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関連審決 無効2002-40003
関連ワード 均等 /  考案 /  構造 /  組合せ /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  きわめて容易 /  削除 /  請求項 /  容易に想到 /  設計変更 /  特定 /  明細書 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 473号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士 山口朔生,河西祐一,横山正治
被告 応研精工株式会社
訴訟代理人弁理士 山川政樹,黒川弘朗,紺野正幸,西山修,山川茂樹
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2002-40003号事件について平成15年7月18日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件考案の実用新案権者である原告が,被告請求に係る無効審判において,本件考案についての実用新案登録を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件実用新案 実用新案権者:X(原告) 考案の名称:「マイクロポンプ」 出願日:平成12年12月21日(実願2000-8989号) 設定登録日:平成13年4月11日 実用新案登録番号:第3078480号 (2) 本件手続 審判請求日:平成14年11月27日(無効2002-40003号。請求項1ないし4に係る考案について請求。) 実用新案登録訂正:平成15年3月26日(請求項1,2を削除。) 審決日:平成15年7月18日 審決の結論:「実用新案登録第3078480号の請求項3,4に係る考案についての実用新案登録を無効とする。」 審決謄本送達日:平成15年7月30日(原告に対し。出訴期間90日附加。) 2 本件考案の要旨(以下,請求項番号に対応して,それぞれの考案を「本件考案3」などという。請求項1,2は上記のとおり削除されたが,請求項1は,請求項3,4で引用されているので,便宜上記載し,請求項2は記載しない。) 【請求項1】モーターユニットと,圧縮部分と,気体集中部分とを備え,前記モーターユニットはモーター本体,ベース及び回転部分を有し,前記モーター本体は先端部に設けられているカム軸が前記ベースを貫通し前記回転部分に接合され,前記回転部分は偏心孔が形成され,側面に複数の空気吸込口が形成され,前記圧縮部分は圧縮金,リティナー及び圧縮室を有し,前記圧縮金は中心部から延伸し形成されている連動杆が偏移角度で前記偏心孔に挿入され,前記圧縮室は気嚢,戻り止め金及びパッキングを有し,前記気嚢は後方にほぞが形成され,前記ほぞは前記リティナーを貫通し,前記圧縮金に形成されているほぞ穴に接続され,前記リティナーの前記戻り止め金と対応する位置には第1逆止め弁が設置され,前記気体集中部分は気体集中室,前記気嚢に対応する位置に空気通路,エアガイダンス及び外側部に気体を送出する気体送出孔が形成され,前記空気通路の外側部にはガスケットである第2逆止め弁が設置され,前記第1逆止め弁は前記気嚢に接続されている前記エアガイダンスに接続され,前記連動杆は前記偏心孔に挿入され,前記連動杆は円周回転運動され,前記連動杆の偏心回転運動により前記圧縮金は圧迫され,前記圧縮金により前記気嚢が持続的に圧迫され,発生した気体が前記気体集中部分に送り込まれるよう組み合わされ,前記圧縮金により前記気嚢が圧縮されると,内部気圧により前記第1逆止め弁は自動的に閉塞され,前記第2逆止め弁は前記空気通路から押出された気体の推力により開かれ,前記気嚢が元の位置に戻されると,前記第1逆止め弁は開かれて空気が前記エアガイダンスを介して前記気嚢に吸い込まれ,前記第2逆止め弁は内部気圧により密閉されるよう組み合わされ,前記気嚢の持続的な圧迫により前記空気通路を介して気体が導入されると,前記空気集中室の内部の気体は平均的に前記気体送出孔から噴出されるよう形成され,圧縮気体の速度を増加し外部環境の要求を満たすため前記圧縮部分に前記気嚢は角度及び位置が均等に配置されている設置されていることを特徴とするマイクロポンプ。
請求項3】前記連動杆は,前記圧縮金に連結されて前記偏心孔に挿入され,前記連動杆の偏心回転運動により前記圧縮金は圧迫され,前記圧縮金は葉片が等しく上方向に所定の角度で配置されている三つ葉形状に形成され,前記圧縮金の円周回転運動により前記気嚢は持続的に圧迫され,前記気体集中部分は発生された気体が送り込まれるよう組み合わされ,小さい動力で作動されるよう前記偏心孔の内部にはスチールボールが設置されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロポンプ。
請求項4】挟持手段をさらに備え,前記挟持手段は杆体から相対した方向に延伸する2個のフックであり,前記フックの挟持力により緊密に結合されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロポンプ。
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,引用例として,特開平6-2665号公報(審判甲1,本訴乙1。
以下「刊行物1」といい,これに記載された考案を「刊行物1考案」という。),特開平11-173272号公報(審判甲2,本訴乙2。以下「刊行物2」といい,これに記載された考案を「刊行物2考案」という。)及び米国特許第4801249号明細書(審判甲3,本訴乙3。以下「刊行物3」といい,これに記載された考案を「刊行物3考案」という。)の各記載内容を認定した上,本件考案3と刊行物2考案とを対比し,一致点を次のとおり認定した。
「刊行物2考案の『小型直流モータ1』は,その機能からみて,本件考案3の『モーター本体』に相当する。以下同様に,『ケース3』は『ベース』に,『カラー5』は『回転部分』に,『出力軸2』は『カム軸』に,『駆動軸6』は『連動杆』に,『駆動体7』は『圧縮金』に,『シリンダー部11』は『リティナー』に,『ポンプ室28』は『圧縮室』に,『ダイアフラム部15』は『気嚢』に,『前記シリンダー部11と蓋体20とに挟まれたダイアフラム本体14部分』は『パッキング』に,『頭部17』は『ほぞ』に,『穴8』は『ほぞ穴』に,『共通室29』は『気体集中室(空気集中室)』に,『排気孔25』は『気体送出孔』に,『スチールボール10』は『スチールボール』に,『小型ポンプ』は『マイクロポンプ』に,それぞれ相当する。 してみると,両者は,『モーターユニットと,圧縮部分と,気体集中部分とを備え,前記モーターユニットはモーター本体,ベース及び回転部分を有し,前記モーター本体は先端部に設けられているカム軸が前記ベースを貫通し前記回転部分に接合され,前記圧縮部分は圧縮金,リティナー及び圧縮室を有し,前記圧縮室は気嚢及びパッキングを有し,前記気嚢は後方にほぞが形成され,前記ほぞは前記リティナーを貫通し,前記圧縮金に形成されているほぞ穴に接続され,前記気体集中部分は気体集中室及び外側部に気体を送出する気体送出孔が形成され,前記連動杆は円周回転運動され,前記連動杆の偏心回転運動により前記圧縮金は圧迫され,前記圧縮金により前記気嚢が持続的に圧迫され,発生した気体が前記気体集中部分に送り込まれるよう組み合わされ,前記気嚢の持続的な圧迫により気体が導入されると,前記空気集中室の内部の気体は平均的に前記気体送出孔から噴出されるよう形成され,圧縮気体の速度を増加し外部環境の要求を満たすため前記圧縮部分に前記気嚢は角度及び位置が均等に配置されている設置されており,前記連動杆の偏心回転運動により前記圧縮金は圧迫され,前記圧縮金は上方向に所定の角度で配置され,前記圧縮金の円周回転運動により前記気嚢は持続的に圧迫され,前記気体集中部分は発生された気体が送り込まれるよう組み合わされているマイクロポンプ。』の点で一致する。」 (2) 審決は,本件考案3と刊行物2考案との相違点を次のとおり認定した。
「〔相違点1〕 本件考案3においては,『前記回転部分は偏心孔が形成され,前記圧縮金は中心部から延伸し形成されている連動杆が偏移角度で前記偏心孔に挿入され,小さい動力で作動されるよう前記偏心孔の内部にはスチールボールが設置されている』のに対して,刊行物2考案においては,『前記回転部分には前記カム軸に対して所定角度傾斜し,かつその先端が前記カム軸の中心軸上に存在するように連動杆が固定され,前記圧縮金の中心には筒形の支持部9が形成され,前記回転部分から延伸し形成されている連動杆が偏移角度で前記筒形の支持部9に挿入され,小さい動力で作動されるよう前記筒形の支持部9の内部にはスチールボールが設置されている』点。」 「〔相違点2〕 本件考案3においては,『前記モーターユニットは側面に複数の空気吸込口が形成され,前記圧縮室は気嚢,戻り止め金及びパッキングを有し,前記リティナーの前記戻り止め金と対応する位置には第1逆止め弁が設置され,前記気体集中部分は気体集中室,前記気嚢に対応する位置に空気通路及びエアガイダンスが形成され,前記空気通路の外側部にはガスケットである第2逆止め弁が設置され,前記第1逆止め弁は前記気嚢に接続されている前記エアガイダンスに接続され,前記圧縮金により前記気嚢が圧縮されると,内部気圧により前記第1逆止め弁は自動的に閉塞され,前記第2逆止め弁は前記空気通路から押出された気体の推力により開かれ,前記気嚢が元の位置に戻されると,前記第1逆止め弁は開かれて空気が前記エアガイダンスを介して前記気嚢に吸い込まれ,前記第2逆止め弁は内部気圧により密閉されるよう組み合わされ,前記気嚢の持続的な圧迫により前記空気通路を介して気体が導入されると,前記空気集中室の内部の気体は平均的に前記気体送出孔から噴出されるよう形成される』のに対して,刊行物2考案においては,『前記圧縮室は気嚢及びパッキングを有し,前記気体集中部分は気体集中室,吸気孔23及び溝部30が形成され,前記吸気孔23の内側部には弁体31が設置されて第1逆止め弁の用に供し,前記溝部31には前記ダイアフラム本体14に一体に構成した弁体部18が設置されて第2逆止め弁の用に供し,前記圧縮金により前記気嚢が圧縮されると,内部気圧により前記弁体31は自動的に閉塞され,前記弁体部18は前記溝部30から押出された気体の推力により開かれ,前記気嚢が元の位置に戻されると,前記弁体31は開かれて空気が前記吸気孔23を介して前記気嚢に吸い込まれ,前記弁体部18は内部気圧により密閉されるよう組み合わされ,前記気嚢の持続的な圧迫により前記溝部30を介して気体が導入されると,前記空気集中室の内部の気体は平均的に前記気体送出孔から噴出されるよう形成される』点。」 「〔相違点3〕 本件考案3においては,『前記圧縮金は葉片が等しく上方向に所定の角度で配置されている三つ葉形状に形成される』のに対して,刊行物2考案においては,『前記圧縮金は上方向に所定の角度で配置される』点。」 (3) 審決は,上記相違点1について,次のとおり判断した。
「軸を備えた部材とこの軸が挿入される孔を備えた部材同士を連結する場合,一方の部材に軸を設ければ他方の部材に孔を設けなければならないことは必然の事項であり,また,どちらの部材に軸ないし孔を設けるかは,当業者が普通に行う二者択一事項にすぎない。
してみると,刊行物2考案において,連動杆の一端を横桁に設けた筒形の支持部9に固定し,他端を回転部に設けた孔に挿入するようにして上記相違点1に係る本件考案3のような構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものと認められる。
また,このとき,スチールボールが回転部に設けた孔の内部に設置されることは,その機能に照らして必然の事項である。」 (4) 審決は,上記相違点2について,次のとおり判断した。
(a)「刊行物1考案の『モータ1』は,その機能からみて,本件考案3の『モーター本体』に相当する。以下同様に,『モータ取付台4』は『ベース』に,『駆動軸3』は『連動杆』に,『出力軸2』は『カム軸』に,『吸入口4a』は『空気吸込口』に,『作動ロッド5』は『圧縮金』に,『ケース6』は『リティナー』に,『空気室9』は『圧縮室』に,『ダイアフラム部7a』は『気嚢』に,『吸入弁7e』は『戻り止め金』に,『前記ケース6と基台8とに挟まれたダイアフラム体7部分』は『パッキング』に,『頭部7d』は『ほぞ』に,『取付孔5b』は『ほぞ穴』に,『通気口6b』は『第1逆止め弁』に,『排気孔8b』は『空気通路』に,『吸入路8c』は『エアガイダンス』に,『排気口12a』は『気体送出孔』に,『排気弁11』は『ガスケットである第2逆止め弁』に,『小型ポンプ』は『マイクロポンプ』に,それぞれ相当する。」 (b)「してみると,刊行物1には,『モーターユニットと,圧縮部分と,気体集中部分とを備え,前記モーターユニットはモーター本体,ベース及び連動杆を有し,前記モーター本体は先端部に設けられているカム軸が前記ベースを貫通し前記連動杆に接合され,前記連動杆は前記カム軸に対して偏心して取付けられ,側面に複数の空気吸込口が形成され,前記圧縮部分は圧縮金,リティナー及び圧縮室を有し,前記圧縮金の中心には結合穴5aが形成され,前記連動杆は前記圧縮金の前記結合穴5aに挿入され,前記圧縮室は気嚢,戻り止め金及びパッキングを有し,前記気嚢は後方にほぞが形成され,前記ほぞは前記リティナーを貫通し,前記圧縮金に形成されているほぞ穴に接続され,前記リティナーの前記戻り止め金と対応する位置には第1逆止め弁が設置され,前記気体集中部分は気体集中室,前記気嚢に対応する位置に空気通路,エアガイダンス及び外側部に気体を送出する気体送出孔が形成され,前記空気通路の外側部にはガスケットである第2逆止め弁が設置され,前記第1逆止め弁は前記気嚢に接続されている前記エアガイダンスに接続され,前記連動杆は前記結合穴5aに挿入され,前記連動杆は円周回転運動され,前記連動杆の偏心回転運動により前記圧縮金は圧迫され,前記圧縮金により前記気嚢が持続的に圧迫され,発生した気体が前記気体集中部分に送り込まれるよう組み合わされ,前記圧縮金により前記気嚢が圧縮されると,内部気圧により前記第1逆止め弁は自動的に閉塞され,前記第2逆止め弁は前記空気通路から押出された気体の推力により開かれ,前記気嚢が元の位置に戻されると,前記第1逆止め弁は開かれて空気が前記エアガイダンスを介して前記気嚢に吸い込まれ,前記第2逆止め弁は内部気圧により密閉されるよう組み合わされ,前記気嚢の持続的な圧迫により前記空気通路を介して気体が導入されると,前記空気集中室の内部の気体は平均的に前記気体送出孔から噴出されるよう形成され,圧縮気体の速度を増加し外部環境の要求を満たすため前記圧縮部分に前記気嚢は角度及び位置が均等に配置されている設置されており,前記連動杆は,前記カム軸に連結されて前記結合穴5aに挿入され,前記連動杆の偏心回転運動により前記圧縮金は圧迫され,前記圧縮金の円周回転運動により前記気嚢は持続的に圧迫され,前記気体集中部分は発生された気体が送り込まれるよう組み合わされているマイクロポンプ。』の考案が記載されていると認められる。」 (c)「そうすると,刊行物1考案は,相違点2に係る本件考案3を特定する事項『前記モーターユニットは側面に複数の空気吸込口が形成され,前記圧縮室は気嚢,戻り止め金及びパッキングを有し,前記リティナーの前記戻り止め金と対応する位置には第1逆止め弁が設置され,前記気体集中部分は気体集中室,前記気嚢に対応する位置に空気通路及びエアガイダンスが形成され,前記空気通路の外側部にはガスケットである第2逆止め弁が設置され,前記第1逆止め弁は前記気嚢に接続されている前記エアガイダンスに接続され,前記圧縮金により前記気嚢が圧縮されると,内部気圧により前記第1逆止め弁は自動的に閉塞され,前記第2逆止め弁は前記空気通路から押出された気体の推力により開かれ,前記気嚢が元の位置に戻されると,前記第1逆止め弁は開かれて空気が前記エアガイダンスを介して前記気嚢に吸い込まれ,前記第2逆止め弁は内部気圧により密閉されるよう組み合わされ,前記気嚢の持続的な圧迫により前記空気通路を介して気体が導入されると,前記空気集中室の内部の気体は平均的に前記気体送出孔から噴出されるよう形成される』の点を具備している。」 (d)「そして,刊行物2考案と刊行物1考案とは,『マイクロポンプ』という同一技術分野に属するものであるから,両考案を組み合わせることに格別の困難性はない。」 (5) 審決は,上記相違点3について,次のとおり判断した。
「刊行物3考案の『駆動軸16』は,その機能からみて,本件考案3の『連動杆』に相当する。以下同様に,『カラー15』は『回転部分』に,『駆動体17』は『圧縮金』に,『ダイアフラム部25』は『気嚢』に,『スチールボール20』は『スチールボール』に,『小型ポンプ』は『マイクロポンプ』に,それぞれ相当する。
してみると,刊行物3には,『連動杆は,回転部分に連結されて圧縮金の筒形の支持部19に挿入され,前記連動杆の偏心回転運動により前記圧縮金は圧迫され,前記圧縮金は葉片が等しく上方向に所定の角度で配置されている三つ葉形状に形成され,前記圧縮金の円周回転運動により前記気嚢は持続的に圧迫され,気体集中部分は発生された気体が送り込まれるよう組み合わされ,小さい動力で作動されるよう前記筒形の支持部19の内部にはスチールボールが設置されているマイクロポンプ。』の考案が記載されていると認められる。 そうすると,刊行物3考案は,相違点3に係る本件考案3を特定する事項『前記圧縮金は葉片が等しく上方向に所定の角度で配置されている三つ葉形状に形成される』の点を具備している。
そして,刊行物2考案と刊行物3考案とは,『マイクロポンプ』という同一技術分野に属するから,両考案を組み合わせることに格別の困難性はない。
なお,本件考案3の効果は,刊行物1考案ないし刊行物3考案から当業者が予測し得る程度のものである。」 (6) 審決は,本件考案4についても,本件考案3と同様に,刊行物2考案との対比をし,一致点の認定を経た上で,相違点1及び相違点2を認定した。
そして,相違点1については,刊行物2考案において,相違点1に係る本件考案4のような構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないと判断した。
審決は,相違点2については,刊行物1考案の内容を認定した上,刊行物1考案は,相違点2に係る本件考案4を特定する事項の点を具備していると認定した。その上で,相違点2につき,次のとおり判断した。
「刊行物2考案と刊行物1考案とは,『マイクロポンプ』という同一技術分野に属するものであるから,両考案を組み合わせることに格別の困難性はない。
なお,本件考案4の効果は,刊行物1考案,刊行物2考案から当業者が予測し得る程度のものである。」 (7) 審決は,次のとおり結論付けた。
「本件考案3,4は,刊行物1考案ないし刊行物3考案に基いて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから,本件考案3,4に係る実用新案登録は,実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものであり,無効とすべきものである。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(本件考案3と刊行物2考案との相違点2についての判断の誤り) 審決は,前掲第2,3(4)(d)のとおり,「刊行物2考案と刊行物1考案とは,『マイクロポンプ』という同一技術分野に属するものであるから,両考案を組み合わせることに格別の困難性はない。」と判断したが,誤りである。
(1) 審決では,刊行物2考案と刊行物1考案とは「マイクロポンプ」という同一技術分野に属するものであるから,両考案を組み合わせることに格別な困難性はないと判断した。しかし,「マイクロポンプ」とはポンプの寸法,用途上での分類であって,構成上の分類ではない。
刊行物1考案のポンプの作動ロッドは,「モーターの径方向に往復運動する」ものであり,本件考案3や刊行物2考案のような上下運動をしない。
往復動で吸気,排気するポンプと,上下運動で吸気,排気するポンプとでは,大きな機能上の相違がある。すなわち,「往復型」では気嚢の数はその両端に設ける2箇所に限られ,排気弁11の数も2箇所に限られる。往復動で吸気,排気を行うことから,2工程以上の吸気,排気を行うことはできない。一方,傘型や円盤の軸を傾斜させ,この軸を回転させることによって行う上下運動では,3個以上の気嚢を圧迫して吸気,排気を行うことができる。
このように,吸気,排気が2箇所だけに限定されるか,あるいは3箇所以上に設けることができるか,基本的な相違があるのだから,刊行物1考案のポンプ(往復動)と刊行物2考案のポンプ(上下運動)とは,実用新案のレベルであれば,決して同一の分野に属するものということはできない。
そうであれば,刊行物2考案と刊行物1考案とを組み合わせることには,格別な困難性が存在し,本件考案3には,十分な考案性が存在するというべきである。
(2) 本件考案3が,特許よりもレベルの低い実用新案であることも,技術分野の認定に際して十分に留意されるべきである。
実用新案法3条では,「きわめて容易にすることができた」場合に限って実用新案登録を受けることができないと規定している。これを特許法と差がなく扱うと,特許法とは別に実用新案法を制定した意味が全く失われる。
審決の判断は,技術分野を特許法の判断基準なみに広く認定しているという点で,両法を混同した誤った判断である。
2 取消事由2(本件考案4についての相違点の判断の誤り) 審決は,前掲第2,3(6)のように,本件考案4と刊行物2考案との相違点2についても,「刊行物2考案と刊行物1考案とは,『マイクロポンプ』という同一技術分野に属するものであるから,両考案を組み合わせることに格別の困難性はない。」と判断したが,本件考案3についてと同様に,誤りである。
本件考案4は,本件考案3にさらに「挟持手段」を備えたものであり,当然に登録されるべきである。
被告の主張の要点
1 審決は,刊行物1中には刊行物2に記載されたポンプが図示され説明もなされている点,両刊行物の国際特許分類が同一である点,考案の利用分野を同一にしている点,考案の構成及び作用効果が同じである点などから,当業者にとって自明な事項であるため,「マイクロポンプ」という用語をもって,技術分野の同一性を端的に表現したものであって,審決の判断に誤りはない。
刊行物2考案のポンプと刊行物1考案のポンプとは技術分野が異なることを論拠とする原告の主張は妥当性を欠く。
2 本件考案4についても,上記と同様に,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件考案3と刊行物2考案との相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件考案3に関して,相違点2についての判断の誤りのみを審決取消事由として主張するものであるところ,相違点2に係る本件考案3を特定する事項を刊行物1考案が具備していること自体は認めて争わず,専ら,審決の「刊行物2考案と刊行物1考案とは,『マイクロポンプ』という同一技術分野に属するものであるから,両考案を組み合わせることに格別の困難性はない。」とした判断を争うものである(当審第1回弁論準備手続調書)。そこで,この点について検討する。
(2) 審決が刊行物2考案及び刊行物1考案の各構成について認定するところ(前者が10頁34行〜11頁36行,後者が7頁11行〜8頁8行)は,証拠(乙1,2)に照らして是認し得るものであり,原告もこの認定を争うものではない。
そこで,これらの構成に照らせば,刊行物2考案と刊行物1考案は,いずれも,モーターコンポーネント,圧縮部,気体集中部から構成されており,小型ポンプの全体的な構造を同じくするものと認められる。
さらに,上記認定事実によれば,刊行物2考案は,「駆動軸6は前記筒形の支持部9に挿入され,前記駆動軸6は円周回転運動され,前記駆動軸6の偏心回転運動により前記駆動体7は圧迫され,前記駆動体7により前記ダイアフラム部15が持続的に圧迫され,発生した気体が前記気体集中部分に送り込まれるよう組み合わされ,前記駆動体7により前記ダイアフラム部15が圧縮されると,内部気圧により前記弁体31は自動的に閉塞され,前記弁体部18は前記溝部30から押出された気体の推力により開かれ,前記ダイアフラム部15が元の位置に戻されると,前記弁体31は開かれて空気が前記吸気孔23を介して前記ダイアフラム部15に吸い込まれ,前記弁体部18は内部気圧により密閉されるよう組み合わされ,前記ダイアフラム部15の持続的な圧迫により前記溝部30を介して気体が導入されると,前記共通室29の内部の気体は平均的に前記排気孔25から噴出される」ように作用するものと認められる。
同様に,刊行物1考案は,「駆動軸3は円周回転運動され,前記駆動軸3の偏心回転運動により前記作動ロッド5は圧迫され,前記作動ロッド5により前記ダイアフラム部7aが持続的に圧迫され,発生した気体が前記気体集中部分に送り込まれるよう組み合わされ,前記作動ロッド5により前記ダイアフラム部7aが圧縮されると,内部気圧により前記通気口6bは自動的に閉塞され,前記排気弁11は前記排気孔8bから押出された気体の推力により開かれ,前記ダイアフラム部7aが元の位置に戻されると,前記通気口6bは開かれて空気が前記吸入路8cを介して前記ダイアフラム部7aに吸い込まれ,前記排気弁11は内部気圧により密閉されるよう組み合わされ,前記ダイアフラム部7aの持続的な圧迫により前記排気孔8bを介して気体が導入されると,前記空気集中室の内部の気体は平均的に前記排気口12aから噴出される」ように作用するものと認められる。
そうすると,刊行物2考案と刊行物1考案は,いずれも,ダイアフラム部を圧迫することにより,発生した気体を気体集中部に送り込み,ダイアフラム部が元の状態に復帰した際,空気をダイアフラム部の中に吸入するという作動を持続的に行わせるものであり,ダイアフラムの圧迫と復帰とは,駆動軸の偏心回転運動を,伝達手段を介して,ダイアフラムの往復運動に変換することによって実現するものと認められる。
以上によれば,刊行物2考案と刊行物1考案は,いずれも,ダイアフラムの圧迫と復帰によって空気を送り出すものであり,ダイアフラムが往復動する点で,ポンプ部の基本構造(作動原理)を同じくするものであると認められる。
(3) 次に,刊行物2考案と刊行物1考案とが相違する点についてみておく。
まず,駆動軸の偏心回転運動をダイアフラムに伝達するための手段が,刊行物2考案においては駆動体7であるのに対し,刊行物1考案においては作動ロッド5である点で,両者が相違していることが認められる。すなわち,刊行物2考案における駆動体7は,モーターの出力軸2の方向である上下方向において,穴8のある周辺部が交互に上下動してダイアフラムの駆動部16を往復動させるものであり,刊行物1考案における作動ロッド5は,モータ1の出力軸2と垂直な面内で円運動をして,ダイアフラム部7aの駆動部7cに,作動ロッド5と同じ円運動を行なわせるものである。よって,モーターの出力軸の方向にダイアフラムを往復動させるか,出力軸と垂直の方向にダイアフラムを往復動させるかの相違が認められる。
また,気体の送り込みについて,刊行物2考案においては,溝(溝部30)を介してなされるのに対し,刊行物1考案においては,孔(排気孔8b)を介してなされること,また,気体の吸入について,刊行物2考案においては,ダイアフラム部の中へ,吸気孔23から直接なされるのに対し,刊行物1考案においては,通気口6bから吸入路8cを介してなされる点で相違していることも認められる。
(4) 原告は,刊行物1考案と刊行物2考案とには,吸気,排気が2箇所だけに限定されるか,あるいは3箇所以上に設けることができるか,基本的な相違があると主張する。
しかし,刊行物1(乙1)には,次のような記載がある。
「ダイアフラム体7をブロック化すると複数の基本ダイアフラム体7′を隣合わせるようにして配置することで所定の数の空気室9を配置することができ,ポンプ容量を自在に設定することができる。ここで,基本ダイアフラム体7′を設置する場合には出力軸2を中心に所定角度(360/気筒数)ずつずらして複数隣合うように設置することで各空気室9を作動させるようにダイアフラム体7を複数個配置することができるものである。つまり,3個の基本ダイアフラム体7′を設置する場合には出力軸2を中心に120度間隔で基本ダイアフラム体7′を設置するようにし,4個の基本ダイアフラム体7′を設置する場合には出力軸2を中心に90度間隔で基本ダイアフラム体7′を設置することで複数個の基本ダイアフラム体7′を設置することができるものである。」(段落【0031】) 「複数のダイアフラム体7′を配置するに伴って複数の基本ダイアフラム体7′に対応して作動ロッド5も複数の取付孔5bを有する物を容易(判決注:「用意」の誤記と認める。)する必要がある。」(段落【0032】) これらの記載によれば,刊行物1考案においても,複数個の基本ダイアフラム体7′と,複数の取付孔5bを有する作動ロッド5を用意すれば,吸排気部を3箇所以上に設置することができることが認められる。よって,吸気,排気部の設置個数において基本的な相違があるということはできない。
また,刊行物1(乙1)には,次のような記載もある。
「5は略棒状の作動ロッドであり,中心には駆動軸3と結合するための結合穴5aが設けられ,両端には後述するダイアフラム体7を該作動ロッド5に取付けるための取付孔5bが設けられている。」(段落【0014】) 「駆動部7cの先端には細い頸部を介して形成された頭部7dが設けられ,作動ロッド5の取付孔5bを貫通してロッド表面に突出して取着され,これにより駆動部7cは作動ロッド5に係合保持されている。」(段落【0015】) 「モータ1に通電されて出力軸2が回転すると,駆動軸3も回転し,これにより作動ロッド5がモータ1の出力軸2と垂直面内で円運動をしてダイアフラム部7aの駆動部7cは作動ロッド5と同じ円運動を行なう。この時,モータ1の出力軸2から見て,作動ロッド5の先端との距離が拡大する工程(円運動の半周),つまり,作動ロッド5先端が出力軸2に対して径方向外側に遠ざけられるように運動するときは駆動部7cも同様に径方向外側に変位させられ,空気室9の容積はダイアフラムの斜面を有する面のみ変位可能に構成されているため,空気室9aは圧縮されて容積が減少し,一方,空気室9bは膨張させられて容積は増大するが,空気室9aの容積の方が空気室9bの容積よりも大きいために,全体として空気室9の容積は減少するものである。次に作動ロッド5の先端とモータ1の出力軸2との距離が減少する工程(円運動の残り半周),つまり,作動ロッド5が出力軸2に対して径方向内側に近づくように運動するときは駆動部7cも同様に径方向内側に変位させられ,全体として空気室9の容積は増大するものである。」(段落【0019】) 「作動ロッド5が駆動軸3と一緒に回転しながら空気室9を圧縮・膨張させることでポンプ作用を行なうものであるが,駆動軸3が結合されることとなる結合穴5aは真円状に形成されているために駆動軸3と共に移動する作動ロッド5は駆動軸3に連動して回転運動を行なうようになっており,空気室9を圧縮・膨張させるための往復運動以外の不要な方向にもダイアフラム部7aを動かしており,」(段落【0027】) これらの記載からすると,作動ロッド5の結合穴5aに結合した駆動軸3が出力軸2の周りに円運動すると,作動ロッド5は,出力軸2と垂直な面内において,ダイアフラム部7aの駆動部7cとの係合姿勢を保ったまま,駆動軸3の円運動にならって円運動し,その結果,作動ロッド5の先端と係合しているダイアフラム部7aの駆動部7cも円運動を行うことになると認められるから,3個以上の基本ダイアフラム体7′と,複数の取付孔5bを有する作動ロッド5を用意した場合においても,作動ロッド5に係合保持された各駆動部7cが円運動を行うことで,ダイアフラム部が駆動されることは明かである。
(5) 以上によれば,刊行物2考案と刊行物1考案とは,ともに,空気用の小型ポンプであって,全体構造も同じくし,また,ポンプ部の基本構造(作動原理)を同じくしているものである。両者が異なっているのは,ポンプ部におけるダイアフラムの駆動部材と,ポンプ部の吸排気構造という,ポンプ部の周辺構造であって,ポンプ部の基本構造(作動原理)ではない。そうすると,刊行物2考案と刊行物1考案の技術分野は,異なっているということはできないのであって,両者が同一の技術分野に属するとした審決の判断は,是認し得るものである。
(6) なお,原告は,刊行物1考案のポンプ(往復動)と刊行物2考案のポンプ(上下運動)とは,実用新案のレベルであれば決して同一の分野に属するものということはできないと主張し,あるいは,技術分野を特許法の判断基準なみに広く認定している審決は誤りであると主張し,本件が実用新案であることを強調する。
しかし,上記のとおり,刊行物2考案と刊行物1考案とは,両考案の目的,構成,効果等を総合的に勘案して,同一の技術分野に属するものと認められるのであって,実用新案であるからといって,直ちに上記認定を覆すべきことにはならない。
(7) 刊行物2考案と刊行物1考案とは,同一の技術分野に属するものであることは,既に判示したとおりである。そして,審決は,本件考案3と刊行物2考案とが同一技術分野に属することを前提に,刊行物2考案を主引用例として,本件考案3と対比判断しているところ,原告は,この点自体を争うものではない。そして,前記のとおり,相違点2に係る本件考案3を特定する事項を刊行物1考案が具備していること自体も,原告は認めて争わない。そうすると,当業者であれば,刊行物2考案と刊行物1考案組合せを検討することに,何ら困難な事情は存しないというべきである。
そして,本件考案3と刊行物2考案との相違点2は,ポンプ部の吸排気構造に関する相違であると認められるところ,その構成は,刊行物1考案がそのまま備えているものである上,刊行物2考案と刊行物1考案のいずれの吸排気構造を採用するかは,当業者が適宜設計変更し得るものともいうべきであるから,相違点2は,当業者が極めて容易に想到し得たというべきである。
したがって,審決の相違点2についての判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(本件考案4についての相違点の判断の誤り)について 審決は,本件考案4と刊行物2考案との相違点2についても,「刊行物2考案と刊行物1考案とは,『マイクロポンプ』という同一技術分野に属するものであるから,両考案を組み合わせることに格別の困難性はない。」と判断したが,原告は,本件考案3についてと同様に,この点の誤りを主張する。しかし,審決の上記判断に誤りがないことは,前判示のとおりであるから,原告の主張は,採用し得ない。
また,本件考案4についての審決の説示(その要点は前掲第2,3(6))を検討しても,その判断に誤りがあるとはいえない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文