から16億円台の間であり、平成9年6月26日から平成12年6月25日までの各年度の被告における製品の総製造費用は、6億円台から7億円台の間であることが認められるところ、これらからうかがうことができる原告会社と被告の企業規模は相当に異なっている。また、前記「前提となる事実」(4)のとおり、被告は、ロ号物件及びハ号物件の蓋付枠部分の製造を外部の製造業者に発注しているのに対し、原告会社は、ロ号物件及びハ号物件の各相当品の蓋付枠部分も自社で製造している(乙第33号証の2)といった、製品の製造形態においても相当に相違がある。
これらの事情に照らすと、被告におけるロ号物件及びハ号物件の販売による利益率が、原告会社におけるロ号物件及びハ号物件の各相当品の利益率を下回らないとまで認めることができず、他に原告会社の主張に沿う証拠も存在しない。
また、上記(1)のとおり、本件においては実用新案法29条1項による原告会社の損害推定が可能であること、原告会社において、被告の利益額や利益率について、積極的な立証をしていないこと(なお、平成13年6月29日に原告らが申し立てた文書提出命令申立てにおいては、当初は、被告における利益額も証すべき事実に含まれていたが、平成15年4月4日に原告らが提出した「文書提出命令の申立書の訂正申立て」と題する書面により、被告における利益額は証すべき事実から削除されている。)に照らせば、裁判所において、被告におけるロ号物件及びハ号物件の販売による利益額として相当額を認定し、これをもって実用新案法29条2項により推定される原告会社の損害額と推定することも相当ではない。
よって、原告会社の予備的主張については、これ以上の判断をしない。
(3) 弁理士及び弁護士費用 原告会社が被った損害額のうち、弁護士及び弁理士費用相当分としては、
本件事案の難易、上記認容額、その他諸般の事情を勘案すると、原告会社が主張する900万円をもって相当と認める。
(4) 合計 1億6134万2851円 9 結論 以上のとおりであるから、原告らの請求は、主文第1項ないし第4項掲記の限度で理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 守山修生